プロローグ
「はぁ…………はぁ……………………まだ……追いかけてきてんのか…………?」
少年は息も絶え絶えに路地の角を曲がった。
「げっ」
しかし、行き止まり。
四方には上るにはあまりに高すぎる壁がそびえ立ってた。
「ちょっと待てよ……!冗談だろ……!?」
彼は慌ててきた来た道を戻ろうとするが、ソレの姿を確認した瞬間に足を止めた。
ソレが、こちらを見ていた。
「…………っ!」
少年は身震いをする。
「詰みかっ……!?」
途端に恐怖が流れ込んできた。
こんな感覚は初めてだった。
彼は彼なりにいくつもの修羅場をくぐってきたつもりだった。
万引きやスリ、時には強盗などの犯罪で生活を建てるまでには途方もない数の危険ともぶつかってきた。
路地裏を歩く度に不良には何度も殴られた。警察にも何度も捕まりそうになった。
少なくとも、さっきすれ違った制服の高校生なんかよりは危機管理能力は長けている自信があった。
しかし――
「くっ……来るなっ……!」
彼が身体の全機能をフルに活用しても、彼に今出来る事はソレの存在を拒む事だった。
「なんでだよっ………………なんで来るんだよっ!」
確かに彼には一般的な危険に関する経験も知識も一般的な高校生よりは数段も飛びぬけていた。
そう。一般的な危険に関しては。
「…………みぃつけた」
澄んだ、少女の声だった。
「!!」
少女は、確かに微笑んでいた。
「ねぇ……なんで逃げるの……」
少女は数歩近づいてくる。
少年は数歩後ずさった。
「そうだね…………殴っても蹴ってもスタンガンも効かない相手に追いかけられてるんだもんねぇ…………怖いよねぇ……?」
もう数歩。――同じように、もう数歩。
「でも大丈夫……私は大丈夫だよ?」
もう数歩――もう数歩。
「私はそういう君が大好き……?ねぇ、だからさ――」
もう数歩。もう――
「――壁……っ!」
壁があるのは分かっていた事だ。しかし、彼は後ろに壁があることを実感するとさらに気持ちに余裕が無くなっていくことを感じていた。
冷や汗が頬をつたる。
もう後が無い。
彼の一般的な危機管理能力には――――――次元が違いすぎた。
「ねぇ……?どうして逃げるの……?……もっと殴ってもいいよ……?」
「ひぃっ……」
自分の声が強張るのをはっきりと自覚した。しかし、もうどうすることも出来なかった。
怖い。
怖い。
怖――
この路地裏である程度平和に暮らしていた小さな犯罪者を突如追い詰めたのは――
「もっと殴ってぇええええっ!ぎゅーっ♪」
「だっ……抱きつくな離せぇえええええええええええええええええ!」
(どごっ!)
「ふぐっ!? ……きもちぃい……」
「知らねぇよ変態いいから離せ!」
「もう一回!もう一回鳩尾殴ってくれたら離してあげ」
(どがっ!)
「ひぅっ……!……翔徒大好きだよぉお――――――っ♪」
「離せって言っただろっ!?ちょっ待っ……今ちからは力入れるな首はやめ」
「ぎゅぅううううううううううっ♪」
「いっ……………き!息っ………………がっ…………っ!」
「ぎゅうううううう――――あれ?翔徒?翔徒ーっ!おーい!翔――――――」
――見知らぬドMの変態少女だった。
か……カテゴリ分けが凄い難しい……っ!
なんだこの作品……っ!
という事で柄氏です。プロローグからぶっ飛ばしますよ。
翔徒を襲った彼女は一体何者でしょうね。