転校生
それは、俺が中学を卒業して間もない、桜の花が散るころの季節だった。飼っていた猫が死んだ。
俺が小学校一年の頃だっただろうか。家の前に一匹の子猫が捨てられていた。段ボールに『拾ってください』と書かれてあった。よく見る典型的な捨て猫だった。当時から猫が好きだった俺はこの愛くるしい茶色の毛の子猫が見捨てられず「みーちゃん」と名付け両親に隠れて世話していた。見つかった時はヒヤヒヤしたが両親は、俺を叱りつつもこの子猫を飼うことを許してくれた。
そんな出会いから9年、みーちゃんは俺の枕元で死んでいた。余りにも突然の出来事で俺は、半年は立ち直れなかった。
そんな俺だが今や高校二年生。特に何事もなく平和に過ごしている。そして今日、転校生が来るらしい。噂によるとかなり可愛い女子らしい。
「よう、仁。相変わらずしけた面してんな」
「うるせぇ。そっちだっていつも通りヘラヘラしてるだろ」
「まあまあ、そう言うなって」
このヘラヘラしているアホ面は立花魁人。中学からの付き合いで親友と言っていいだろう。本人の前でそんなことを言うと調子に乗るのが目に見えているから言わないが。
「今日、転校生が来るんだってな。どんな奴だろうな」
「さあな。噂じゃかなり持ち上げられてるが」
「ま、俺には夏帆が居るから転校生が噂通りでも響かんがな。ハッハッハ」
「そうですかそうですか。恋人仲がよろしいようで何よりだ」
「お前もいい加減、彼女作れよなぁ。彼女ができたら人生変わるぜ?」
「そういうのいいから。俺は、どうせ万年独り身ですよぉだ」
「んじゃ、そろそろホームルーム始まるし席戻るわ」
「ん」
魁人との雑談を終わらせ俺も席に戻る。
「起立。礼」
「「「お願いします」」」
「お前らも知っているだろうが今日から転校生が来る。一之瀬、入ってこい」
「は〜い。っ!」
ん?転校生…一之瀬だったか一瞬驚いた様子でこっちを見ていた気がする。まぁ、気のせいか。
「一之瀬麻緒です。今年からみんなよろしく〜」
「んじゃ、一之瀬。席は…藤崎の隣でいいだろう。
藤崎、この学校のことしっかり教えてやれよ」
「あっ、はい」
「それじゃ、後は特に連絡もない。解散」
ホームルームが終わり、各々が散る。
「ねぇねぇ!君の名前は何ていうの?」
さっそく一之瀬が話しかけてきた。
コミュ力高いな…
「仁」
「そうなんだ!いい名前だね。仁君、これからよろしく〜」
「あぁ、よろしく」
そんな軽い挨拶を交わしたあと。俺達は、授業へ意識を切り替え、授業の準備を済ませる。
一之瀬に移動教室の場所だとか食堂はこれが旨くて安いだとかそんなことをしているうちにあっという間に帰りのホームルームの時間になっていた。
「ねえねえ」
「ん?」
「仁君ってさ。私と帰る方向一緒だよね」
「ん?そう…なのか?そもそも、何で俺の家の方向知って、、、あ、他のやつに聞いたとか?それなら…」
「ううん。聞いてないよ?何で知ってるか…
知りたい?」
「ん、そりゃ。今日初対面のやつに家知られてるってのは気になるが…」
「それじゃあ放課後ちょっと付き合ってよ!」
「あぁ…分かった」
「それじゃ、先に下駄箱で待ってるね」
「ん」
そうして一之瀬は下駄箱へ向かって行った。