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第16話 幕間 執事と王子


 

 自分は、王族や貴族をたくさん目にしてきた。どいつもこいつも傲慢で欲深い。その上、庶民より自分達が上であると信じ込んでいる。心の底に植わっている差別意識がチラつくたびに……反吐が出る。

 でも、彼女だけはずっとそうじゃなかった。彼女は、王族との親しい家系の生まれで、ルディールとは年が近いこともあって何度か食事会をしたことがあった。


 彼女は、あの事件のショックで何も覚えていないようだが。


*** 数日前 ***


「王子、お願いです。あの子があんな状況になるのはもう耐えられないのです」


 執事姿の俺をみてあの母親はすぐに勘づいた。彼女は、フィルを引き取る時に唯一状況の聞き取りをした人間だ。フィルの母親の従姉妹、まるで親友のような存在だったそうで、フィルと彼女の両親に起こったことをその場にいた憲兵に何日もかけて聞き出したとか。


「わかっています。でも、リソット夫人。自分はフィルを妃にしたいと思い続けていました。だから」

「王子、お言葉ですが……。王族や貴族はあの子に、デュボワ家にあんなひどい仕打ちをしたんですよ。貴方はどうして守ってくださらなかったのですか。娘の前で両親が拷問され、人の形を保てないまま死んでいったと聞きました。彼らの悲鳴を聞いていたのに、周りの貴族たちも従者ですらも犯人の貴族が怖くて黙って、あまつ王族さえあれを悲しい事故として口封じをした。そんな貴方たちに大事な娘を渡すことは命にかけてもできません」

「奥様、それは……」

「だって、あの子の家族が殺されたのは貴方との婚約話が持ち上がった翌日だと聞きました。貴族同士の抗争であの子はなにもかも失った。何もかもです」

「夫人、でも……」

「どこまで、王族は勝手なのです? ここへきたばかりのフィルは『貴族』という言葉を聞くだけでも混乱し自分の髪を抜き、血が出るまで体中を掻きむしってしまうほどの重傷でした。そして、いつのまにか自分の出自も忘れ記憶を閉ざすことでやっと人として生きられるようになったのです。貴方はいつ彼女はあぁなってもおかしくない状況にフィルを連れて行こうとしているのですよ」

「でも、俺が彼女を幼い頃から愛し続けていることに変わりはありません」

「ならどうして愛人を……愛人ばかりを? フィルもその一人にしようと? 王族はどうしてこうも傲慢なのです? あの子はもう貴族なんていう薄汚い権力ばかりの社会とは離れたのですよ」


 リソット夫人が恨みやつらみ、怒りのこもった目で俺を睨んだ。


「公妾を娶っているのは……理由があります。まずは親が決めた相手と結婚して仕舞えばフィルを妃にできなくなる。だから公妾として納得してもらった人、それから相手側の利益が大きく恋愛関係なく公妾になった人。そして、フィルを一時的に公妾にするのは、今は一般市民のフィルをいきなり妃にすれば反発があると思ったからです」


 言わなかったことがある。

 俺だって、フィルの家族のことを、大きくなってから知って対策をしなかったわけじゃない。目を瞑り続けているわけじゃない。

 あの事件が起こったのはフィルを俺の許嫁にするという話が持ち上がったのがきっかけだった。同じ年の娘を俺の許嫁にと思っていたとある貴族が起こした事件なのだから。犯人が誰なのかは明白だった。でも国にとって重要な機関を任されている貴族だからデュボワ家よりも優先されたのだ。正義なんて存在しないのだと俺も思った。


 それを知った俺は、フィルを守るためにその貴族の娘を公妾にした。監視し、動きを制限し、そして……最終的に制裁するためにだ。

 けれど、フィルの親の仇である貴族の娘が公妾の一人とはリソット夫人に伝えることはできなかった。


 俺は、未熟でずるい人間だ。

 フィルはここにいて、自由に恋愛をして好きな男と結婚したほうが幸せになれるだろう。貧しくてもフィルだったらその中に幸せを見つけ出せるだろう。

 でも、成長した彼女を一目見て俺は我慢なんかできなかった。どんな手を尽くしても彼女を妃にしたいと思った。フィルが、デュボワ家が消えてしまってから一度だって忘れたことはなかったのだから。

 俺も所詮はリソット夫人のいう「傲慢」な「王族」なのだ。


「私は絶対にフィルを守ります。でも、彼女の人生は彼女のもの。せいぜい、フィルに選んでもらえるようにしたらいかがですか。執事さん」


 リソット夫人はそう言い残すと家の方へと帰っていった。


*** ***



「エース、ちょっといいかしら?」

「どうされました? フィルミーヌ様」

「使っていない部屋があると聞いて……よかったらそこを私が借りることってできたりしない?」


 フィルは何やら考えがあるのか珍しく声をかけてきた。


「空き部屋と言いますと?」

「東棟4階の。そこでお花を育てたいなと思っていて」

「えぇ。構いませんよ。貴女様の希望でしたらこのエースがなんなりと叶えて差し上げましょう、えぇ。命に変えても」

「ちょっと、命はかけないでほしいんだけれど……ありがとう」


 フィルがにっこりと微笑むとそれだけで俺は嬉しくなる。彼女の幸せを奪い、恐ろしい記憶を呼び覚ましかねない場所に連れ込んでいるというのに。

 もしも、彼女が王子として俺の顔を見たら……凄惨な記憶を思い出してしまうだろうか。俺はいつまで彼女に「執事」として接したらいいんだろうか。苦しめたくないのにそばにいてほしいと思う俺はどれだけ欲深くて傲慢なのだろうか。



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