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帳簿を見せてください!


午後。まだ休んでいていいという二人からのありがたい提案を丁重にお断りして、早速ランスさんの仕事場に連れてきてもらった。

一応これから居候という身分でお世話になる以上、微力ながらお二人の力になりたいと思い、早速今日から事務仕事を覚えたいと自ら志願したのだ。


そこまで言うならと、ランスさんが主に事務仕事をする際に使っている部屋に案内をしてくれた。


「っても、俺は本当に事務仕事がからっきしダメでなあ、、、。エリカはどういうものが見たいんだ?」


「あ。とりあえずランスさんの家業の収支を拝見できれば。」


「シュウシ?なんだそりゃ」


おっといけない。こちらの世界では、収支(その月や年といった期間の収入や支出といったお金の出入りのこと)という言い方をしないのかもしれない。


「あ、お金がいくら入って、いくら出て行ったのかという記録です」


「おお!それか!それならこれだな。これがうちの農場での金の出入りの記録だ!」



そういうと、ランスさんは、薄いノートを一冊私に手渡した。


そのあまりの薄さに思わず困惑する。


「え・・。これだけ・・・?ですか?あ、これは今年の途中までということですか?」


「いや?俺がこの畑を受け継いだときからだから・・・30年近い記録か?」


「ええっ?!?!30年がたったこれだけ?!」


ランスさんが自身の父親からこの畑を受け継いでからの記録が、たった一冊のノートに収まっているというのである。

日本だったら普通、どんなに小さな企業でも、売り上げと費用とを丁寧に記録していたら、一冊で収まることなんてありえない。


つまり、日本ではあり得ないくらいの情報の無さなのである。


言葉の節々から感じていたが、ランスさんの会計仕事は、ザルを通りこしてワクそのものだった。確認のため、ノートをペラペラとめくるが、そこにはその30年間の収入しか記載されていなかった。


「あの、これ、収入しか書いていませんが、費用・・・従業員さんに支払っているお給金や、農作物を運んでもらう運送費、その他の経費はどこに記載がされているんでしょうか?」


「ああ?そんなものつけたことねーなあ。」


バツが悪そうに、ランスさんがほほをポリポリと掻きながら答えた。

あ。こういう反応、浜電の経理業務が苦手な人がしていたな。この反応は、費用の記録をつけなくてはならないということはわかっているけれど、面倒でわからないからやっていない人のそれだった。


「それじゃあ、もしこの農場が赤字だったとしても気が付けないですけど、それはまずくないですか?」


「アカジ・・・?そういうのはよくわからんが、収穫がよければ肉を多く買えるし、悪ければ貯金を切り崩して生活しているぞ」


「それじゃあ駄目に決まってるじゃないですか!」


満遍の笑みで答えるランスさんに、昨日とは別の意味でひどい頭痛がした。

どうやらランスさんは、特に収支をつけずに、ただ作物を作り、出荷し、というのを繰り返しているだけのようだ。

そんなことを続けていたら、実りに恵まれた年はいいけれど、もし大干ばつでもあったら、もしくは公害にでもあったら、どうするつもりだったのだろうか。いや、逆に今までよく持ったなこの農場・・・。


「いいですがランスさん!お仕事で農業をやっている以上、農業はずっと続ける、いえ、続けられることを前提としなければいけません!なぜかわかりますか?!」


「いや・・・え・・・と・・・」


「もし今ランスさんが、お金が立ち行かなくなって、明日にでも突然農業を辞めたら、困る人がたくさんいるからです!ランスさんの小麦を卸している人たちは?働いてくれている従業員の皆さんは?ロレッタさんだってびっくりしちゃいますよ!」


私は、命の恩人だということも忘れ、ランスさんに詰め寄った。

どうやらガバガバな経理処理が、経理歴5年、浜電のエース(自称)経理部員の私の魂に火をつけたようだ。


「ちなみに、貯金を切り崩した年は最近ありましたか?」


「・・・ここ5年はずっとだな・・・」


「5年!?!?!??!もしわたしの国で赤字運営を5年も続けていたら、大きな会社でないかぎり、倒産しちゃってますよ!貯金を切り崩していることを、ロレッタさんは把握しているんですか?」


「あー、いや、母さんは怖いから・・・その・・・」


怖いから、じゃないよ!夫と二人三脚でやれていると思った家業が、実は自転車操業の倒産寸前だったなんでロレッタさんが聞いたら、ショックでぶっ倒れちゃうかもしれないって!


「~~。わかりました。ランスさん。私がこの農場の経営を立て直します。協力、し・て・く・れ・ま・す・ね?」


おそらくこちらの世界に来てから今日までで、一番の低い声が出たようだ。ランスさんは若干引き気味で、「わかったよ、お願いします」と言った。


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