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第13話 嫉妬? 執事の希望



 部屋に戻り、ゆっくりと朝の準備をしていると部屋の扉がノックされた。


「ミレーユ様の侍女リザリアです。よろしいでしょうか」

「どうぞ?」


 私が返事をすると、控えめにドアをあけて入ってきたのはおとなしそうな女性だった。彼女はもう一度、ミレーユ様の侍女をしているリザリアだと名乗ると私にカーテシーをして挨拶をしてくれる。


「ご朝食をミレーユ様がぜひミレーユ様お部屋の食堂でと」


 私が答える前に、エースが不満げに声を上げた。


「ミレーユ様が?」

「はい、エース様。ミレーユ様はたいそうフィルミーヌ様をお気に召していて……それでぜひこの屋敷での最初の朝食はご一緒したいとのことでございます。もちろん、我ら侍女もフィルミーヌ様には最高のおもてなしを……」


 エースはリザリアさんを無視して私の方を向き直った。

 笑顔ではあるが少し不機嫌なオーラが漂っている。やっぱり、私が早朝に抜け出したことが迷惑だったのだろうか。


「フィルミーヌ様、今朝は騒動もありましたしごゆっくりしたいでしょう。こういった誘いは断って問題ございませんよ。ミレーユ様は爵位もある方ですが、フィルミーヌ様も公妾となった現在は平等に同じ身分でございます。それに、マナーとして前日までにはお誘いをしておくべきですので」


 エースの圧に負けないのはリザリアだ。彼女はリスを彷彿とさせる小動物みたいな可愛らしいお顔と修道女のような落ち着きを持っている人だが、毅然とエースに言い返したのだ。


「エース様、お言葉ですがそのようなマナーを聞いたことはございませんわ。ミレーユ様はフィルミーヌ様がこのお屋敷に馴染めるようにと心配なさっているのです。それに、エース様の今のお話は断るように仕向けているように聞こえました。判断するのは執事ではなくフィルミーヌ様でございますわ」

「フィルミーヌ様、侍女はこう申しておりますが気にすることはございませんよ。私めと……コホン。お部屋でゆっくり締め上がっていただければ良いのです」



 エースとリザリアさんを交互に見る。二人ともなんだが圧が……強い。

 なので、想像してみる。まずはこのお部屋で優雅に朝食を食べるイメージだ。綺麗なお庭を眺めながら、バルコニーにあるテーブルで野菜のソテーを乗せたパンと甘いカフェオレを楽しむ。

 とっても素敵だわ。


 次に、ミレーユ様と一緒にお食事をとるイメージ。あの女神みたいに優しいご令嬢と一緒に、何を食べるのだろう? 何を食べてもきっと美味しいはずだから仮にクロワッサンだと考えよう。ミレーユ様にいろんなお話を聞きながら食べるお食事はきっと楽しいでしょうね。



「私、ミレーユ様とご一緒したいわ」


 リザリアさんは「ありがとうございます」と再びお辞儀をすると部屋を出ていった。一方で、エースは肩をがっくりと落とした。


「エース、ごめんなさい。もしかして面倒だった?」

「面倒ではございません。こういったお誘いの場合誘った側が全てを準備しますので。逆に私めは暇でございます」

「なら、どうしてそんなに残念そうにしているの?」

「それは、私めとフィルミーヌ様の大事なお時間だったからでございますよ」

「朝食が……?」

「えぇ。その通りございます。初めての朝食というのは私めにとって特別な意味がございました。えぇ、ございましたとも。これからお世話させていただくフィルミーヌ様のことを知る大事な機会でしたので」

「貴族のお嬢様たちはそういう風習があるのかしら? ごめんなさい、私知らなくて」


 残念そうに彼は息を吐いた。私はそういうしきたりがあったことを知らなかったし……、本当なのかしら? さっきもエースが主張した「前日に誘う」というマナーがないとリザリアさんは言っていた。


 となるとエースは私と二人で朝食の時間を過ごしたかったとか? 

 違うわ、私のマナーがきっとあまりよろしくなくてそれとなく指導してくれるつもりだったんだわ。


 私ってもしかしてそんな心配になってしまうほど絶望的にマナーがなっていないのかしら。



「あの、エース?」

「お断りならいつでも」

「あぁ、違くて」

「違うと申しますと」

「ミレーユ様に失礼のないように私のマナーが不出来だと思っていることを教えてくれるかしら?」


 エースはあっけに取られたような、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてしばらく固まった。


「エース?」

「失礼しました。マナーですね。それは問題ございませんよ。フランクな誘いですから着飾る必要もございませんし、ミレーユ様は本当に貴女様とお近づきになりたいだけでしょうから堅苦しい所作など必要ないかと」

「そうなの。よかったわ」

「ただ、皿とカトラリーで音を立てないように注意をするだけでございます。おそらく、ミレーユ様の朝食はリゾットですので」


 リゾット。

 私は少し不安に感じていた気持ちが軽くなった。なぜなら、私はリゾットが大好きだからだ。一度だけ、家族で外食をした時に食べたあの不思議な食感とお米の味は感動的だった。

 

「おや、楽しみにされているようで何よりでございます。フィルミーヌ様、クローゼットにしまっております普段着に着替え終わりましたらお声がけ下さい。ドアの外におりますので」


 エースはやっぱり不満げで、作り笑いをすると部屋を出ていってしまった。



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