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雇用延長?


「お話をまとめさせてもらいますと、私を元の世界に返す手助けはできないが、一方で私をこの世界に呼び寄せた張本人については調査してくださるということでよろしいでしょうか。」


「ああ。その通りだ。理解が早くて助かる。」


「うう~ん。それじゃあ困りますね・・・。」


テオドールさんには褒められたものの、正直それでは困る。

なんといっても、私は日本に戻るために王都までやってきたのだ。

こんなトントン拍子に王国軍のトップと話すことができたことは正直思いがけない幸運だったが、私の最終目標はやはり日本に帰ることだ。


と、頭を抱えていると、ふと私はあることを閃いた。


「あの、先ほど、古代魔法が書かれている禁書の閲覧は“通常の人間には認めていない”と仰いましたよね?つまり、通常ではない人間であれば読むことはできるのですか?」


私がこういうと、テオドールさんは少しバツが悪い顔をした。また、扉のほうからグレルさんがクスっと笑う声がした。やっぱり私たちの会話をしっかり盗み聞きしているな。


「そうだな、この国の王族と、それから私やグレルといった部隊の副隊長クラスなら閲覧が認められている。」


「それだけではないですよ。あとは年に1度の感謝祭でその年のプリモ・ディーティエに選ばれれば、特権を使って閲覧することができます」


「・・・グレル。」


と、私たちの会話をただ聞いていることに我慢ができなくなったのか、グレルさんが横やりを入れてくれた。多分、テオドールさんの反応を見るに、彼的には私に知られたくない情報を教えてくれているようだ。


「なんですか?プリモ・・・」


「プリモ・ディーティエ。1年で最も国に貢献した人に贈られる名誉賞のようなものです。1年にひとりしか選ばれませんが、もし選出された場合、国が叶えられる範囲の希望を1つだけ叶えられる特権が授与されるんです。なので、もしエリカさんが受賞した場合、元居た世界に返してくれという願いは国が叶えられる範囲を超えているので希望することはできませんが、召喚魔法の禁書を見せてくれというものでしたら叶えられると思いますよ。」



つまり、これまでの2人の話を要約すると、私が召喚魔法を使って帰るためにはまずは禁書を手に入れないといけない。そのためには


①王族になる

②軍隊の隊長か副隊長クラスになる

③国の発展にとっても貢献して、プリモ・ディーティエとかいう賞を受賞する


のどれかしかない。①は当然無理だとして、②か③で言ったら、③のほうが可能性としては現実的だろう。


あと私は魔法が使えないから、禁書を使ってくれるような凄腕の魔法使いとお友達になって、かつ禁書に書かれた方法をさらに改善して貰い異世界転生の成功率をあげてもらって死なないようにしてー・・・。


「・・・。無理ですね。課題が多すぎます。」


私の返答を聞いて、テオドールさんは明らかにホッとした顔をした。


「とはいえ、使えるかどうかは別にして、禁書の中身を知っておくことは良いんじゃないですか?当面目標なくこの世界に留まり続けるより、何かを目指して過ごすほうが時間も無駄にならなくてよいと思いますよ、ねっ。」


離れた扉の位置から話に参加することに不都合を覚えたのか、グレルさんがひょこひょこ歩いてきて私の座っているソファの背もたれに手をつけ、顔を覗き込んできた。ま、まつげ長・・・

そうは言っても、現実問題魔法が使えない私が②や③をクリアすることは天地がひっくり返っても無理なのだが、微笑んで「そうですね」と返事をしておく。内心と異なる意見だとしても、その場では一応同意してみせるのは社会人としてのマナーなのだ。・・・変なマナーだな。


「とにかく。君が元いた世界に帰れる手段がないかを国を挙げて調べることはできないが、私個人としては調査を続けるから、危険な真似はしないでくれ。君がなぜわが国に呼ばれたのかもわかっていないのだから。」


「はい、ありがとうございます。」


「それと、君の勤務地については私のほうで王宮内のもっと良い場所を考えておこう。倉庫の整理はあらかた検討がついたようだ、時間を持て余してもしょうがないだろう。勤怠契約についても見直す必要があるようだしな・・・。」


テオドールさんは少し呆れたような表情を見せた。これは、私の勤務時間や勤務内容があまりにも適当ってことも筒抜けだったのだろうか。


「あの、まだ王宮で働いていて良いのですか?」


加えて、大切なことなので念押しで確認する。“王宮内の新しい勤務地”これは意外だが願ってもない申し出だった。

てっきり「どこの誰に何の目的で召喚されたかもわからない奴は王宮にはおいておけん!」ぐらい言われるかもしれないと思っていたが、テオドールさんには案外人の心があるらしい。


「ああ。その辺については直ぐ改善とはいかないため、また整い次第こちらから連絡を入れよう。・・・日が暮れてきたな、今日はここまでとしよう。ここからポーション倉庫への戻り方はわかるか?」


言われて窓の外を見ると、空一面が夕焼け色に染まっており、この世界の定時が近いことを表していた。


「わかります。あの、今日は貴重なお時間をいただきましてありがとうございました。これからもご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。」


と、就活生風の挨拶をして、執務室を後にした。

事態は何も好転しなかったものの、王国軍の隊長クラスが私の存在を敵意なく認知してくれたってことは、すごい収穫だということは自覚している。


また、グレルさんの言う通り、当面の目標なく過ごすのも勿体ないので、とりあえずは正攻法で禁書を入手することと、それが入手できた場合に備えて、やっぱり魔法が使えるようになっていたほうがいいんだろうな。この世界には長期間でお世話になることを考えると、やっぱり魔法家電が使えないのは地味に痛いし。


それから地味にポーション倉庫からの異動の内示も貰ってしまった。どうやら私が社内ニートをしていたことも彼らには筒抜けだったようだ。

隊長・副隊長という殿上人と話してとにかく気疲れが半端ないから、今日はこのまま倉庫に戻らず直帰しちゃおうと思いながら、来た道を戻っていった。



◆◇◆◇◆


「帰りましたよ。彼女」


窓から外を見下ろす。そこには来た時よりも明らかに足取りが軽い彼女の姿があった。


「・・・グレル。なぜ彼女に禁書を手に入れる最も可能性が高い方法を教えたのだ。」


「おや、方法を意図的に隠すほうがフェアではないでしょう。あくまで平等にすべての情報を開示したまでです。」


「お前だって副隊長だ。召喚魔法で呼ばれた人間がその後どんな悲惨な運命を辿っているかぐらい知識として知っているだろう。」


「ああ。召喚に失敗したときは、召喚時の魔力に吹っ飛ばされて死ぬこともできずに一生異空間を彷徨っている説とかもありましたね。いっそ死んだほうが楽なパターンが結構多いですよねえ~。

てことは、テオドール様は彼女がそうならないようにワザとプリモ・ディーティエのことを隠そうとしたんですか?お優しいですねえ」


「おい、からかうな。」


「でも、おそらく禁書を閲覧する一番容易な方法は、プリモ・ディーティエを狙うことではないですよね。ふふっ」


「・・・いいから仕事に戻るぞ。」


今日は彼女に時間を使ってしまったため、仕事はまだまだ山積している。


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