Scene 4 カウントダウンの始まり
銭湯へよってからアパートへ帰宅。
汗ばんだ体が気持ち悪かったのですっきりした。
ニュース番組を見ながら飲む風呂上がりのビール。
冷たくて格別にうまかった。
ニュース番組の後は恋愛バラエティー。
それをぼーっと見てたせいかわからないが、今日再会したみさとのことを思い出していた。
好きなんだろうか?
まあいいや。明日仕事だしもう寝るとしよう。
その時だった。
ガタガタっ!…ドサッ…。
何かが外の階段を落ちていく感じの音がした。
このボロアパートには俺以外の住人がいるところはみたことがない。
ま、どこかの猫が足を踏み外したんだなと思う。
気にせずに休むことにした。
コンコン、コンコン。
ドアの方からノックしたような音がした。
こんな時間に誰だろう?
「はい…?」
ドアの向こうには誰もいない。風か。いいや。寝よう。
ドアを閉めようとしたとき今度は階段のほうから小さな物音がした。
いい加減にしろといつもならすぐドアを閉めて寝ただろう。
しかし、なぜか俺の脚は階段へ向かっていた。
そんな俺を後悔するのには時間がかからなかった。
運命の階段を俺は降りてしまったのだから。
階段を降りた俺は、目の前の光景を疑った。
見知らぬ男がひとり仰向けに倒れている。
思わず話かけた。
「大丈夫ですか?…ねぇ、ちょっと!大丈夫ですか?」
傍目にみてもぴくりともしない男。何もしてない俺。状況がのみこめず混乱する。
落ち着け、俺。
まず救急車だ。早く呼ばないと!
抱き抱えたぴくりともしない男性の体をいったん地面に下ろした。
携帯を取りに部屋に戻ろうとした時、なにかに躓いた。
「なんだ、これ?」
棒みたいな物?いや、角材か?思わず手にとってしまった。
いや、そんなことより救急車だ!
その時だった。
「きゃああああっ!何してるの!?あなたっ!」
静かな近所に女性の声が響いた。
管理人だ。懐中電灯で俺を照らしている。
「あ。管理人さん!大変なんです!救急車を…」
「け、警察、警察よばなきゃあああ!ひ、人殺しぃいいい!」
「管理人さん!ちょっと…!」
管理人は取り乱したまま自分の部屋まで駆け込んだ。
なんなんだよ…え!?
あまりに突発的なことが続いた。だから今自分のおかれている状況をなんとか理解できたのは、管理人の置き忘れた懐中電灯で照らされた窓越しの自分を見たときだった。
月明かりも手伝って見えた窓越しの自分は全身のいたるところが黒く写る。
なんだろうと思い直接みてみると、赤色まみれの両手に紅く染まったTシャツ。
そして離さず握っていたのは赤黒くたたずんだ色にそまった角材。
誰が見てもここにいる俺は、どこにでもいる普通のひとには見えなかった。
状況をだんだん理解し、気が動転しそうになる。
管理人が呼んだであろうパトカーのサイレンの音が遠くから聞こえてくるのが解る。
やばい、とりあえずこの場は離れないと!
慌てて部屋に戻り財布、免許証そして携帯電話と松葉所長に貰った名刺。
必要最低限のものを持ち出して一目散にアパートをあとにした。
今思えばこの時すでにカウントダウンは始まっていたんだ。
そして、管理人がこの時人生を終えていたことも知らず、お世話になりましたと心で謝りながら、ただ遠くへ逃げようと走り続けた。