14
俺は、思わず下唇を噛みつつも、悪魔の言葉を待った。
「…この契約は、どちらかが死に至った場合、1が守れなくなるので、存在しないものとなる。」
…え?
それだけ?
俺は驚き、まじまじと悪魔を見る。
この内容の何処に悲しんだり、不安になったりする要素があると言うのだ。
悪魔は、気まずそうに俺から目を逸らした。
体は、小さく小刻みに震えているようだった。
「…ごめん、なさい。」
悪魔は、口から零れ落ちるようにポツリとそう言った。
俺は、何故謝られているのかがわからない。
呆気に取られて、ただ悪魔から目を離せずにいた。
「…結婚とか、悪魔になるとか、一方的に押し付けるつもりは無くて。……ただ、承諾してくれたら、嬉しいなって、それだけ…で。」
悪魔の目からは大粒の涙が溢れ出していた。
俺は、不謹慎にも悪魔の泣く姿の美しさに見惚れた。
悪魔は、涙を拭いもせずに、話し続ける。
「……嘘。ごめん。本当は、違う。俺は、押し付けるつもりだったんだ。キミに余裕が無いことくらい、見ればわかった。……だから、キミを助けるだけで良かったのに、余計な事まで書いたんだ。」
ここで、何を言えばいいのか。
何を言うのが正解なのか。
わからない俺は、黙っている事しか出来ない。
「でも、無理矢理俺なんかと結婚させられて、嫌な思いさせるのは嫌で。俺のせいでキミが辛い思いをするなんてダメだから。…4つ目を書いたんだ。」
俺は、右手に握らされた物の存在理由がやっとわかった。
「…無理矢理、契約させたのに、矛盾してるよね。」
悪魔は、自嘲気味に笑った。
俺の方は、決して見なかった。
そんな悪魔をしっかりと見ながら、
「…ちなみに、契約って、1〜4のどれだけあれば成立したの?」
と、俺は聞いた。
悪魔はそれを聞いてどう思ったかは知らないが、俺としては純粋な疑問だった。
「…悪魔の契約なんて、適当な物だから。手書きでOKだし。…1だけで、良かったんだ。」
悪魔は、泣きそうな顔で言った。
「2は、代償って。」
「…嘘。口実だよ。キミの寿命を伸ばす為の。…でも、徳の放棄は、あそこに書かなくても勝手にされてた。俺と賭けをした段階で。」
「3は?なんで?」
「…っ!それはっ!」
悪魔は、黙ってしまった。
意地悪くも、聞いたのは、“好き”って言葉が欲しかったから。
要は、俺のエゴ。
悪魔は、小さく
「わからない。なんでか。」
と、言った。
本当にわからない様だった。照れ隠しとかじゃなくて。