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映る女性

どこか遠い昔の夢を見ていた。

ある日、俺は買ってきた対人ゲームを早速開封して友達と遊んでいた。俺は事前にどのキャラクターが環境的に強いか、下調べをして早速そのキャラクターを使うようにしていた。負けたくないからだ。

それに対して友達は、事前情報も何も見ていないから、デザインが格好いいという理由で環境的にそれほど強くないと言われていたキャラクターを使う。

ゲームに関してはお互いに初心者だとしても、基本的にはキャラパワーの強い方が勝つ。それは道理だった。何戦もしていると、ふと友達から「一回ランダムで色んなキャラクター使って対戦してみよう」と提案を受ける。勝利を得たことで自信を得た俺は今回も勝てるはずだと誘いに乗った。

だが、想定外にも俺は友達に何度も敗北をした。俺が勝てたのは、自分自身の操作スキルが優れているからでは無く、キャラクターが持つ強さに依るものだったのだと気がついた。


★☆☆☆☆


俺、一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)の意識が先行して覚醒する。身体の上にのしかかる毛布。肌に触れるエアコンの風と言う情報が俺の肌を介して伝わる。

それに遅れるようにして、モニターの作動音、ガラガラと何か台車のようなものを動かす音、空間内に漂う薬液の匂いが伝わってくる。

「……え……か……!」

誰かが俺を呼ぶ声がする。思考をクリアにして、声の正体を探るべく聴覚に意識を集中させる。やがて、言葉の輪郭が徐々に鮮明になってきた。

「もしもし、きこえますかーーー!!」

大声を掛けられたことに驚きつつも重い瞼をゆっくりと開く。そこに居たのは、三十代くらいの女性看護師。俺が覚醒したことにも安堵した様子は無く、真っ直ぐに俺の目を見ている。

「今、ここがどこだか分かりますか?」

視界から得られる情報から、推測する。半ばクイズをさせられているような感覚だが……。

「……病院?」……ん?

「そうです。それでは、お名前を言えますか?」

「えと、一ノ瀬 有紀です」

「今日の日付を言えますか?」

「……えっと、七月十二日、でしょうか」

矢継ぎ早に飛び交う質問に対し俺がそう記憶を基に答える。看護師は「分かりました」と、こくりと頷き、そして傍に引き連れてきたワゴンに乗せたパソコンに、何かをカタカタと打ち込む。恐らく今確認した情報を記録しているのだろう。

おおよそ俺の今の意識状態などを確認したかったのだろう。そして、俺は血圧や体温測定を行われ、看護師はその場を後にした。

看護師が去ってから自分の回答を思い返すと、自分の声音にどこか違和感があった気がする。

自分の声なのに、自分では無いような、まるでボイスチェンジャーを使っているような感覚だった。

その疑問点というささくれが引っかかって抜けず苦心していた。しかし、「失礼します」とカーテンの向こうから言葉がかかり、答えの出ない疑問を追う思考を一時中断する。そして、俺はベッド上でモゾモゾと動き、入口の方へ身体を向ける。

そのたびに全身に痛みが生じ、思わず苦痛に表情が歪んだ。

痛みが徐々に治まってきた頃くらいだろうか。カーテンが開き、首に聴診器を掛けた、やつれた風貌の白衣を着た男性がやってきた。風貌から推定するに、この人間は医師だろうか。

その男はバーコードのような頭皮をボリボリと掻きむしりながら、小さく礼をした。

「担当医の柴崎です。よろしくお願い致します」

「あ、はい。こちらこそ。一ノ瀬 有紀です」

柴崎と名乗るその医師は、レントゲンや採血データなどが書き記された書類を持っており、それらを俺へ渡してきた。

「一ノ瀬 有紀さん、ですね。土砂崩れに巻き込まれたとお聞きしております。災難でしたね」

「いえ、お気遣い有り難うございます……。正直驚きました」

「先日の大雨によって地滑りを起こしたのでしょう。……さて、本題に入らせて頂いてもよろしいですか?」

「あっ、すみません。お願い致します」

そう俺が答えると、医師は俺に対し今回の検査の結果を説明した。全ての会話を記すと長くなるので要点だけ説明するが、要は

①脳や臓器に特別な外傷は見つからなかった

②見当識(今自分が居る場所を認知する能力)や記憶にも障害が見られないことから状態は安定している

③ただ、全身状態が安定し歩行許可が出せるまではしばらくは安静が必要である

とのことだ。動けないのはかなり大きな弊害であったが、状況が状況なのでやむを得ない。

「分かりました」と答えたところで、再度検査データの画像を見ると違和感のある部分を見つけた。

名前の欄は恐らく当人からの回答が無く不明だった為か空欄となっていた。それはまあ仕方ないのだが、その隣にある性別の欄が()()()と記載されていた。

「あの、性別の所、打ち間違えていません?俺は男なのですが」

「は……?」

柴崎医師の目が明らかに懐疑的なそれに変わったのを見て、何かまずいことを言っただろうか?とどことなく焦りを感じた。そして「いえ、何でもありません」と慌てて訂正をした。


★☆☆☆☆


しばらくして、俺が伝えた住所、連絡先から両親へ連絡が行ったのだろう。慌てた様子で両親がやってきた。しかし、俺の表情を見るなり、徐々にその表情が硬くなる。

「有紀!!だいじょう、 ぶ ……?」

「お袋、どうした?」

「……あなた、誰?」

「は?おいおい、息子の顔も忘れたのか、俺は有紀だぞ」

何を馬鹿な反応をするのだ、巫山戯ているのかと俺はおどけた様子で笑うが、両親は至って真面目な顔をしている。

「一ノ瀬 有紀は男だけど……?」

「え?何言ってんの、()()()()()()()()()()()()()()()()

何を言ってるんだこの親は、ついに可笑しくなっちまったのか?と失礼な考えがよぎる。しかし、次の瞬間、父親の口から衝撃の言葉が飛び出した。

()()()()()()()()()()()()()()()。私の息子、一ノ瀬 有紀は男性だ」

諭すように掛けられた言葉のそれを、俺はそのままの意味で飲み込むことが出来なかった。その時、脳がスパークしたかのように、掛けられた言葉の一つ一つがパズルとなり、繋がっていく。

ボイスチェンジャーに掛けられたような、高い声音。

検査データの画像に記載された、[性別:女]と記載された項目。

そして、目の前の両親の反応。

馬鹿な、そのような事があるわけない。それは仮想のファンタジーでのみ起こりうる話だ。現実世界で起こっては成らないことだ。

現実世界でそれが存在するとなれば、VRの世界やネットといった、人間の手を介したものだけであって、決して神の手を介したものが存在するはずがない。

否定。否認。拒絶。俺はその一瞬でも過った可能性を少しでも振り払いたくて、目を逸らす。

まだ夢の続きだろうか?俺は長い、長い夢をまだ鮮明になった意識の中で見ているのだろうか?

いつか見たアニメを思い出す。そうだ、これは仮想現実の世界だ。決して今居る世界は現実ではない。ゲームの世界なのだ。

それにしては俺に関わる人間のリアリティが鮮明すぎる、これは俺の記憶を元とした最新グラフィックによるものか、と疑いたくなる。

俺は目の前に存在するバーチャル両親に声を掛ける。まだ二人は訝しげな目をしている。いや、大丈夫だ、これは現実に起きていることではない、と自分に言い聞かせた。

「なあ、スマホ貸して?」

母親からしたら、息子と認知できないその人間は無粋な人間に見えているのだろう。だが、そんなことはどうでもいい。

奪うように持ったスマホを手鏡代わりにして、反射した自分の姿を見る。

そこに映っていたのは、栗色のセミロングの髪を持った、目元がくりくりと丸い一人の少女だった。年齢は俺と同い年くらいの、可愛らしい少女だ。

だが、その少女に一つ違和感を持つとすれば、俺の動きに呼応するように動くことくらいか。俺が首を横に向ければその少女も俺と同じ動きをする。

「はは、……これが最新のVRか……?」

俺は目の前に映る、()()()の姿を真実として受け入れることが出来なかった。


続く

実際自分の行動通りに動くVRってすごいと思う(小並感)

多分仮想現実って単語でイメージ付く日と多いかなって思うけど、作品名は此処では出しません。

いわゆる「これはゲームであって、遊びではない」のアレです。アレ。

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