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推理


「理由はわかりました。それをテオドールさんにお伝えするのは構いません。ただ、その、この事件について処罰を下さないで欲しいというか、大事おおごとにしたくない場合はどうすればよろしいでしょうか・・・。」


「なに・・・?」


ポーションが足りなかった回数は、5万円×5本が7回。私が来てからだけでも175万の損失を負っている計算になる。私が来る前にも発生していたと考えると、被害額は或いはもっとであろう。大事にしないというのは無理がある話だということは理解しているが、どうしてもそうしたくなかった。

テオドールさんは私の発言を聞いてすこし驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの無表情に戻った。


「君がたどり着いた結論と、君が大事おおごとにしたくない理由を聞かねば私からは何も言えない。不足理由が人によって盗まれたというものならば、それは犯罪だ。それは君もわかっているだろう。」


「はい。」


「それを大事にしないことが果たしてその者のためになると言い切れるかもわからないぞ。・・・それでも君は、大事おおごとに、つまり皆の知るところにしたくないというのだな」


「・・・はい。」


決意を固めるように手のこぶしを握り締めて、テオドールさんを見つめた。

自分の判断が正しいかはわからないが、少なくとも今の段階ではこの事柄の顛末をみんなに知られたくないと思う感情は本物だ。

私の決心が堅いことを察したのか、テオドールさんは何を考えているのかわからないが、それでも強い表情でこちらを見つめ返してきた。しかし、少しの沈黙があった後、こう言った。


「よろしい。ならばまずは理由わけを聞こう。理由の如何によって、公にするか否かは私が判断する。ついてこい」


「!!はいっ!」



◆◇◆◇◆


こんな短期間で、2回も隊長の執務室にお邪魔することになるとは思わなかったな、と思いながら執務室の扉を開ける。ただし前回と違うのは、執務室への道のりがわかること、高級な調度品にいちいち驚かなくてよくなったことといったところだろうか。


入室するとすぐに、以前と同様に部屋の隅のソファに座らせてもらう。正面にはテオドールさんとグレルさんが腰掛けた。グレルさんは今回はもう初めから会話に参加する気満々のようだ。


「最初にほんの少しだけ違和感を覚えたのは、王宮内で事故があった日のことです」


私は倉庫から持参したノートを開き、二人に説明を始めた。


「この日、魔法演習による事故があり、1名が大けがを負いました。当日の動きを簡単に追って説明すると、ポーション倉庫から見える程近い場所で何やら事故があったことを聞きつけた私は、手に下級ポーションを持って現場に駆け付けました。でも、私の想像より遥かに大けがだったため、下級では用を為さないと判断し、別の人に倉庫から上級ポーションを持ってくるようにお願いしました。」


本当は、上級ポーションを持ってくるように指示をしたのは私ではないが、説明がしやすいように詳細は若干割愛しながら話を進めた。


「その人はすぐに上級ポーションを5本、つまり手に持てるだけ持ってきてくれました。すぐにそのうち3本を負傷者に使用し、それでも完治しなかったため医務室に運ばれたものの、一命を取り留めることができました。

それで、使用しなかった2本は後程私が責任をもって元あったところに戻しました。

余ったポーションを一人で棚に戻しているときに、私、あれっ?って思ったんです。

ポーション倉庫の位置からも、負傷している人は明らかに1名と見ることができたのに、なんでポーションを5本持ってきたんだろうって。」


「・・・ポーションの1日の使用効果は3本までということを考えると、少し妙だな」


テオドールさんが前髪をかき上げながら神妙な面持ちで相槌を打つ。


「ただ、まあ。何人けが人がいるかを確認せずに一度に持てる量をありったけ持ってきてくれたんだな、とか、そもそも非常事態にポーションは一日3本以上飲んでも効果ないとか考えている余裕なんてないだろうと思って、その時は特に気に留めていませんでした。」


話ながらその時について脳内で振り返る。

正直に言うと、余ったポーションを棚に戻しながら『なぜ5本持ってきたのかしら』という疑問なんて一切浮かばずに、『小さな手で、持てるだけいっぱい持ってきてくれたんだな』という感謝に近い感情を抱いたことを思い出した。


「次におかしいかもと思ったのが、今さっきテオドールさんとお話しているときです。テオドールさんには先ほど現物を見てもらったのでわかると思うのですが、今倉庫内にはホワイトボードがつる下げてあります。それは、私が不在の時にポーションを何本使ったかを記入してもらえれば、次に私が来た時にきちんと在庫数を処理しておくためのものです。このホワイトボードの使用方法については説明文を壁に貼ってあるので、内部の人でも外部の人でもホワイトボードの使用方法はわかると思います。」


「とすると、犯人は何故ホワイトボードに偽りの使用本数を書いておかなかったんだろうねえ」


今度はグレルさんが、不適な微笑みを浮かべながら言葉を漏らした。


「そう、そこなんです!先ほど倉庫でテオドールさんも仰っていた通り、ここに上級ポーション何本と記入さえしてあれば、私はなんら疑いなく処理をしていたと思います。でも、記載が無かったため、今回在庫不足に気が付きました。

とすると、持ち出した人は、ホワイトボードに書きたくても書けなかったのだと思います。なぜなら、ホワイトボードは自分の身長より遥かに高い場所に掲出されていたから・・・・。」


「待て、高い場所というが、ちょうど私の目線の高さにあったぞ。それが届かないほど背の低い人間は軍にはいないのでは・・・」



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