七月は涙のち晴れ
誰もあたしを好きにならない。
誰もあたしを見ない。
今年の春、あたしは<カレ>と別れた。
<カレ>に言わせれば、あたしは重い、らしい。
正直よくわからない。
あたしは、束縛なんてしてないし、むしろよく尽くしていたと思う。とにかく、別れたのは、現実。
別れてからしばらくは、ただひたすら泣いていた。
泣いて泣いて、瞼がボクサーの様に腫れた頃、あたしは泪するのをやめた。だって勿体ない。
なんで、棄てられてなお、あたしの貴重な水分を奪われなきゃならないのか。
あたしは、可愛くはない。
不細工って訳じゃないけど、鏡を見ても、まぁこんなもんか、程度の顔。
一重瞼に、つん、と少し上を向いた鼻。
自慢できるトコロといったら、すっきり無駄のない歯並びくらい。
言っちゃえば、<無駄>のない顔ね。
とにかく、泣くのをやめたあたしは、とことん強気に出る、事を決めたんだ。
できる限りの話。
夏祭りの季節がやってきて、あたしは友達・裕美に一緒にいかないか、と誘われた。勧誘の第一声がこれ。
「かすみぃ、そんな顔してると、より一層かわいくない。気分転換がダイジでしょ。」
まぁ、悪くはないエスコートの仕方。こちらも挨拶代わり、のデコピンは忘れない。
例年以上の賑わいを見せ付ける参道。
タコ焼きや、かき氷の出店が、ところせまし、と軒並み列なっている。
人込みの中には、浴衣や着流しを着た人が目立つ。
裕美も、藍色の浴衣を着て、うしろ髪を結ってカンザシでとめている。
ちょっと大人っぽいスタイルだ。
あたしは、と言うと、それなりにお洒落をしてきたが、普段着。
ちょっとブルーな気分で、人の捨てたガムをおろしたてのパンプスで踏み締めていく。
「ねぇ、林檎飴たべよっ。」
見事なはしゃぎっプリの裕美は、一目散に林檎飴の店に、駆け出していく。
苦笑いをして、少し溜息ををはいた後、あたしもそれに続いた。
「おー兄さん!林檎飴、ちっちゃいの下さいっ!」
「はい、二百円ねー。お、お姉さん可愛いから二つあげちゃおっかなぁ。」
林檎飴を売る親父さんは、何故か凄く嬉しそうにニコニコして林檎飴を二つ差し出す。こらこら。
天然の親父キラー・裕美。
別に裕美が親父好きって訳じゃあないんだけど、この娘は、やたら親父うけがいい。
裕美は確かに可愛い。くっきり二重に長い睫毛。鼻筋は真っ直ぐで、唇は少し厚め。
「はい、あげる。得しちゃったぁ。」
「サンキュ、しっかしよくやるねぇ。」
裕美は、ん、何が?と言わんばかりに、満面の笑みで笑う。
その笑顔をみて、不覚にもドキッとしてしまう、あたし。
やっぱり世の中は不公平だ。