勇者ジーク対魔王アーク。そしてローラ姫の扱い
時は少々さかのぼる。くしゃみが転送されたそのちょっと前。
「魔王アーク! ローラ姫を返せ!」
「ぬははははは、返すわけなかろう。あんな利用価値の高い女はいない!」
ここは、南の大陸にある悪魔の国、魔王城。
周囲を火山で囲まれた不毛の地。
しかも、火山が高頻度で噴火しており、気温も高く暑い。
その魔王城の王の間でにらみ合っているのは、身の丈三メートルはあるであろう魔王アークと、聖剣イクスカリバーを構える勇者ジーク。魔王アークも二メートルを超える両手剣を構えている。
これまで何時間も剣を交えて来た。
流れる汗、消耗する体力。
「おい、ジークよ」
ジークの手に握られたイクスがジークに声をかける。
「もう、あれしかないんじゃないか?」
「だが、それだとイクスが!」
「構うものか。ローラ姫を助けるのだろう。俺様を使って、あいつを壁に縫い付けるんだ」
「それだとイクスが!」
「お前がもっともっと強くなって、魔王を倒せるようになったら、俺様を取り返し.に来てくれよ」
「グッ!」
勇者ジークは歯をかみしめる。
だが、確かにこのままでは負ける。
「イクス、ごめん」
ジークはイクスを魔王アークに投げつけるべく、イクスを強く握る。
「魔王アーク! 串刺しになれー! イクスニクスジャベリン!」
と、ジークがイクスを投げようと振りかぶる。
魔王アークが身構える。
だが、その次の瞬間、
シュワン!
イクスが消えた。
「「え?」」
目が点になるジークと魔王アーク。
「おいおいおい、いいシーンだったじゃないか。俺がお前が投げたイクスカリバーをつかんでだな、「うわはっはっは、これで貴様は武器も何もなくなった。投降するがいい!」とか、セリフまで考えていたんだが?」
魔王はジークに歩み寄り、肩をポンポンする。
「……」
「で、イクスカリバー、どうしたよ」
「……」
ジークはイクスが消えてしまった両手を見つめる。
「どっか、行っちゃった……」
「そうかそうか。ま、今一つ煮え切らない終わり方だったが、仕方ないだろう」
魔王は魔王の間の扉に向かって叫ぶ。
「おーい、終わったぞ。イクスカリバーの脅威は去った。入ってきていいぞ」
すると、魔王の間に悪魔達がなだれ込んでくる。
そして、勇者ジークの周りに集まる。
「勇者さん、頼みますよ。ローラ姫、もうちょい貸しておいてください。じゃないと、魔王様が仕事しないんです」
「そうですよ。ローラ姫がいてくれるから魔王様が仕事をするんです。せめて、魔王様が大人になって暑さに我慢できるようになるまで、どうかお願いします」
ぼふん!
魔王が小型化する。と言うより、子供の姿になる。
「あんな暑い執務室で仕事なんかできるか。ローラ姫の氷魔法で部屋が冷えるから仕事ができるんじゃないか」
「魔王様、早く大人になってください。お父上はあの暑い執務室で鍋焼きうどんを食べていらっしゃいましたよ」
「絶対に嫌だ。そんな昼食を持ってきたら、仕事を放棄するからな」
そんな魔王と配下の悪魔達の会話を聞いてジークが憤慨する。
「ローラ姫を何だと思っているんだ!」
「エアコン?」
「エアコン?」
「エアコン……」
「うがー! ローラ姫を道具扱いするなー」
「だが、ローラ姫も、魔力を全放出して寝ると、回復した時に魔力量が増えると喜んでいたぞ!?」
「……」
「まあ、お前もイクスがいなくなって、ここから移動できなくなったんだから、ここで働けって。何なら、僕の執務室なら、ローラのエアコンが聞いているからさ」
「……」