初めての王宮探索
「それでー・・・、その。そんなお偉い方がわざわざ私のところにいらっしゃったというのは、やはりクビですか・・・?」
とりあえず目の前の偉そうな人改め偉い人の素性がわかったところで、一番聞きたいことの核心に触れてみた。なにせもし王宮をクビになってしまったら、私には行くところが無いのだ。もちろんランスさんの農場に帰るという手もあるが、あんなに太鼓判を押されて王宮へと旅立ったのに、1年も持たずと戻るなんて情けなくてできない。ほかの場所で働くにしても、異世界から来た私にはいわば“戸籍”が無いため、コネでもない限り採用されることは容易ではないだろう。
私は恐る恐るテオドールさんの顔を見上げた。
「先ほども言っただろう。私は貴殿を処罰しに来たわけではないと。貴殿を処罰したところで、我が国が得られる利益は無いからな。それよりも貴殿がなぜ異世界からわが国に来たことに興味がある。異世界の人間を召喚する魔法についてはとうの昔に禁止されて、今は古代魔術扱いとなっているはずだ。誰かが使用したのならば、その人間こそ処罰の対象とするべきだろう。本当に貴殿が異世界からやってきたというのなら、むしろ王国の庇護下に置かれるべきであると考えている。」
「ああ~、よかった。ありがとうございます・・・!」
聞いて一安心した。いや、王国の保護とかは本当に要らないんだけれど、すぐに職を失うなんてことはなさそうだ。
どうやらテオドールさんは私自身には警戒を特にしていないようで、むしろ私がこの世界にやってきた背景に興味があるらしい。第一部隊の隊長ということなので、きっと相当な手練れなのだろう。たとえ私が突然敵意を向けても、ねじ伏せられる自信があるというのがその体躯や言葉の節々から感じられた。
「それよりも、貴殿がどうしてこの世界に来たのかの経緯などを聞きたい。これから時間はあるか?」
「あ、はい。大丈夫です。ぜひ。」
今日はリリーとポポロが配達に来る日だったが、テオドールさんは忙しそうな人ということもあり、私に時間を割いてくれるという提案をありがたく享受することにした。なんて言ったって彼は、こんな“棚ぼた”な出会い方ではあるが、私が日本に帰るための方法を知っている可能性が極めて高い人物なのかもしれない。リリーたちには、もし私が不在としている日に配達があった場合は勝手に倉庫に入っておいて行ってくれと言ってあるし、大丈夫だろう。
「よろしい。では私の執務室に案内しよう。」
案内された執務室は、王宮にいくつかある塔の頂上にあった。
普段食堂のフロアしか使わない私は、初めての王宮内部にかなりの緊張と興奮をしていた。なぜなら、やはり王宮ということだけあって、置かれている調度品やら絵画やら、赤いじゅうたんが敷き詰められた廊下やら、何もかも上等なものだということが素人目にもよくわかったからだ。
テオドールさんが「ここが執務室だ」と言い、扉を開けると、ドアのすぐそばに人影があった。
「おかえりなさいませ、テオドール様。はじめまして、エリカさん」
そこには、深い青色の髪が目を引く超絶美少女・・・改め、美少年がいた。
なぜ男性と分かったかというと、発した声が予想より声が低かったからだ。しかし、線が恐ろしいほど細い。
初対面にも関わらず私の顔を見るや否や名前を呼んできたので、どうやらこの男性にも私の情報は筒抜けらしい。
「紹介する。これは私の部下のグレルだ。」
「グレル・アークランドといいます。テオドール様の直属の部下として働いています。一応第一部隊の副隊長です。どうぞグレルと呼んでください。」
「は、はじめまして。小山内絵里香です。」
グレルさんが微笑みながら手を差し出したので、テオドールさんと違った種類のイケメンにドギマギしつつ、こちらもそれに応え握手をする。
というか、今、副隊長って言ったよね。・・・王国軍の第一部隊の隊長副隊長クラスが揃いも揃って私に時間を割いていいのかしら。
挨拶が済むと、グレルさんは元居たドア付近に戻っていった。そこが定位置なのだろうか。特に何もするわけではなく、扉を背に立ちつめている。ニコニコしているが、視線はこちらに向けたままだ。け、警戒されてるな~、なんて。
「とりあえず適当に待っていてくれ。私は準備をしてくる。」
「はい。」
見回すと執務室の端に応接用のソファセットがあったので、いったんそこに座り、落ち着きなく部屋を見渡した。
執務室は、いわゆるよくある校長室のような作りで、大きな窓の目の前にデスクが置いてある。入ってきた扉とは別にもう1つ扉があり、テオドールさんは準備をするといってその扉に入っていったので、書斎か倉庫につながる扉なのだろうか。
また室内の棚には、おそらく魔法石と思わしき鉱石が並べられていた。ただし、今までランスさんの元で見たものや市場に出回っているものとは違い、明らかにレベルが高いのだろうなと素人目にも感じた。
と、不躾にも部屋を観察していると、早々にテオドールさんがいくつかのファイルを手に戻ってきた。その姿を見て、いくら魔法が発達した国の王宮機関といえど、やっぱり書類はファイリングするんだな・・・と、場に合わないことを思ったりした。
「待たせたな。では、貴殿がこちらの世界に来た日のことから、詳細に教えてほしい。」
「あ、はい。ではー。」
そう言って私は異世界にやってきてから今日までの出来事を、思い出せる限り詳細に話した。
自分の勤めていた会社の電車に轢かれたこと、(ただしジェノス同様、テオドールさんもグレルさんも、やはり電車という言葉に耳なじみは無いようだった。)死んだと思ったが死んでいなくて、目が覚めたらランスさんの農場にいたこと、二人に良くしてもらい、息子のルークの紹介で王宮で勤めるようになったこと、王宮には帰る手立てがあると思ってやってきたこと・・・
「以上が今日までの私の出来事です。どうでしょうか・・・。」
すべてを黙って聞いてくれたテオドールさんだが、私が話終えたあと大きなため息をついた。




