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八百万妖貸し屋 彌勒堂カルテット  作者: 樹結理(きゆり)
第一部 邂逅

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5/20

「そういえば今日は逢比(あいひ)神社のお手伝いを頼まれているんだった」


 散々失敗をした朝食を片付けながら思い出したかのように蒼司が言った。結局のところ、失敗した朝食のせいで散々怒られた蒼司は渋々買い置きしていた惣菜パンを、隠していた戸棚から取り出したのだった。これまた隠していたことを盛大に怒られる蒼司だった。


「そんなに怒らなくても……」


 ぶつぶつと文句を言いつつ拗ねる蒼司だが、きなこと珠子は嬉しそうに惣菜パンを頬張っているため、それ以上なにも言えないことに溜め息を吐いた。


『神社でなんのお手伝いー?』


 珠子がパンを頬張りながら聞く。逢比神社とは彌勒堂からさほど離れていない場所にある小さな神社だ。それほど高くもない小さな山の麓が広がるような場所にポツンと佇む小さな神社。周りには畑が広がり、民家も店もなにもない。唯一彌勒堂が一番近い建物だった。彌勒堂から歩いて数十分ほどのところに大きな(くすのき)の御神木が祀られている。高い建物もなにもない場所に御神木が堂々たる姿で佇んでいるため、この御神木は街のシンボル的な存在となっていた。その御神木の横に小さな社がある。そこには宮司の鏑木(かぶらぎ)京介(きょうすけ)がひとりで逢比神社を護っていた。


「掃除を頼まれたんだよ。そろそろ雑草も伸び出す頃だしね。草刈りと落ち葉の掃除手伝いをお願いされているんだ。きなこさんと珠子さんも来てくれるでしょう?」

『暑いのは嫌だけどぉ、キョースケはお菓子くれるから行くー』

『あたしも行くのにゃ』


 散々外の暑さに文句を言っていたくせに、と蒼司は苦笑するが、きなこも珠子も逢比神社の鏑木のことを気に入っていることを知っている蒼司は、一緒に手伝ってもらえるならなんでもいいか、と思うのだった。逢比神社自体は小さいが、社と御神木の周り一体に雑草が生えるため、草刈りをするには結構な労力なのだ。しかも真夏の炎天下ともなるととてもじゃないがひとりでは終わらない。したがって、早朝から昼までの間でよく手伝いを頼まれる。

 宮司の鏑木は彌勒堂がどういった店で、あやかしと呼ばれる存在が多くいる店だということを知っている。鏑木もあやかしを視ることが出来るからだ。そのため神社の掃除を手伝ったあやかしにはいつも労うようにお菓子を出してくれる。蒼司には依頼として金を払ってくれようとする。

 しかし、蒼司はいつもそれを断っている。少し距離があるとはいえ、お隣さんだ。しかも神社。手伝うことになんの問題もない。蒼司はいつも鏑木から頼まれると、それを無償で手伝うことに決めていた。


「じゃあ、暑くなる前に片付けちゃおう!」


 そう言った蒼司は「えいえいおー!」とでも言い出しそうな勢いで片手を上へと突き上げた。珠子は蒼司と共に『おー!』と片手を突き上げ、きなこは苦笑していた。


 まだ朝の早い時間のため、外へと出てもひんやりと冷たい空気が流れている。爽やかな朝に大きく深呼吸をした蒼司は身体を伸ばし、そして逢比神社へと歩き出す。一本道で続く道は遠目にだが、御神木の楠がはっきりと見える。道沿いに流れる小さな川のせせらぎが聞こえ、真っ青な空に真っ白の入道雲が夏を彩っている。


「日射しが当たるとすでに暑くなってきているねぇ。早めに終わらせないと辛そうだ」


 逢比神社までの道のりは木陰などなにもない。徐々に陽が昇り始めて来ている。きなこと珠子は楽しそうに歩いていたが、空を見上げている蒼司に釣られ、同じように空を見上げげんなりとした。


『急ぐのにゃ』


 きなこがそう言い駆け出すと、珠子は『待ってぇ』と言いながら追いかけて行った。蒼司はそんなふたりを後ろから眺めながらフフッと笑う。

 御神木が近付いてくるとその大きさがよく分かる。樹齢何千年ほどだったろうか、と蒼司は思い出そうとするがそんなことはどうでもよくなるくらいに圧倒される。大の大人が数人で腕を広げても届かないほどの幹の太さ。大きく枝を広げ、まるで屋根のように広がる青々とした葉。風に揺らぐ葉擦れの音が心地好い。


「おや、蒼司くん、もう来てくれたんですね。ありがとうございます」


 御神木を見上げていると蒼司を呼ぶ声が聞こえ振り向く。そこには白衣に紫色の袴を着た、宮司の鏑木京介がいた。鏑木は中年と呼べる年頃で、少し白髪の混じった柔らかそうな短めの髪に、穏やかなおっとりとした顔付きの男だ。低く落ち着いた声でゆったりと話す姿は物腰柔らかく、見るからにひとの好さげな人物だ。


「あぁ、鏑木さん、おはようございます。暑いし、早めに終われるように出てきました」

「はい、おはようございます。そうですねぇ、最近は日射しが出て来ると辛いですしね」


 そんな会話をしながらお互い笑い合う。きなこからしてみるとふたりともなにやら涼し気で「暑い」という言葉に説得力がない、とげんなりするのだった。


 ひとしきり世間話をしたあと、蒼司は草刈りの道具を借り、あちこち伸びている雑草を確認し草刈りを始める。小さな社は祈祷するための社、そして鏑木が寝泊まりをしている社務所兼自宅のみだ。社務所の周りは鏑木が自分でするから大丈夫だ、と言い、蒼司たちには祈祷場と御神木付近の草刈りを頼む。砂利が敷き詰められた境内には落ち葉が風に舞っている。珠子は箒を使いそれらを集め、きなこは妖力を使い小さな風を巻き起こしていた。風はつむじ風を創り出し、あちこちに散らばる落ち葉を絡め取り、珠子の元まで運ぶ。珠子は落ち葉が自身の周りに踊るように集まるのを楽しそうに見ながらぴょんぴょんと跳ねている。


 蒼司は祈祷場周辺の草刈りが終わると、御神木周辺へと移動する。御神木周辺も丁寧に草を刈っていき、ひとしきり刈り終わるともうすでに陽は高く昇っていた。蝉の声が響き渡り、じりじりと暑い太陽の日射しが肌を刺す。さすがの蒼司も額には薄っすらと汗をかいていた。


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