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悪魔は、何か覚悟を決めたように、スッキリと言うとニュアンスが違う気がするけど、そんな顔をした。
俺は、生唾を呑み込んだ。
「…この契約は、神に誓ってされたものである。故に、この契約は絶対であり、この契約を破棄する事は、魂の死を意味する。また、この悪魔との契約は、本来の人間のあり方、生き方から背く行為となるため、業となり来世に大きな影響を与える。」
事務的に、悪魔はスラスラと話す。
その慣れた読み方からして、この悪魔と契約する人間は俺が始めて、と言う訳ではないんだろう。
「ここからは、契約内容に入ります。」
悪魔は、俺の方をチラリとも見ない。
まるで、俺と言う現実から目を背けるかのように、契約書を見つめていた。
俺は、なんとなく立ち上がった。
座って聞くのは、どうかと思ったからだ。特に理由は無いのだが。
俺が立つと、悪魔はビクリッと全身で反応した。
瞳は、また揺れていた。不安に染まって、俺へと視線を泳がせる綺麗な瞳を、俺は真っ正面から見つめた。
俺に射すくめられ、悪魔は小さく息を呑んだようだった。
黙ってしまった悪魔に、俺は
「どうぞ。続けてください。」
と、促す。
さっきもこんなような事を言った気がする。
少しの事で沈黙が訪れてしまう。それほど、雰囲気が張り詰めているのだ。
悪魔は、控えめに口を開く。
「…契約内容は以下に記した通りで、契約の変更は認められない。」
静かな場所にある、静かな廃屋に悪魔の綺麗な声が反響する。
「1つ。汝は、この契約をする事で、生死に関わる場合のみ、悪魔の手助けを得る事が出来る。
2つ。汝は、代償として今世で貯めた徳を放棄し、人間から悪魔へと転成すること。
3つ。汝は、1が絶対的に守られるものとするために…、悪魔と契りを交わす…っこと。」
悪魔は、そう言うと契約書から顔を上げ、俺の顔を見た。
大方、俺の顔色をうかがおうとしているのだろう。
俺は、無表情だった。
予想もしていなかった契約内容に驚きの余り、反応を示す事が出来ないのだ。
…悪魔は、どれを言いにくいと感じたのだろうか。なんて。
多分、いや絶対に3だろう。
契りを交わす、と言う事は悪魔と俺が結婚すると言う事になるわけで。
悪魔の事を好きだと気づき、目を背ける気なんかサラサラ無い俺は、もちろん…。
って、思った所で気が付いた。
俺の右手に握らされた鉄の塊の存在の意味は?これは、何の為に?
今、悪魔が言った契約には無かった。
「…それだけ、ですか?」
俺は問う。
悪魔を責めるように、追い詰めるように言ったつもりはなかった。
それでも、悪魔は顔を歪める。
そして、悪魔は観念したかのように、渋々口を開いた。
「……4つ…。」