表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

 冬雨とうう十九年。あるいは、春霧しゅんむ元年、水無月の頃。


 成人した神子が住まう、星空離宮。

 十七歳となった春露は、彼女の夫と暮らしていた自室で、一人軟禁状態にあった。

 父である今上天子改め、冬雨天子が崩御して数日が経つ。姉である春霧が世継せいしの座にあった為、速やかに彼女が次の天子となり、新しき世が泰平になるようにと行われる四季渡りも、間もなく終わる。終わり次第、春露は臣藉降下し、国の北にある北黒ほくこくに赴いて、そこで再婚をする予定になっていた。

 冬雨天子が崩御するまで夫だった男は、密かに姉と通じており、姉が代替わりした段階で姉の正室がいなくなったから、その後釜に入るのだ。


「お前の姉として、門出を祝うわ」


 そう言って、目の前に落とされたのが頭蓋骨。春霧はそれを気色悪いと言いながら、何度も何度も踏みつけて砕いた。


「父上はね、石女を処刑した後、この頭蓋骨を枕元に置いて、あの女の死を悼んでいたのよ。未練たらしいことこの上ない。時には夜伽の際に使っていたらしいから、気色悪くて仕方ないわ! ……でも、天下人の枕元にずっとあったものだから、何かご利益ありそうじゃない?」


 粉々になってしまった頭蓋骨。春露が凝視すれば、気色の悪い笑みを浮かべる、生前の父と目が合い、吐き気を催して俯いた。


「それか、初めての贈り物として、再婚相手に渡しなさいよ。喜ぶかもしれないわよ? だって、お前の再婚相手は……あっは! 幸せな結婚生活になるといいわね!」


 用はそれで済んだのか、高笑いしながら春霧は去っていく。まともに見送らぬまま、春露は俯き、やがて、辺りが静寂に包まれた頃、顔を上げる。

 あまり見続けないよう気を付けながら、頭蓋骨の欠片を拾い集めた。処分なんて考えられない、然るべき場所で供養すべきだ。

 ほのかに憧れを抱いていた女性の為に──これから夫となる、彼女の息子の為に。

 この決定は、春霧の嫌がらせ。きっと自分は彼女の息子に恨まれているはず。

 息子から母を奪った男の娘であり、その母を嫉妬から虐げていた女の娘でもあるから。


 幸せになんかなれるはずもない。


 分かっている、分かっているが、それでも、この頭蓋骨は渡さないといけないし、伝えなければいけない。

 朱華桜子という女は、夫と息子をとても愛していたし、何より、桜餅が好きであったと。

 息子も桜餅が好きな人であればいいのにと願いながら、春露は自分で、頭蓋骨の欠片を入れられそうな入れ物を探した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ