くしゃみ
「えーい、もう!」
少女は何かをあきらめる。
「このパズルを完成させた褒美として、お前の願いを一つ叶える」
「……」
今度はシエルが固まる。
「おーい。考えているのか?」
「願いって?」
シエルが少女に聞く。
「……えっとね。お前が欲しいものとか、お前が行きたいところに行くとか、そう言う願いだ」
「欲しいもの?」
シエルは考える。
欲しいもの。
おじいさんが亡くなってしばらくたつ。
その間、シエルは一人だった。
しゃべる相手がいなかった。
それが、今、目の前にいる。
この少女は一緒にいてくれるのだろうか。
願えば、一緒に。
シエルは、口を開こうとする。
が、なぜか、鼻がむずむずする。
「イックス!」
シエルはくしゃみをしてしまう。
が、その様子を見ていた少女は、大きく目を見開いて、シエルに聞く。
「そ、それがお前の願いか……」
シエルは、願いを言った記憶はないが、この少女はわかってくれたのだろうか、そう思う。
「うん」
シエルは答える。
少女は両腕を組んで、悩む。
シエルは心配になる。ダメな願いだっただろうか。
「「……」」
シエルも腕を組んで、少女が返事をくれるのを待つ。
「わかった」
おもむろに、少女が声を上げた。
「やった! 本当に?」
「ああ、今、イクスはあいつが使っておるが、まあ、いいだろう」
「???」
少女は前方に右手を伸ばし、その手を広げる。
そして、その手を握った瞬間、まばゆい光が生まれた。
「キャッ!」
再び目を隠したシエル。
光が収まった後、
「ほれ、これを」
と、少女がシエルに右手に持ったそれを差し出した。
「???」
シエルは、差し出されたそれを見る。
「えっと……」
シエルが疑問の声を上げる。
「ほれ、お前が望んだもの。聖剣イクスカリバー、通称イクスだ」
少女が差し出してきた剣は、どう見ても少女と同じくらいの大きさがある。
つまり、シエルともそう変わらない。
「えっと、私、友達が欲しかったんだけど」
「ん? わかっていて願ったんだろう?」
「……」
「ほれ」
と、少女は聖剣を突き出してくる。
「あの、私、話し相手が……」
「だからほれ」
少女はシエルの言葉を聞いてくれない。
仕方なく、シエルはその剣に手を伸ばす。
シエルが剣の鞘を握った瞬間、少女が手を離した。
剣の重さがシエルの両手にかかる。
「キャッ!」
カランカラン
剣が地面に落ちてしまう。
「いってー」
「……」
剣を落としたシエルが固まる。
剣が、剣がしゃべった。
「おい、イクスを大事にしてくれよ。昔の相棒なんだよ」
「相棒?」
「そいつとは昔、冒険をしたんだ」
「冒険?」
「……どこか行きたいところはないのか? そいつが連れて行ってくれるかもしれないぞ?」
「どこか? 行きたいところ?」
「そうだ。というわけで、私は私で行きたいところもあるし、もう帰る。それじゃな」
シュワン!
少女はパズルと共に消えてしまった。
「あー! 友達に……」
シエルがうなだれた。
そんなシエルにイクスが声をかける。
「おいおい、お嬢ちゃん、あんなやつのことは忘れなよ。俺様がいるじゃん」
「……剣が、剣がしゃべった」
「おう。俺様はイクス。聖剣イクスカリバーだ。よろしくな」
「剣がしゃべった……」
「それはいいからよ。これからよろしくって」
「だって、あなた重たいもん。私、持てないもん」
「……」
イクスは固まる。元々固まっているが、シエルにも雰囲気でわかった。
が、イクスもめげていてはいられない。
「ち、この俺様のかっこいいシルエットを捨てる時が来るとは……」
イクスは何かを力む。
すると、
ぼふん!
イクスが煙に覆われた。
「おじさん?」
シエルがイクスをおじさん呼ばわりする。
煙がはれたそこにあったもの。シエルでも扱えそうなナイフだった。
「おじさんはないだろう。イクスって呼んでくれよ」
「……イクス」
「おう。嬢ちゃん、よろしくな」
イクスはシエルに語り掛ける。
「で、嬢ちゃん、名前は?」
シエルはイクスの問いかけに答えず、イクスに提案する。
「イクスって呼びづらい」
「……」
「くしゃみ!」