冒険には仲間が必要
シエルとくしゃみは海岸に座って海を眺める。
「ねえくしゃみ、冒険って何?」
「冒険か? 冒険って言うのはな、仲間と一緒に知らないところに行くことだ。知らないところだから、何がいるか、何があるかわからないんだ。それを見に行く、それを捜しに行く、それが、冒険だ」
「くしゃみも冒険したの?」
「ああ、ずっと前にな」
「どんなところへ行ったの? 何があったの?」
「教えてやらん。そう言うのは自分で冒険して見るのがいいんだ」
「へー、前の王子様と冒険したの?」
「いや、あいつは姫を助けることしか考えてなかったからな。冒険と言うより旅だったかな」
「そうなんだ。冒険と旅って違うんだね」
「ああ、冒険はワクワクする。知らないことを知れて、驚いて、喜んで、それを仲間達と共有するんだ」
「楽しそうだね」
「ああ、楽しい」
「私とくしゃみは仲間?」
「ああ。仲間だ」
「じゃあ、一緒に冒険できる?」
「冒険ってな、危険なところも歩くし、魔物や魔獣も出てくる。もしかしたらドラゴンに出会ってしまうかもしれない。危険なんだよ」
「くしゃみがいるじゃん。守ってくれるんでしょ?」
「ああ、もちろんだ。シエルは俺様が守る」
「じゃあ、冒険に行く?」
「シエルが大人になったらな」
「えー、なんで?」
「シエル、弱っちいじゃん」
「そんなことないよ。魚だって獲れるし木にだって登れるもん」
「……子供はな、お金を稼げないんだよ」
「お金? お金って?」
「シエルは今、魚も果物も自分で取って食べているよな」
「うん」
「冒険では、そういうのもするけど、人がたくさんいる街に行くとお店があってな。そこではおいしいお菓子もケーキも食べられるんだ。そういうときにお菓子やケーキと交換するのがお金だ」
「お菓子? ケーキ?」
「ああ、シエルが食べている魚より果物より、ずっとずっと甘くておいしくてな、ほっぺたが落ちちゃうかもしれないぞ」
「くしゃみ、食べたことあるの?」
「いや、俺様は剣だから」
「じゃあ、何で知ってるのさ」
「冒険した仲間が、特に女どもが街に行くと必ず食べていたからな」
「むむむむむ。くしゃみ、冒険のこと教えてくれないって言ってたのに、そんなこと教えてくれるのずるいじゃん。くしゃみ、冒険に行きたい」
「だから、大きくなったらって」
「やだやだやだ。行くの!」
「……お金どうするんだよ。荷物だって持たないといけないんだぞ?」
「お金ってどうしたら手に入るの?」
「それこそ、冒険してお宝を見つけるとかな、魔物を狩って売るとかな」
「冒険に行かなきゃお金が手に入らない。でもお金が手に入らないから冒険に行けない……」
シエルがあからさまに悲し気な顔をする。
そして、シエルはそっと立ち上がって、洞窟へととぼとぼと歩き出した。
「お、おいシエル。俺様を置いて行くなって」
シエルは聞こえているのかわからないが、振り返ることなく歩いて行く。
「おい、おーい。シエル、シエルさん? こんなところに置いておかれたら、俺様、錆びちゃうから、錆びちゃうから―」
シエルは振り向かない。
「……」
くしゃみは決める。
「わかった! 冒険に行こう! 仲間を、大人の仲間を連れて行けばいいだろう? それなら、お金も手に入るし……そうだ。お金を持っていそうなやつを連れて行こう! シエル。冒険に行こう!」
キラーン!
シエルが目を輝かせて振り返った。
シエルは、くしゃみのところまでダッシュで戻り、
「くしゃみ! 冒険に行こう!」
くしゃみを握り、海に向かって掲げた。
「で、どうするの? 仲間? 仲間がいるの? どっちに行くの?」
「まあまあ、待てって。まずシエル。シエルは何を持って行くんだ?」
「うーん。何を持って行ったらいい?」
「着替えとか」
「これしかない」
シエルは着ているワンピースをつまむ。
「なんかごめん」
「ううん。他には?」
「大事な物とかは?」
「あ、バックと、おじいさんの本」
「よし、それを持って行こう」
「うん」
シエルは洞窟に置いてあったバックにおじいさんの本を入れる。いつも使っていた石のナイフも一緒に入れる。
そして、腰にはくしゃみを装備。
「くしゃみ、いいよ」
「よし、行くぞ!」
しゅわん!
洞窟からシエルとくしゃみが消えた。