1 札幌の情景
「ねえ、実松君」
研修の合間の休憩時間に実松康太は話しかけられた。振り向くと同期の小松菜々が立っていた。
「実松君って、北海道から来たんだよね?」
康太は就職で北海道から上京してきた。今は三か月という長い期間設けられた研修期間中である。
一方の小松は千葉出身なのだそうだ。
「北海道ってどんなところ? 私、一回行ってみたいんだよね」
「いいところだよ。えっとね……」
「あれだろ? 一面畑ばっかりなんだろ?」
言いかけて、それを邪魔したのは三浦昭仁である。出身地は聞いていない。東京はあまりにも色々な地域から人々が集まっているので、あまり出身に意味があるとは思えなかった。
彼の言葉に康太はムッとした。
「なんだよ、それ。どんだけ田舎だと思ってるんだよ」
「いや、だって、小学校のとき習ったけど。家と家の間が百メートルくらいあるって」
どこの田舎だ。
「そりゃ、田舎はな。俺、札幌出身だから。一応、人口二百万人都市」
「あ、今札幌以外の町、馬鹿にしたろ?」
いや、何でそうなる。先に北海道を馬鹿にしたのは三浦の方だ。だが、向こうも半ば冗談で言っているはずだ。突っかかってあまり話をややこしくしたくない。
「とにかく、そりゃあ、一面畑とか田んぼとかの町もあるけどさ。そうじゃないところもいっぱいあるって」
「でも、札幌にも畑ばっかりのとこあるだろ? 俺、一回行ったことあるよ」
ちょっと待て。そんなはず……、あれ?
「へえ、三浦君、札幌行ったことあるんだ?」
小松は目を輝かせて三浦を見ている。
「おう。ジンギスカン食ったよ」
「ええ! いいなあ」
話が三浦の札幌旅行の話になったので、とりあえず黙っておいた。
札幌にも確かに畑だらけの場所はあった。札幌の東の一部は今でも一面玉ねぎ畑なのだ。
だが、それがどうした。別にいいじゃねえか。