冒険に行こう!~パズルの木を捜して
アークの執務室に再び集まったのは、
以前と同じ勇者の鎧を着たジーク。ジークは一メートル半と二メートルの二本の両手剣を担いでいる。さらにリュック。
黒を基調とした戦闘服を着た、シエルと同じくらいの身長のアーク。
白のローブ、白の司祭の帽子をかぶって、水色の石が入った杖を持ったローラ。
アークにもらった赤を基調としたローブを着たシエル。
そして、シエルの腰にくしゃみ。
「くしゃみ、これで冒険に行けるの?」
「ああ、シエル。冒険に行こう」
「やった! みんな、よろしくね!」
「「「……」」」
「あの、ここまでノリでやってしまったが、僕、この城を抜け出すことができないんじゃないかと」
アークがつぶやく。
「そんなことは気にするな。ほれ集まれ」
と言うくしゃみの声に、シエルを中心にして三人が囲む。
「では行く」
しゅわん!
「ここは?」
アークがくしゃみに聞く。
「お前の城から出たところだ」
「だよね。どう見ても、見覚えのある火山だし、暑いし」
「ねえ、本当に行くの?」
ローラが聞く。
「もう、あきらめろって。イクスを怒らせると怖いんだよ」
ローラに答えたのはジーク。
「おい、三人とも言っておくが、俺様の今の名前はくしゃみだ。くしゃみと呼べ」
「「「……」」」
「それからな、ご主人様はシエルだ。お前達はシエルを守れ。いいな。特に金銭的にもだ」
「「「……」」」
「というわけで、シエル、どっちへ行く?」
「んー、山を越えるしかないんだよね」
「そうだな」
「じゃあ、山を越える。あっちに行こう!」
と、シエルが火山を指さした。
「いやいやいや、火山は危ないから、あっちに道があるから、とりあえず、道を通って火山を抜けようよ」
と、アークがシエルに提案する。
「えー、だって、火山に何があるか知りたいじゃん」
「知る前に死んじゃうから。お願いだから、とりあえず、火山はよけようよ。その向こうに……モゴモゴモゴ」
くしゃみがアークの口を塞いだ。
「これはシエルの冒険なんだ。ネタバレはするんじゃねぇ」
アークはコクコクと頷く。
「わかった。じゃあ、とりあえず、道なりにすすもう!」
シエルが声を上げる。
「おー!」
と気合を入れるのはくしゃみ。
「「「おー」」」
テンションが低いのはジーク、アーク、そしてローラ。
それでも、シエルが歩き出すと、三人もそれについて行く。
「ま、いいか。あそこでどれだけ筋肉が育ったか、確かめに行かなきゃな」
ジークが言う。
「僕も書類ばっかりは飽きちゃってたし、たまには冒険もいいよね」
アークも同意する。
「何かおいしいものが食べられるかしら。宝石も見つかるかしらね」
ローラも楽しみを見つけようとする。
「そう言えば、シエル。このパーティのリーダーはシエルでいいんだよな」
ジークがシエルに聞く。
「???」
シエルが首をかしげる。が、ジークは気にせず続ける。
「シエルのこの冒険の目的は何なんだ?」
「ん。知らないことを知りたい。みんなで楽しみたい。みんなで喜びたい」
「ま、冒険なんて、そんなもんだよな。でも、捜したいものとか何かないのか?」
「うーん」
シエルは考える。そして思いつく。
「パズルの木!」
「なんじゃそりゃ」
「えへへへ。パズルの神様に会って、お礼を言いたいんだ。くしゃみに会えた。仲間ができた。冒険に出られた。嬉しい。だから、パズルの神様に会うためにパズルの木を捜す」
「パズルの木もパズルの神様もわかんねぇが、ま、楽しそうだな」
アークとローラも頷き返す。
「よし、行こうぜ、シエル。もう一回掛け声をかけてくれ」
「掛け声?」
「ああ、さっき、ちょっと気合が入ってなかったからな」
「ふーん」
先頭を歩いていたシエルが振り返り、三人と向き合う。
くしゃみがふわりとシエルの横に浮かぶ。
「冒険に行こう!」
「「「「おー!」」」」
ジーク、アーク、ローラの三人は力強くこぶしを上げた。
あはははは
四人とくしゃみは道を進んでいく。
「おいアーク、自分の剣は自分で持ってくれよ」
「僕の身長じゃ、二メートルの剣なんてもてないだろうに。見りゃわかるじゃん」
「じゃあ、何で持ってきたんだよ」
「僕は戦う時は三メートルになるって知っているだろう?」
「そりゃそうだけどさ」
「いいじゃない、それも筋肉を鍛えるのにいいかもしれないわよ」
「そういうローラ、おまえ、着替えくらいしか荷物もってねえな。少し持てよ」
「いやよ。わたし、姫様なんだから、甘やかしてくれなきゃ」
「なんか、王子様も姫様も王様も、思ったのと違う」
シエルが王子、姫、王様に会った感想をつぶやく。
「あはははは、シエル、王子だって姫だって王様だって、みんな一緒だってことだよ」
アークが言う。
「えー、そうなの?」
「そうだよ。みんな一緒だよ」
「アークは王様だし悪魔じゃん」
「ちょっと身分と姿が違うだけでしょ。それを言ったら、ジークとローラだって身分も違えば、髪の色から目の色から違うじゃん」
アークは続ける。
「身分が違ったって、姿が違ったって、好きな物を好きっていうのも、好きなことをしたいっていうのも、同じなんだ。だから、みんなが冒険が好きで、みんなで冒険に出たいって思えば、みんなで一緒に行ける。こんなふうにね」
「うん。そうだね。姿は違っても、みんなおんなじなんだね。だから、一緒に冒険ができるんだ」
「そうよ。みんな一緒なの。だからね、アーク」
話を聞いていたローラが話に割って入る。
「なに? ローラ」
「貴方が持ってきたお金もみんなのものよね」
「……」
「そうだぜ、よろしくな、会計係アークさんよ」
「よろしくね。会計係さん」
「「あはははは」」
「シエルちゃん、街に着いたら何食べようか」
「うーん。ケーキとかお菓子とか、食べてみたい」
「一緒に食べよう。アークがお金を払ってくれるから」
「うん! アーク、ありがとう!」
「……」
あははははは
あはははははははは
こうして、冒険に出たシエルと仲間達。
どんな出会いが待っているのか。どんな楽しみにどんな喜びに会えるのか。
パズルの木は見つかるのか。
魔王城
「魔王様―!」
「魔王様はどこへ―!」
ひとまずここまで。
わんもです。
冬の童話祭2025楽しいです。
以前、「パズルの木」という童話を書いて、童話祭の前に投稿しちゃって(苦笑)。
なので、改めまして、「パズルの木2」です。
ですが、お話は冒険に出るところまで(どこかでも書いたけど、マルチタスクができない……)。
自分でもちょっと楽しそうだな、って思っていますので、いずれ続きを書くかもしれません。
冬の童話祭2025を楽しんでもらえる、その一助になっていたら嬉しいです。