仲間になって……くれないの?
しゅわん!
シエルとくしゃみが現れた先、シエルに振り下ろされる大剣。
ガキン!
大剣と宙に浮いたくしゃみが交わる。
その音にアークもローラも目を見開いて固まる。
「な! 何だ貴様は!」
ジークが目の前に現れた少女に驚き、声を上げる。
「おいジーク、俺様のご主人様に剣を向けるとはいい度胸だな」
「はっ! 俺様?」
「おいジーク、今から冒険に行くぞ。用意しろ」
「は? 何言ってんだこのナイフ」
「お前、もう俺様のことを忘れたのか?」
「……まさか、お前、イクス、イクスカリバーなのか?」
「ようやく気付いたのか、今はこの娘、シエルに従っている。だからナイフの姿をしている。しかし、俺様は今まで以上にパワーアップしているぞ。試してみるか?」
「っていうか、なんで浮いているんだ?」
「だから、パワーアップしたと」
「ねえ、くしゃみ、この変態おじさんだれ?」
シエルがジークに聞く。
「変態……」
ジークがあっけにとられる。
「この男が、王子様だ」
「えー!? 想像と違う。王子様って、もっとさわやかでかっこよくて、歯がキラーンって」
「あはははは。言ったろう? 脳筋だと」
「むぅ」
シエルが口をとがらせる。
「おいおいイクス、久しぶりだが、僕のことを無視するんじゃない」
アークがくしゃみに話しかける。
「お前、誰だ?」
「剣を交えた相手だっていうのに、忘れたのか?」
「俺様はちびっこに刃を向けるような主人を持ったことはない」
「ちびっこ言うな。僕は魔王アークだぞ!」
「え? 魔王アークって、身の丈三メートルは……」
「あれは、借りの姿だ。あれ、疲れるから嫌なんだけど、この姿だと、戦ってくれないだろう?」
「お前がローラ姫を返してくれれば戦う必要はなかっただろうに。ハッ、そう言えばローラ姫は?」
「ここにいるわよー」
と、ソファに座ったままのローラが手を振る。
「……えっと、これ、どういう状況?」
くしゃみが確認する。
「まあいい、僕が説明する。簡単に。つまりな、僕とジークの戦いの最中にお前が消えて、ジークが戦意喪失。それでジークにはこうやって僕の護衛として働いてもらっている。ローラは見てのとおり、この部屋の管理をしつつ、だらだらしてもらってる」
ローラが手を振る。
「というわけでだ、ここで仲良くやっている。時々ジークとローラが痴話喧嘩をするのがうるさいが」
ジークとローラはほほを染める。
「あれ、ジーク、ローラ姫と付き合っちゃってんの?」
と、くしゃみがジークに聞いたところで、
「くしゃみ、冒険に行くんじゃないの?」
と、シエルがくしゃみに問う。
「はっ。そうだった」
くしゃみがジークに向く。
「ほら、冒険に行くぞ。用意をしろ」
「え、やだよ。ここ、快適なんだよ。それに筋肉を鍛えるのが忙しいんだ」
「おい、イクス。そのむさくるしいの、早く連れて言ってくれ」
「そうですわ。筋肉を見せつけて来てセクハラがすぎます。早く連れて行ってください」
アークとローラがジークを売る。
しかし、冒険に行ってもらえない、仲間になってもらえないことを察してシエルが悲しみの表情を浮かべる。
「くしゃみ、誰もついて来てくれないの? 仲間になってくれないの? 冒険に行けないの?」
と、シエルが涙目になる。
「ちょ、ちょっとまって、今説得するから。すぐに出られるから」
と、くしゃみはジーク、アーク、そしてローラに向かって言う。
「お前達、今すぐ冒険の準備をして来い。でないと……」
くしゃみは宙に浮いたまま百の刃に分裂する。
「串刺しにするぞ!」
「「「ひぃ!」」」
「急げ!」
「な、なんで僕まで?」
「私はここでのんびりしていたいのに!」
「うるさい! 急いで用意をしろ、それから、金もシエルの服も持ってこーい!」
と、くしゃみが強盗のように恐喝する。