【おまけ】近所に住む女の子
著者の別作品『ベテランに見られないTSダンジョンおじさんの日常』の番外編にて、一ノ瀬さんをゲスト出演させたので特別編書きました。
最近、よく変わった女の子を見かけるようになった。
前から住んでいたのかな?私が気づいていなかっただけかも。
昔の私、あんまり他人に関心示すことなかったから……自信ないな。
「あっ、あの。おはようございます」
通学路を辿る先で、私は彼女と出会った。
すれ違いざまに挨拶してきたのは、長い銀髪を揺らした女の子。カッターシャツに、黒色のスーツパンツを履いている。胸元で揺れるネクタイは、青と白のストライプと、女の子のチョイスとしては……ちょっとだけ、おじ臭い。お父さんのネクタイ使いまわしているのかな?
見た目からすれば、中学生くらいにも見える。銀髪に関しては、最初は染めているのかと思ってた。
けど、いつ見ても黒髪が生えてこないところを見るに地毛のようだ。海外で育ったのかな。
そんな可愛らしい人形のような女の子に、私は目線を合わせて挨拶した。
「うん。おはよう、琴ちゃん」
「は、はいっ。一ノ瀬さん」
どうやら、彼女は“田中 琴”という名前らしい。
名前からして日本生まれなのかな?帰国子女?
健気に姿勢を正してお辞儀する彼女は、なんというか……子供らしくて可愛い。
男性だった頃には存在しなかったはずの母性が、心の奥底から込み上げてくる。彼女を見ていると「守らなきゃ!」と使命感に駆られる。
そんな姿を眺めていると、ふと脳裏から男性の頃の私が顔を出した。
『この女の子……俺と似たような境遇な気がしないか』
(そんな訳ないでしょ。というかあっち行ってよ、この間カッコつけて消えたくせに)
『たまには俺も思い出してくれよ……』
ちょっと寂しげにつぶやいた後、男性時代の一ノ瀬 有紀はどこかに消えた。
この間カッコつけて消えたんだから、二度と現れないでほしい。
プライドの結晶体め。
……まあ、過去の私と言われたらそれまでなんだけどね。今となっては、ちょっとだけ黒歴史。
客観的に見たら中二病だし。
「あっ、あのっ」
……うん?変な顔してたかな。目の前にいる琴ちゃんは、こてんと首を可愛らしく傾げてた。その動きに連なって、肩甲骨あたりまで伸びた銀髪が軽く揺れた。
「どうしました?一ノ瀬さん、私の顔に何かついてます?」
「ん?ううん。何でもないよ。琴ちゃんは今からどこか出かけるの?」
私がそう質問を投げかけると、琴ちゃんはぎくりと目を丸くした後に頷いた。
「えっ。あ、はいっ。ちょっとだけし……お友達の所に、ですっ」
「そっか、気を付けていくんだよ。悪い男の人に掴まらないようにね」
「は、はいっ。大丈夫です、ありがとうございます」
そう言って、琴ちゃんはぴょこんと大きく頭を下げた。その動作の一つ一つが、どうにも愛らしい。
少し間が開いた後で、ちょっと気まずくなったのかな。「あ、じゃ、じゃあ、失礼します」と言ってから、小走りで走り去った。
小動物のような可愛らしさを秘めた琴ちゃんの後ろ姿を見送ってから、「ぷっ」と笑みがこぼれる。
「あんな可愛らしい女の子、いつからここに居たんだろう」
「何の話ー?」
「おわあっ!みーちゃん、いつの間にいたの!?」
「さっきの女の子と話してる時から、遠巻きに眺めてたよー」
肩をすくめて微笑んだのは、私の後輩であるみーちゃん……船出 道音ちゃん。この姿になる前は、先輩後輩として適切な距離感を保っていたんだけど……今となっては、友達みたいなポジションに落ち着いたな。
どうやら、さっきの琴ちゃんと話しているのを見られたらしい。まあ別に悪いことをしている訳じゃないけど……何となく照れくさいな。
「このご時世、あそこまでピュアな女の子も珍しいなって思って……」
「守りたくなるタイプ?」
「そう……かな。ちょっと落ち着きがなさそうな感じがするし」
「あー、まあ分かるかも」
そこまで話したところで、みーちゃんは「てかさ」と一息置いてきた。
ん、どうしたんだろう。
「ゆきっちも、大概お母さんみたいなとこあるよね」
「おかっ……!?」
「面倒見が良いっていうかさ。元々一ノ瀬先輩だった頃からそう言うところが好きだったけど……うまく引き継がれてるなーって」
みーちゃんはどこか照れくさそうに、肩をすくめてそう笑った。
「うん。ゆきっちは将来良いお母さんになるよ」
「元男性としては、割と反応に困るなそれ……」
「いいのいいの。プラスに受け取っとけー!」
「みーちゃんキャラ変わった……?」
そんな風に談笑交わしながら、私達は肩を並べて通学路を歩む。
ちなみに今日は鶴山 真水はお休みだ。どうやら、病院の定期受診の日らしい。受診が終わってから学校に行くことも出来るかも、とは言っていたが……そもそも、総合病院というのは非常に込み合う為、いつ終わるかは予想がつかない。
時間割の調整という問題もある為、結局欠席という扱いになった。
「……お母さん、かー」
将来の話をされて脳裏をよぎるのは、やはり自分が母親となった姿だ。
……なんでだろう。自分の話だけど、すごくイメージがつく。
子供が出来ても仕事は続けてそうだし、キャリアウーマンのような立ち位置は崩さない気がする。保育所に子供を預けるか、それか結婚相手に子供の世話を任せている自分が容易に想像できた。
結婚相手に選ぶのなら、もちろんそれは……。
「……」
「あっ、照れてる。真水先輩のこと意識したでしょ」
「し、してないっ!」
正直、やはり将来誰と結ばれるかを考えた時。私は真水のことしか候補に浮かばない。
男性の頃はそのような意識などする機会もなかったが……彼はかなり優良物件だ。
中学の頃、同じ部活だったが。私の影で彼もそれなりに告白されていた記憶がある。
あの頃、誰かと結ばれていなくて本当に良かった。セーフ。
まあ、将来のことは将来のこと、だもんね。
とりあえず最優先すべきは今日の授業を乗り切ること、かな。
「ま、まあ。その話は置いておこっか」
「ダメ―」
「なんでっ!?」
みーちゃん、本当に意地悪になったね……。




