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説教






そもそも、綾斗がこのような最悪最低な暴君になってしまったのには本人の気質以外にも理由がある。

あたしはそれを知っている。

知っているからこそ、正してやらなければならないと思う。






「お前、いつまで綾音さんとのこと引きずるつもなんだ?」






あたしが言った「綾音」という名前に、ぴくりと綾斗が反応する。

さっきまで浮かべていたヘラヘラ笑いは消え、表情の無くなった能面のような顔。

なまじ顔が整ってるため表情がなくなるとものすごく不気味だ。

綺麗すぎて奇妙な恐ろしさがある。






「……あの人は、関係ないよ。俺は俺のしたいようにしてるだけ」


「お前自分が今どんな顔してんのかわかってんの?そんな顔で関係ないって言われても無理があるね」






綾音さんというのは綾斗の母親。

今でも最高の女優としてその名を馳せている美人な人だ。

でも、母親としては最低な人。

本当にどうしようもないくらいに。






「いつも言ってるだろ?綾音さんがお前にしてきたことを他の人にまでやるなって。昔、綾音さんにやられたことを思い出してみろ。その時、悲しかっただろ?辛かっただろ?苦しかっただろ?お前が今、お取り巻き連中の女たちにしてることは綾音さんがお前にしてきた仕打ちと同じことなんだぞ。そんなんで過去の憂さ晴らしをするな。もっと人の気持ちを考えろ。自分がされて嫌なことは人にもするな」


「……」






ああ、一体何度この説教を綾斗にしてきただろう。

もう数え切れないくらいだ。

なのに、コイツは今だにその暴君的態度を改めない。

時には怒鳴りつけるように荒々しく。

時には諭すように穏やかに。

手を変え品を変え、様々やり方で説教してきたけれど、一度だって改めたことはない。

それだけ綾音さんとの過去のトラウマが根深いものなのだとはわかっているけど。

それを乗り越えなければ、コイツは人として本当にダメになる。

……もうけっこう手遅れな気もするけど。






「これも何度も言ってるけどさ、そのままだと本当に好きな人ができたときに困るのはお前なんだぞ?」






綾斗は、綾音さんとの過去のせいで人を上手く愛することができないのだと思う。

だからこそ自分至上主義の暴君的態度をとってしまう。

だけど、それでは本当に好きな人ができた時どうしようもなくなる。

きっと相手を傷つけ、果ては自分まで傷つけることになる。

そしてトラウマはより深くなるだろう。

そうなってはダメなのだ。






「……俺の好きな人はチロだよ」






そう言って、綾斗はしゃがみこみ椅子に座るあたしの膝に顔を埋める。

まるで懺悔する罪人のような姿。

さしずめあたしは聖母マリア様ってとこか?

自分で思ったことだけど薄ら寒くなる。

あたしはどう足掻いても聖母ってガラじゃない。






「チロさえ、チロさえ傍にいてくれれば他はどうだっていいんだ」






こうやって説教する度に、綾斗はあたしのことを好きだと言ってくれるけど。

それはずっと傍にいるせいで培ってきた幼なじみへの家族愛のようなもの。

長年かけて刷り込まれてきた愛着のようなものだ。

綾斗に必要なのはそんな幼なじみとしての愛着ではない。

綾斗自身が自分自身を変えようと思うくらい心惹かれる恋情を伴った「好きな人」だ。

もしもあたしが綾斗にとってそれに当てはまるとするならば、あたしの説教を聴いて暴君的態度を改めるはずだ。

そうじゃないのだから、やっぱりあたしは綾斗にとっての「好きな人」ではないのだと思う。






「ねえ、チロ。チロはずっと傍にいてくれるよね?あの人みたいに俺を捨てないよね?」






あたし自身、綾斗のことをどう思ってるのかと聞かれれば幼なじみとしか思っていないと答えるだろう。

けど、「好きな人」ではなくても「大切な人」ではある。

どんなに最悪最低な暴君でも。

どんなにヘラヘラとしてて胡散臭くてムカついても。

生まれたときから一緒に育ってきたコイツはあたしの家族のようなものだ。

見捨てることなんてできない。






「捨てたってお前ならどんな手を使っても戻ってくるくせに」


「……何で捨てること前提で考えんの」


「だって、お前たまに捨てたくなるくらいうぜぇーからさ」


「……チロって容赦ないよね」






あたしの膝に埋もれたままの綾斗の表情はよく見えない。

ふわふわな金茶色の髪に手を伸ばし、ゆっくりと撫でる。

うん、コイツの髪の毛はほんと撫で心地がいい。






「なあ、アヤ」






そっと綾斗の愛称を呼ぶとゆっくりと綾斗が顔を上げる。

さっきと同じ無表情なのに、泣いているように見えるのは気のせいだろうか。






「あたしはお前を捨てたりしない。飼い主は最後までペットの面倒を見なきゃいけないからな」


「…俺はペットじゃないよ、チロ」


「お前なんかペットで充分だ」


「ひでえ」






「好きな人」を見つけるその時まで。

あたしはこのヘラヘラと笑うどうしようもない幼なじみの面倒をみよう。

コイツが真っ当な人間になるよう説教しながら。


































だいぶ更新が遅くなってしまって本当にすいません…;

そして何故だかちょっとシリアスになってしまいました。

綾斗の過去は追々明かしていきたいと思います。




お気に入り登録をしてくださってる方、感想をくださった方、本当にありがとうございます。




次回更新は早めにできるように頑張ります…!

次はシリアスではなく明るい感じになると思います。




感想・評価などもよろしくお願いします!

できればお手柔らかに…




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