王子と王様そして姫
「ねえくしゃみ、王子様とかお姫様に会ったことがある?」
くしゃみは考える。そう言えば、前の主人もそうだったなと。
「ああ、ある。シエルの前の主人は勇者ジークと言ったんだが、たしか、王子だったはず。それに、勇者ジークが魔王から取り返そうとしていたのがローラ姫という姫様だった」
「へー、どんな人なの?」
「姫の方は知らないが、ジークは一言で言うと猪突猛進筋肉バカだな」
「何それ?」
「筋肉を鍛えて思うがままに走り回れば、何でも解決すると思っている男だ」
「へー。実際そうなの?」
「うーん。魔王に勝つにはまだ筋肉が足らなかったなー」
「そうなんだ。王子様、魔王に負けちゃったんだね」
「んー。知らない」
「何で?」
「勝負がつく前に、俺様の主人が変わったからな」
「……それって、王子様が魔王と戦っているときに使っていた剣がくしゃみだったってこと?」
「ああ、魔王を壁にくぎ付けにしようとしたところで、ここに召喚されたんだ」
「そうなんだ。王子様、大丈夫かな?」
「ま、いいんじゃない? 魔王だって話せばわかるかもよ」
「あはははは、そうなんだ。王子様、猪突猛進だから、魔王の話を聞く前に剣をふるっちゃったんだね」
「そういうこと」
「じゃあ、今頃、仲良くやっているといいね」
「「くしゅん」」
アークとジークがくしゃみをする。
「あら、寒かったです?」
ソファに座って優雅にお茶を飲むローラが二人に問いかける。
「いや、ちょうどいい温度だと」
「ああ、問題ない」
アークは、執務机に座って書類に目を通してはひたすらサインをしていく。
ジークはと言うと、アークの執務室内で上半身裸になり、アークからもらった一メートル半もある両手剣を握り、素振りをしている。
「ハッ、ハッ、ハッ……」
「あの、ジーク、素振り、外でやってくれない?」
「やだよ、暑いもん。なんでさ」
「ジークがそこで素振りをすると、部屋の温度が上がって、調整が難しいのですよ。それに……」
「それに、なんだよ」
ローラが視線をそらして言う。
「ジークの汗が部屋中に飛び散って嫌なのと、その上半身裸なのなんなんです? そんなに筋肉を見せつけたいのですか? 私は女性ですよ? セクハラです」
「この筋肉のな、一つ一つの動きを確認しながらだな……」
「見てないじゃないですか。服を着てても一緒でしょうに」
「あー! うるさい! ジーク、静かに剣を振れ。それから服を着ろ。ローラ、僕にかき氷を」
「はいはい」
「あ、俺にも」
「……」
ローテーブルを囲むようにソファに座ってかき氷を食べる三人。
「なあジーク、僕の執務室で剣をふるうのやめてくれないか?」
「嫌だよ。ここが一番快適だし、それに、お前の護衛だろう? 俺は」
「護衛にしたつもりはないんだが?」
「茫然自失としていた俺に、仕事は何でもいい、って言ってくれたじゃないか」
「そりゃそうだが、護衛には護衛なりに訓練場があるだろうに」
「ふん」
ジークはそっぽを向いて、かき氷を口にする。
「ローラ、ローラはいい。この部屋を快適に管理してくれているから」
「あー、ずりぃ。もしかしてアーク、ローラに気があるのかよ」
「うるさい、そんなんじゃない」
アークはローラに言う。
「だが、毎日毎日優雅にお茶を飲んでないで、少しは僕の仕事の手伝いをしてくれないか?」
「嫌よ。そんなの、そこの脳筋にやらせればいいじゃない」
「何? 俺に字が読めるとでも?」
「私だって悪魔語なんてわからないわよ」
「嘘をつくな! 言葉が通じてるじゃないか。わかっているんだろう?」
ジークとローラは視線を逸らせる。