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くしゃみの扱い

「は?」

「くしゃみ。だって、くしゃみで出て来たじゃない」

「いやいやいや、俺様は仮にも聖剣だぞ? イクスカリバーだぞ? 誰もが憧れる剣なんだぞ?」

「だって、呼びづらいしかわいくないし。だからいいじゃん。くしゃみで」

「……」

「わたし、シエル。よろしくね、くしゃみ」

「……シエル、よろしくな……」


 イクス改めくしゃみはあきらめる。


「でだ、いい加減拾ってくれないかな」

「あ、ごめん」


 シエルはくしゃみを手に取る。


「ちっちゃくなってよかった。これで持ち歩けるね」

「ああ、頼むよ、シエル」

「じゃあ行こうか」

「行こうかって、どこへ? どこか行きたいところがあるのか?」

「罠に魚がかかってるかも。うろこ取ったり頭を落としたり、お願いね」

「ちょっと待てって、俺は聖剣なんだー!」


 シエルの腰にくくられたくしゃみの叫びが響いた。




「ぐすっぐすっ」

「くしゃみっておじさんなのに泣くの?」

「おじさんっていうな! どこに聖剣を魚のうろこ取りに使う奴がいるんだよ。どこに魚の内臓を取り出すのに使う奴がいるんだよ」

「くしゃみ、ありがとうね。いつもよりきれいにうろこも頭も取れたよ」

「どういたしまして」


 くしゃみはシエルにお願いをする。


「で、シエル、お願いがあるんだけど」

「なに? くしゃみ」

「ここ、海だよな」

「うん」

「魚さばいたよな」

「うん」

「うろこも魚の血も海水もついたまま、鞘にしまうんじゃねぇ! 洗ってくれよ。錆びるじゃん」

「えー。おじいさんにもらった石のナイフ、洗わなくても使えてるよ」

「それを魚をさばくのに使ってくれよ。で、お願いですから、真水で洗って、拭いて、できれば油を塗ってくれると嬉しいです」


 くしゃみは丁寧に言う。


「めんどくさいんだね」

「俺様を何だと……」

「わかったわかった」


 シエルは、普段飲み水を汲んでいる湧き水が出ている泉へと行き、くしゃみを水で洗う。

 そして、水を服で拭きとる。


「服で……」


 という、くしゃみのつぶやきは無視だ。

 むしろ、シエルは、悩む。


「油? 油……」

「……」


 嫌な予感を感じるくしゃみ。

 その期待を裏切ることなく、シエルが取った行動。

 人差し指で鼻の頭をなで、鼻の油を指に付け、それをくしゃみに塗った。


「ちょっと!」


 びくっ!


「キャッ!」


 くしゃみの突然の叫びに、指を滑らせてしまうシエル。

 くしゃみの刃に指を当ててしまい、指を切ってしまう。


「い、痛い、痛いよー」


 シエルはくしゃみを落として泣いてしまう。

 指の先から血が流れる。


「シエル、ごめん、ごめんって」

「痛いよー」


 泣き続けるシエル。


「シエル、俺様を握ってくれ。お願いだから、ちょっとだけ我慢して俺様を握って」


 シエルは、くしゃみの言うことが聞こえていないのか、指を押さえ続けている。


「シエル、頼む」


 その声に気づいたシエルが、泣きながら聞く。


「痛いよ。痛いのに、くしゃみで指が切れちゃったのに……」

「ごめん。俺様が驚かしちゃったから。だから、俺様を握って」


 シエルは、切れていない左手でくしゃみを握る。

 その瞬間、


「ヒール」


 と、くしゃみが治癒魔法を唱えた。

 シエルの切れた指先が緑色の光に包まれ、血が止まり、傷がふさがった。

 その様子を見ていたシエル。


「え? 怪我が治った? 治してくれたの? くしゃみが治してくれたの?」

「ああ、頼む、内緒にしておいてくれないか。俺様はただの剣、いや、ナイフ。それでいいから」

「すごい、すごいじゃん。ありがとう。ありがとうくしゃみ。怪我を治してくれて」

「あの、聞いてくれているか? 俺様がすごい剣だってことがばれると、狙われるかもしれない。だから、普通のナイフ扱いをしてくれていい」

「でも、くしゃみはすごい剣だよ」

「ほめてくれてありがとうよ。だけどな、シエルと一緒にいることになった。いることにした。離れたくはない。だから、誰にも狙われないように、普通のナイフとして扱ってくれ」

「話をしてくれないの?」

「二人っきりの時は、いつでもしてやるさ」

「じゃあ、いつでもいいじゃん。ここ、二人しかいないんだし」

「ま、そうだな」


 あはははは。


「シエル、よろしくな」

「くしゃみもよろしくね。くしゃみの洗い方とか、教えてね」

「ああ。頼むよ」


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