第八章:禁忌の迷宮、規則の欠陥
境界の暗き市場の奥深く、濃霧に包まれた盆地の中で、強い「空虚」の雰囲気を漂わせる謎の建物がひときわ異彩を放っていた。
それはありふれた石造りや木造の建物ではなく、まるで凝固したかのような影で、ねじれた線と脈打つような冷たさを帯びていた。
建物は目に見える禁忌に囲まれていた。それは伝統的な金網ではなく、水波のように流れる歪んだ空間エネルギーが、目に見えない結界を幾重にも重ねている。
近づくだけで、強い反発力と空間の混沌を感じ取ることができた。
「左師匠、この禁忌は……実に強力です。こんな姿は見たことがありません。」神韻は厳粛な表情で建物の前に立っていた。鎮魔隊の精鋭として、彼は様々な禁忌を見てきたが、目の前の禁忌は、全く理解できない感覚を与えていた。彼らは従来の五行や陰陽の原理に従わず、空間と知覚に直接作用しているようだ。
神韻に付き従っていた鎮圧部隊の二人も、このプレッシャーを感じていた。彼らは熟練した修行者だったが、この瞬間、体内の霊力が少し鈍り、周囲の空気が凍りついたように感じられた。
左無文は何も言わなかった。顔の笑みを消し、かつてないほどの集中力でそれを表現した。彼は急がず、建物の周りをゆっくりと歩き、スキャナーのように歪んだエネルギーの流れを注意深く観察し、時折目を閉じて精神力で禁陣内の規則を感知した。
彼は馴染みのある「空」の息遣いを感じたが、ここではそれはもはやかすかな残滓ではなく、建物自体と周囲の禁陣と一体化した、実体のある存在だった。これらの禁陣は「空」の力に基づいて構築されているのだ。
「これは伝統的な禁陣ではない。」左無文は何かを考えているかのように、低くゆっくりとした声で言った。「彼らは『空』の特性を利用して『無』と『間』を作り出している。それぞれの結界は力で遮断するのではなく、乗り越えられない『隙間』、あるいは『存在しない』領域を作り出すことで隔離する。もし力ずくで破ろうとすれば、その『隙間』に囚われ、迷子になるだけだ。」
神雲は困惑したが、左無文の判断を信じていた。鎮魔部が常用する、暴力で禁を破るという手段は、ここでは絶対に通用しないと分かっていた。
「では…どうやって入ればいいんだ?」神雲は尋ねた。
左無文はすぐには答えなかった。彼は建物の周りを半周し、ようやく他の場所と何ら変わらない場所に足を止めた。彼は手を伸ばし、何も触れずに指を優しく空中に滑らせた。しかし、指の軌跡の周囲に、歪んだエネルギーが流れ、かすかな揺らぎを帯びていた。
「すべての法則には欠陥がある」左無文は囁いた。「『空』の力は『無』と『間』、『不可視性』と『浸透』を生み出すことにある。だが、その弱点もまた、それ自身にある。『媒介』と『対象』を必要とし、『実体』の中に真に『存在』することはできない。これらの制約は強力ではあるが、それでも『存在』し、構築された『法則』である。法則である限り、理解し、活用できる余地はあるのだ。」
彼は目を閉じ、精神力を周囲の『空』の力の知覚に完全に浸した。彼は青山鎮と清水県で感じた「空」の息吹、境界の闇市で虚空略奪者の死体に触れた際に感じた断片的な情報、そして清峰寺の古書に記された「空」の記録を思い出した。
彼はこれらの制約の「規則」の中に「間隔の間隔」、あるいは「無の中の実体」を見つけようとした。彼が探していたのは制約の弱点ではなく、制約の「自己構造」の中にある「存在しない」場所だった。
これは極めて抽象的で危険な知覚方法であり、まるで歪んで不安定な空間エネルギーに自らの精神を統合しようとしているかのようだ。一度間違えれば、精神は引き裂かれ、「空」の無の中に迷い込んでしまうかもしれない。
神韻たちは不安そうに左無文を見た。エネルギーの揺らぎは感じられなかった。左無文はただそこに微動だにせず、穏やかな表情で立っているだけだった。しかし、額からは既に細かな汗が滲み出し、彼の体を取り囲む空気が歪んでいるようだった。
時が経つにつれ、空気の緊張はますます高まり、神韻は彼の心臓の鼓動さえも聞き取ることができた。
突然、左無文の目が開き、そこに明るい光が走った。
「見つけた」彼は静かに言った。その声色には、隠し切れないほどの興奮が滲んでいた。
彼は手を伸ばした。護符も呪文も使わず、ただ指を合わせ、奇妙な角度で、まるで水を貫くかのように、目の前の歪んだエネルギーの流れの中に優しく差し込んだ。
奇跡が起こった!彼の指は拒絶されることも塞がれることもなく、まるで存在しない空気を通り抜けるかのように、滑らかに禁断の領域へと入っていくのだった!
「どうして…どうしてこんなことが!?」神韻は叫んだ。禁域に対する彼の認識を覆すような衝撃だった!
左無文の指が禁域に入ると、彼の全身はまるで霧が流れるように滑らかで奇妙な姿勢を取り、ゆっくりと禁域へと「滑り込んで」いった。彼の動きはエネルギーの変動を起こさず、禁域に触れることもなかった。ただ静かに「溶け込んで」いった。
「ついて来い」左無文の声が禁域から聞こえてきた。どこか余裕を感じさせる声だった。
神韻は驚きながらも、ためらっている場合ではないと悟った。歯を食いしばり、左無文の真似をして、特別なリズムと角度で禁域へと「滑り込む」ように体を導こうとした。
しかし、強い反発力を感じるだけで、まるで見えない壁にぶつかるような感覚に襲われた。
「だめだ!左道士の力がなければ、到底入れない!」鎮魔隊の隊員が不安げに叫んだ。
左無文の声が再び響いた。「そんな馬鹿なことを突っ立っていてはいけない。『空静』の理を理解していないなら、当然その『間』を突破することはできない。だが…これらの制限は『空静』によって築かれたものだが、それでも『扉』が必要なのだ。いかなる制限も、究極的には外部からの侵入を阻止するためのものであり、自軍を閉じ込めるためのものではない。内部への通行には『権威』か『法の抜け穴』が必要だ。この『法の抜け穴』を見つけさえすれば、必ず入ることができるのだ。」
彼は制限の内側で立ち止まり、精神力を伸ばし、神韻たちを知覚へと導いた。
「よく感じてごらん。この制約は…複雑に絡み合った渦巻きのようだ。渦の中心は建物そのもの、外周は流れ込む制約エネルギーだ。しかし、渦の縁には…必ず『吸引』あるいは『引っ張る』方向がある。その方向こそが彼らが設定した『入口』であり、言い換えれば、制約そのものの『空』という特性では完全に覆い尽くすことのできない『実体』の点なのだ。」
神韻たちは左無文の導きに従い、制約を破るという従来の考えを捨て、精神力を用いて制約内のエネルギーの流れと規則的な構造を感知するようになった。彼らはエリートだ。左無文ほど深く『空』の力を理解してはいないものの、それでも彼らの知覚と理解は優れている。
困難な試みの末、神韻はついに、制限の限界点にある地点で、それまでの反発力が弱まり、か弱い呼吸のようなリズムに取って代わられたのを感じた。
「ほら!感じる!」神韻は興奮して叫んだ。
「そうだ。あの場所は、禁令が『彼ら』が出入りできるように残した『生きた口』だ。他の場所と同じように見えても、『空虚』の度合いは異なり、まるで絵画の空白のようだ。」左無文の声は称賛に満ちていた。「さあ、精神力を集中させろ。攻撃のためではなく、そのリズムに『一体化』するためだ。水の流れに従うように、それに従うのだ。」
神韻は深呼吸をし、左無文の導きに従い、精神力をその弱いリズムと同じ周波数に調整し、そして身体をそのリズムに『一体化』させようとした。
今度は、反発力は消え去った。彼の体はまるで柔らかい膜を通り抜けるように、スムーズに禁の奥へと入り込んでいった。
真蹟組の他の二人も、それぞれの「生きた口」を見つけ出し、次々と侵入していった。少し照れくさそうに見えたが、ついに禁の核心部への侵入に成功した。
「左師匠、どうしてこんな方法を思いついたのですか?」神韻は真摯に尋ねた。こんな禁を破る方法は前代未聞だ。
左無文は微笑んだ。「言っただろう、どんな法則に従う力にも欠点はある。『空』の力は奇妙ではあるが、無秩序ではない。『媒介』と『標的』が必要で、作用するには独自の『文法』に従う必要がある。そしてどんな『文法』にも例外と盲点がある。これらの制約は、まるで呼吸する生き物のように生きている。『呼吸』する点さえ見つけられれば、侵入できるのだ。」
彼はどのようにして直接的に束縛を突破できるのか説明しなかった。それは、清峰寺の開祖が残した古代の足技と「空」の力の知覚を組み合わせることで、空間の「間」を予備的に利用したに過ぎなかった。これは神韻たちよりも深く、より本質的な突破方法だった。
彼らは今、建物本体の前に立っている。固まった影で構成されたこの建物は、より強い冷たさと圧迫感を醸し出していた。左無文は、本当の危険が始まったばかりだと悟った。
「気をつけろ」左無文はそう注意し、建物の扉へと歩み寄った。
扉は隙間なくしっかりと閉ざされており、まるで壁と一体化しているかのようだった。神韻たちはすぐに緊張し、仕掛けや罠がないか対処する準備を整えた。
左無文は何もせず、ただ扉の前に立ち、「扉」の周囲を流れる「空」のエネルギーを注意深く観察していた。彼は手を伸ばし、再びあの奇妙な方法で、まるで存在しない空気に触れるかのように、優しく指を「扉」の表面に差し込んだ。
今度は無理やり押し込むのではなく、精神力で「扉」の「空」のエネルギーと交信した。彼はこの「扉」が物理的な障害物ではなく、より複雑な「間隔」の結節点であることを感じ取った。それはスイッチのようなもので、正しい「空」の周波数、あるいは「空」の論理で触れることによってのみ開くことができた。
彼は、虚空の略奪者が貪り食う際に影や反射を媒介として用いていたこと、そして虚空の略奪者の体に刻まれた複雑な痕跡を思い出した。彼はその「周波数」を模倣し、あるいはその痕跡と「扉」との「論理的な繋がり」を見つけようとした。
彼は精神力を複雑な「空」の刻印の形に凝縮し、まるで見えないボタンを押すかのように、この「精神刻印」を「扉」の表面に優しく押し付けた。
音もなく、光もなかった。凝固した影でできた「扉」は、沸騰する液体のようにわずかに歪み、そしてゆっくりと静かに両側に「溶解」し、暗い内部空間を露わにした。
扉が開いた。左無文は再び独自の方法で、「空」の力による防御を破った。
神韻たちは、左無文の能力に再び衝撃を受けた。禁令は既に十分に困難だと考えていたが、扉でさえこれほど多くの策略を弄するとは予想していなかった。
扉の向こうの空間は、想像以上に冷たく、陰鬱だった。強烈な「空」の息が彼らの顔に吹きつけ、まるで果てしない虚無へと吸い込まれていくようだった。
「行こう。」左無文はためらうことなく先導した。
神韻たちはすぐにそれに続き、この神秘的な建物の内部へと足を踏み入れた。そして、彼らがこれから直面することになる「空」の力に基づいて築かれた奇妙な世界へと足を踏み入れた。