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…“契約書”?


一瞬、頭には疑問が浮かんだ。

身に覚えの無い言葉に聞こえたのだ。


でも、俺はすぐに思い出した。

悪魔の説明を(ろく)に聞きもせず、見えない目で闇雲にサインをした事を。



悪魔の言いにくそうな様子から、良い内容…とは言えなそうだ。


わかってた。

悪魔との契約なんて、気軽に出来るモノじゃない。大罪に手を染める事を覚悟してサインしたんだ。


わかってた…からと言って、怖くない訳じゃないけど。



俺の頭の中でさっきまで大部分を占めていた“男の死”は、“悪魔との契約”に負け、頭の隅に追いやられていた。


もっと過大なモノを前にし、俺は(かえ)って冷静になっていた。



中々口を開かず、本題に入ろうとしない悪魔を俺は


「…どうぞ?話してください。」


と、急かした。

そんな事を出来るほど、俺は落ち着いていた。


悪魔は、俺の変わりように目を見開いたようだった。


精神バランスの崩れた人間が、コロコロ表情を変える事なんて珍しくないだろうに。


…取り乱して震えていたのが嘘みたいに、他人事のように自身を分析する自分に、俺は他人事のように気味悪さを感じた。



「…。本当に酷だと思うんだけど。」


悪魔は、ごめん、とでも続けそうな口調でそう言った。


俺には、何故悪魔がもったいぶっているのか理解出来なかった。


悪魔が用意した契約書だ。

俺がまんまと契約した訳だから、喜ぶべきなんじゃないだろうか?


…何故、彼は辛そうにしている?



悪魔は小さく口を開くと、何か呪文を唱えた。


俺は魂を取られると思い、体を固くした。



…しかし、俺は右手に何か重みを感じただけだった。


目をやれば、そこには拳銃らしき物が握らされていた。


俺は、その拳銃の意図が全くわからなかった。

俺の頭は、混乱に陥った。


…もしかして、コレで自殺しろ、と言う事だろうか。

考えた末、1つの残酷な考えが浮かんだ。



俺は不安に揺れた瞳で、悪魔を見た。


悪魔の瞳も悲しそうに揺れているように見えた。

…きっと、俺の都合のいい解釈なんだろうけど。悪魔が俺の死を悲しんでくれてるんじゃないか、なんて。


それに本当は、悪魔は全然違う表情を見せているのかもしれない。

それを俺の脳が現実から目を背けて、幻覚を見せているのかもしれない。



それでも、よかった。

辛い現実を見るくらいなら、幻覚に溺れたい。



…きっと、俺は悪魔を好き、なんだ。


今、ハッキリと気が付くなんて。

なんて残酷なんだろう。


知らずに死ねたら良かったのに。

そしたら、今、こんなにも辛くないはずだ。


俺は、右手の拳銃がやたらと重く感じた。




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