2 北海道の冬
「そうそう、もう一個学校で習ったよ」
ジンギスカン談義を終えたらしい三浦が言った。
そもそも、何だ、学校で習うって。北海道は外国じゃないぞ。正直、次もろくな内容じゃないだろうと康太は思った。
「北海道ってドアが二重なんだって?」
「は? 窓じゃなくて?」
「え、何? 窓も二重なの? 何で?」
三浦は驚いている。
「えっと、断熱のため? ほら、ガラスってすぐ冷たくなるじゃん? あと隙間風とか防ぐのかな?」
「ふーん、賢い、のかな?」
小松が微笑みながら首を傾げる。まあ一応、先人の知恵というやつなのだろう。賢いということにしておこう。
「で、ドアは二重じゃないのかよ?」
「なんだよ、ドアが二重って……あ、もしかして玄関フードのこと?」
「フード? 飯?」
「いやいや、面白くないし。えーと、何か、『覆う』みたいな意味なかったっけ?」
「あるよ。『覆う』じゃなくて『覆い』だけど。『hood』だよ。パーカーのフードと一緒」
小松はどうやら英語が得意らしい。後から聞いた話だがTOEICのスコアは700だそうだ。
「で? 何だよ玄関フードって」
「ええと。玄関の前にガラス張りの空間があって、雪をほろったり……」
「何だって!?」
三浦が眉間にしわを寄せた。小松も首を傾げている。
「だから、雪をほろったり……」
「ホロッタリ?」
「え、何? もしかしてわかんない?」
康太が言うと二人は盛大に頷いた。
「……えっと、雪を払い落とす、なら通じる、よね?」
「最初からそう言えよ」
結構、無茶な注文だ。
「えっと、雪を『払い落としたり』、あと『ママさんダンプ』を置いたり……」
「ごめん、日本語喋って」
さすがにそれは失礼だろう。
「お母さんがどうしたって?」
「いや、『ママさんダンプ』。えっと、雪かきに使う道具だよ。何て言ったらいいかな? 小っちゃいブルドーザーの前の部分みたいなのに取っ手がついてて、それを押して雪を運ぶんだよ」
一応、説明したが二人はわかっていないようだった。ブルドーザーなんて大層なものを例に挙げてしまったからだろうか。彼らの中で妄想が膨らんでいそうでならない。
「なんつーか、北海道にパスポートが必要な理由がわかったぜ」
パスポートいらねえし。