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第6話 ロイヤルブルーのドレス


 簡易的な着替え室へ入ると、これまた小さなクローゼットを開ける。クローゼットの中は見た目以上に奥行きがあり、美しいドレスが三種類収納されていた。

 一つはグリーン、エメラルド色に近く淡いレースが重なったようなデザインでスクエアルックで大胆に胸元が露出するような……。

 私はグラマラスな方ではなく、むしろ貧乏暮らしのせいで痩せっぽっち。これは似合わないだろう。素敵な色だけれど……。

 次に手に取ったのは真っ赤なオフショルダードレス。シルクをあしらった艶やかなドレスは手触りがとても良い。華やかで大人っぽいドレスを身につけた自分を想像してみたが……似合うだろうか。

 ドレスをひっくり返してみると、腰あたりまでざっくり開いた背中に驚いてすぐさまクローゼットに戻した。

 最後の一着は、鮮やかなロイヤルブルー。前の二着に比べるとデザインもシンプルで派手でも色っぽくもない。少しマットな生地は滑らかで肌触りが良く、ラウンドラインの上品さと貧相な腕を覆い隠すレース仕立てのロングスリーブ。



***



「おや……」



 間仕切りにしていた布を取り去ると、エースが目を丸くした。私はそれをみて不安になって口を開く。


「変……ですか?」


 彼は、少し合わせてたように咳払いをして「とんでもございません:と取り繕うように綺麗に広角をあげた。


「フィルミーヌ様の美しいプラチナブロンドによく映えるブルーは最高の選択だと私めは思います。それに……とても綺麗です」

「そうかしら……?」

「えぇ、ただ靴が左右逆でございますね」


 そう言われて、ぱっと足下をみる。このドレスと一緒に収納されていた同じブルーの靴、よく見れば宝石のアクセントがおかしな方向を向いていた。

 靴の左右を間違えるなんて、と慌ててかがもうとした私に彼は言った。


「そのまま」


 彼に私の手を取ってそのまま近くにあったソファ椅子にエスコートされる。そっと腰掛けると、彼は私の前に跪く。


「失礼」


 そっと、片足ずつ。靴を誰かに脱がしてもらうなんて初めてで……ぐっと力が入る。それをみて、エースはふっと微笑んだ。


「力を抜いてくださいね。ヒール靴は初めてで?」

「えぇ。学園の式典で履く程度で……」

「なるほど。では安心ですね。屋敷の中は歩きやすいですからそこで練習しましょう」


 なれた手つきで彼は私に靴を履かせた。手袋の布が少しくすぐったかったが、それ以上に男性に足を触られるのが恥ずかしくてたまらなかったのだ。

 貴族の女性たちはこれが普通なんだろうか? 執事と令嬢では身分が違いすぎて恋愛対象にはならない、だから意識しない……?


「さて、市街につきましたね。これからブティックでヘアセットをして何着かドレスを仕立てましょう。フィルミーヌ様がいらっしゃるのは伝えてありますのでお気兼ねなく」

「あの……どこで私の足のサイズを?」


 足どころか、ドレスもである。

 コルセットが苦手な私のためのように仕立てられ、さらにはサイズがピッタリなのである。コルセットが小さい頃から苦手なのは私の母くらいしか知らないはず……。よく考えれば、なんだか怖いくらいに配慮されているような気がしてならなかった。


 やっと冷静になれて、エースの方を見られるようになる。彼は手袋をきゅっと直し、モノクルをかちりといじった。


「フィルミーヌ様、王族は貴女様が思うほど権力を失ってはいないのですよ」

「まさか、学園に?」

「いえ、学園ではなく学園指定の仕立て屋です。王子と貴女様のためにできることはなんでもしましたよ。もちろん、王族の権限で」

「田舎の町だからすぐに噂が回ってくるものだと思うけれど……」

「そこは王族の力でございます」


 口を塞ぐほどの金か、それとも罰か。

 自分がそこまでして王族に欲しがられるような身分なのかいう疑問は置いておくとしても……やっぱり第3王子ルディールは権力で好き放題する怖い男なのだろうか。


「私、ますます自信がなくなったわ……」

「なぜ? フィルミーヌ様はとてもお美しい。その上、思慮深く自身の犠牲をいとわない深い愛をお持ちでございます。貴族のお嬢様方にはないその慎ましさは大変貴重かつ希少なものでございます」

「そんなこと……」

「王子は全てご存知なのですよ」

「えっ?」


 エースはそっと私の手を取ると、忠誠を誓うみたいに口付けた。

 そんなこと初めてされたもので、私は一気に顔当たりが熱くなった。その反応を楽しむみたいに彼は目を細めて微笑む。


「さて、フィルミーヌ様。この馬車から一歩外に出れば貴女様は王族の公妾でございます。貴女様の行動一つ一つは王子の評判につながる。それをゆめゆめ忘れることのありませんよう」

「あの……具体的にどうすれば……?」


 一通りのマナーは学校で習ったけれど……全く自信がない。確かに、エースの言う通り私は王族の紋章がはいった馬車に乗っている。そこから姿を表すドレスをきた女性は「王族の関係者」と取られられるだろう。

 そうなれば、私の一挙手一投足が市民たちに注目されるだろう。そして、少しでも粗相があれば……あとは新聞紙のスキャンダル欄の格好の的である。

 それは、ルディール王子や他の王族にも多大な影響を及ぼすし、爵位を手に入れた私の両親にだって影響するだろう。

 最悪の想像をして、身震いした私にエースは静かに言った。


「何も心配は入りませんよ。私めがエスコートして差し上げます。フィルミーヌ様はただ私めの手を取って、優しく微笑んでいれば良いのです。さぁ、お手を」


 差し出された手を取って立ち上がる。

 エースは、手慣れた様子で私をエスコートしながら馬車を降りた。初めてみる市街地は本の中で読んだものと同じで美しかった。

 緑といえば街路樹や綺麗に整えられた花壇、道も石畳になっていて綺麗に整えられている。街道の両脇に立ち並ぶお店はどれもこれも魅力的でショーウィンドウの中に見惚れてしまいそうだった。



「ねぇ、素敵な女性。王族の方ね!」

「みてみて、あのブルーのドレスとっても上品だわ」

「綺麗な金髪……お名前はなんていうんだろう?」



 自分が注目を集めているのを肌で感じて私の歩幅が小さくなる。すると、私をエスコートして歩いていたエースがそっと囁いた。


「いけませんよ。貴女は王族の関係者。堂々と、胸を張って」


 ゆっくり、顔をあげ背筋を伸ばしエースを信じて堂々と歩く。小さい女の子と目があって自然と微笑むと歓声が上がった。

 私がブティックに入るまで、たくさんの視線を集め続けた。初めての付くしの経験に私はあれほど感じていた恐怖や不安を忘れてしまうのだった。

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