第一部隊隊長
「そうか。まだ調査の余地はありそうだが、少なくとも3つ目の懸念点については改善されたのだろう?」
「え?」
「保管状況の悪さ、という点だ。見ればわかる。貴殿が改善したのだろう。」
言いながらその人の視線は倉庫の中に向けられた。倉庫の中は、確かに前回会ったときよりも格段に整理整頓が行き届いている。
言われた言葉を脳内で反芻し、ようやく褒められたということに気が付いた途端、反射的に頬が赤くなるのを感じた。
え、褒められた?よね、今。うわ、今まで上司にこんな直接的に褒められることなんて、日本であったかな!?いや無いな。
というかこの推定どこかの部隊の偉い人であるイケメンは、威圧感こそあるものの、ちゃんと部下の仕事を見て回り、部下がいい仕事をしたらきちんと褒めてくれるんだ。よくある恋愛漫画に出てくるような“理想の上司力”がすごいな・・・。
などと考えているうちに妙な間が流れてしまったので、とりあえず返答をする。
「あ、はい。その、ありがとうございます・・・。」
「なんだ。やけに消極的な返答だな。異世界ではあまり褒められてこなかったのか?」
「あ~そうですね。日本全体もそうですけれど、特に私のいた会社ではあまり本人を直接褒めるということはなくてー・・・ん?」
・・・待って。今、異世界って言った?
私が異世界から来たことは、この王宮ではルークしか知らないはず。
異世界から来たなんてみんなに知られたら、頭のおかしいやつと思われかねないと判断したからだ。
なのに、なぜ一度しか会ったことのないこの人が異世界から来たことを知っているのだろうか。
聞き間違いだろうか。念のためもう一度聞いてみる。
「あ、あの~。今なんと仰いましたか・・・?」
「だから、“異世界ではあまり褒められてこなかったのか?”と言った。貴殿は、異世界から来たのだろう?」
変わらない表情のままあっさりと答えられたことで、今度こそ確信した。
この人は、私が異世界から来たことを知っている。
どうしよう、何でバレたんだろう。なぜ知っているのだろう。
推定だが、この人は軍の中でもそれなりに偉い人であるかもしれない。すると、もしかしたら私が異世界から来たということがすでに軍の上層部には知れ渡っている可能性がある。そうすると、この人はポーションの調査なんて言い訳で、本当は私を捕まえにきたのではないだろうか。
頭の中で様々な感情が巡ったまま何も答えられずにいると、向こうが続けて口を開いた。
「なにか動揺しているようだが、これは私が考えた結論というだけで、別にほかの誰かが知っているわけではないぞ。それに貴殿を処罰しに来たわけでもない。」
「え・・・?」
頭の中が混乱しているため相手が何を言ったのか理解が追い付かなかったが、私が異世界から来たということは少なくともこの人しか知らないということだろうか。
「初日に門にいる衛兵から連絡があってな。やけに審査魔法に驚き動揺してみせる若い女性が一人入城したということだった。連れの男性は確かにわが軍の一員であったが、その女性を“交換留学生みたいなもの”だと紹介したという。しかし、今の時季に交換留学生は取っていない」
その人は、なぜ私が異世界者ということかを突き詰めたかの説明をし始めた。どうやら私に目を付けたのは、こともあろうか王宮に初めて入場したあの日だったというのだ。この国の衛兵はとても優秀な人材のようだ。
それにしても、ルークの適当な設定が今更になって私の首を絞めているよっ・・・。
「衛兵の【審査】を潜り抜けたとはいえ、敵国のスパイである可能性をぬぐい切れなかったため、私は早急に貴殿に会いに行った。すると貴殿は軍として懸案事項であったポーション倉庫をひとりでに掃除し、さらにはポーションの濁りからその効果の変動についてを言及してみせた。私は貴殿について、怪しい点はあるものの、同時に利用の価値もあるかもしれないと思い、当分は私の監視下に置いたまま自由にさせることにした。」
なるほど・・・。この人と初めて出会った日のことを思い出す。あの日、この人がポーション倉庫に来たのは偶然ではなく、私を見に来たんだ・・・。
「同時に貴殿と話しをしたという軍のほかの隊員に聞き取り調査をしたところ、どうやら初めのうちに話したものには、魔法が使えないということを漏らしていたようだな。だが徐々に隠すようになった。おそらく、この国で魔法が使えないということがどれだけ異端かということを思い知ったのだろう。私は、衛兵の話や魔法が使えないという情報より、貴殿が魔法のない国・・・。つまり異世界から来たという結論を付けたというわけだ。違うか?」
「・・・。おっしゃる通りです。私は異世界から突然この世界から来ました、小山内絵里香と申します。」
完敗だった。
この人の素性がわからない以上、私が異世界から来たということは何とか隠し通したかったのだが、ここまで完璧に結論を導き出されてしまった以上、反論の余地もない。ここは無理に嘘を貫き通すよりも、早々に素性を認めて、今後の身の振りようを考えたほうがよいだろう。
「そうか。私はテオドールという。この国の国営軍の第一部隊の隊長だ。」
「えっ、隊長なんですか?!」
ようやく知ったその人の名前と肩書に思わず反応してしまう。
「そうだ。そういえば、あの日の貴殿が私に対してする反応も異世界から来た人物であるという考えの裏付けになったな。この国で私のことを知らない人間はいないからな。」
そういうと思いだし笑いのようなほほえみを見せる。イケメンの微笑に態勢がない私は直視できないと思わず目を背けた。しかし、なるほど。一応この人が“多分偉い人”ということは察してそれなりの対応を取っていたものの、正解は“めっちゃ有名人の偉い人”だったのだ。
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