11
深く暗い“意識の奥底”から、俺は少しずつ浮上して行くのを、朦朧とする中、僅かに感じた。
…起きなきゃ。そう思った。
重い瞼を無理矢理持ち上げ、目を開けば、視界はありえないくらいボヤけていて、俺は少しクラッとした。
しばらく、目を細めたり、パチパチと瞬きをしたりして、俺は目を慣らした。
辺りは薄暗いようだったので、目は比較的すぐに見えるようになった。
視界が開けると共に、頭も少しずつだが、正常に働き出した。
…ここは、何処だ?
ここは、廃屋だ。
なんで、こんな所に?
…そうだ!俺は…っ!
俺は、ガバッと勢い良く上半身を起こすと、辺りを見回した。
悪魔は?男の死体は?
…悪魔は、そこに居た。
俺から少し離れた所で腕組みしながら立って、俺を見ていた。
…その目は、何故か酷く揺れていた。まるで、何かに怯えるかのように。
俺は、カラカラになった口を開いて、声を絞り出した。
「…ぁ、ぁの……あの男、は?」
悪魔は、数回口をパクパクさせた後、
「…上の部屋に転がってるよ。ここは、さっきまで居た所の1階下だよ。」
と、静かに言った。
「…アイツ、死んだの?」
俺は、わかりきった事を聞いた。
…悪魔は、答えない。
「俺が…、俺が殺した、の?」
悪魔は、静かに目を伏せた。
…何故か、辛そうに見えた。
“俺が人間を殺した”
その事実が怖くて、怖くて。
俺の体はカタカタと震え出した。
悪魔は、近づいては来ない。
その場で、ジッと俺を見るだけ。
俺は悪魔が今、どんな目で俺を見てるか、なんて見る余裕は無かった。
ただ、見られている、と言う視線だけを感じた。
…悪魔は、重々しく口を開いた。
「……こんな時に酷…かもしれないけど、キミには、話さないといけない事がある。」
こんな時に、話さないといけない事って何?
俺は、嫌な予感しかしなかった。
そもそも、この場にまだ悪魔が居て、俺が目を覚ますのを待っていた時点で、まだ何かある、とは思っていた。
「…なんですか?」
思わず、敬語で聞く。
悪魔は、一呼吸置き、辛そうな顔を一瞬見せた後、
「……“契約書”、の事だけど…。」
と、言った。