ここで働かせてください!
翌朝。
目を覚ますと、見慣れない天井が広がっていて。窓の外を見ると、広大な土地と不思議な植物が生えた光景広がっており、昨日自分の身に起きたことはやっぱり現実なんだなと思い知らされる。
とはいえ、昨日の頭痛はすっかりなくなり、心の戸惑いは置いておいて、体調は万全だった。
病人じゃないんだし、ベッドの上でいつまでもゴロゴロしているわけにはいかないと、私は早々に身支度を整え、1階のリビングと思わしき部屋へ階段を降りた。
「おはようございます・・・」
そこはやはりリビングで、部屋の中心にはダイニングテーブルがおかれており、そこには3人分(きっと私の分も用意してくれているんだろうな・・・)の朝食が準備されていた。
「あら!おはよう!自分一人で起きられたのね。偉いわ。」
キッチンと思わしきスペースからロレッタさんが顔を出した。キッチンといっても、大きなかまどのようなものがあったり、逆に電子レンジや炊飯器といった家電がなかったりと、私の元居た世界のそれとはまるで別物だった。
そうか、魔法を使うということは、きっとあのかまどに火を灯して、食事の支度をするのだろう。
なんてまじまじと部屋の中を見ていると、後方の扉からランスさんが入ってきた。
「おお。おはようエリカ。昨日はよく眠れたか?」
「あ、おはようございます。ランスさん。眠れたような眠れなかったような・・・夢の中で、ずっと思考がぐるぐるしているみたいでした。」
「そうか・・・まあ、急に違う世界にやってきたなんてなったら、そうだよなあ。とりあえず朝飯にしような!母さんがエリカの分も準備してくれているぞ!」
「あ、すみません!ありがとうございます。」
「いいのよ~。さあ座ってちょうだい」
促されて、ダイニングテーブルに着く。テーブルには、パンとスープとサラダがおかれていた。サラダの葉っぱはあまり見かけないようなものであったが、食生活は日本と大きく離れていなそうで安心する。
「それじゃあ、いただきます。」
「「いただきます!」」
まずはスープを一口。
コンソメ風味の野菜スープは、口に入れた瞬間に優しさが広がるような味わいだった。
なにより、久しぶりに誰かの手作りの朝食を食べて、その温かさに涙が出そうになった。
浜電に勤めていた頃は、朝はいつもギリギリで、良くて食パンを一枚齧る程度だったから、朝起きたら誰かが自分のために食事を用意してくれているというだけで胸がいっぱいになった。
「おいしい、、、とっても美味しいです!」
「そう、それは良かったわ〜。エリカの口に合うか心配だったのよ、うふふ」
それから食事の間中、二人はこの国についてを教えてくれた。
この国ーーーオーレネス王国というらしい。王国の中心には、いわゆる王都があり、私たちは今王都からみて南側の比較的温暖な地域にいるそうだ。
二人は見た通り、農家として小麦粉のようなものを主に栽培しているらしく、なんと王都にも卸しているらしい。従業員も二人のほかに四人程いて、小麦のほかに、少しだが牛乳などの乳製品も作っているそうだ。
また、魔法についても教えてくれた。
この世界に生まれた人は全員、生まれた時から魔力を持っていて、皆子どもの頃は魔法学校のようなものに通い、そこで才能を見出された者は、王都で魔法業務に従事するらしい。といっても、同年代の上位1%くらいしか王都で働くことはできず、あとのみんなは、魔法を暮らしに役立てる程度に使っている様子だった。
そして魔法には、想像通り、攻撃的な魔法・守備的な魔法・回復的な魔法・・・などなどがあるそうだ。
「あの・・・考えたのですが」
「おお、言ってみな」
私は昨日から考えていた、これからについて二人に相談した。
「やっぱり、私はきっと誰かの召喚魔法に巻き込まれてこちらの世界にきてしまったのだと思います。それで、私、元いた世界に帰りたいんです。そのためには召喚の逆?のことができる人に会わなければならない。とすると、今までの話を総合すると、きっとそれができる人は、いたとしたらきっと王都にいますよね。だから私は王都を目指そうと思います。でも・・・」
「でも?」
「いきなり私のような不審者が王都に行っても、きっと相手にされないと思うんです。だから、きちんとこの世界について勉強してから、正規の手続きを取って王都にいきたいんです。なので、もしお二人が迷惑でなければ・・・・もう少しだけ、おうちにおいてくれませんでしょうか・・・?
もちろん、ただでとはいいません!ただ、私はお金も持っていないので、家事をしたり、農業をお手伝いすることで返すしかできないんですが・・・」
そうなのだ。
この国がどんな国かまだわかっていない以上、一つ自分の安全が確保されている場所を持ちたかった。なんせ、魔法がある国で、私は魔法が使えない。この家、ひいてはこの町の外を出たら、どんな危険が待っているかわからないのだった。
するとロレッタさんはにこっと笑って、
「そうね、それがいいわ!実は、三年前に子どもが家を出てから、私たちも少しさみしかったの。一緒に住んでくれる分には大歓迎!あ、私の子、これでも王都に勤めているのよ!エリカが落ち着いたら、息子のルークにも声をかけてあげるわ」
「ほ、ほんとうですか!ありがとうございます!」
「そうだな!俺も困っている人を見かけるとほおっておけない性分なんだ。少しの間と言わず、ずっといたっていい。家事のことはロレッタに聞いてくれ!農作業については俺が教えるが・・・・エリカはずいぶんと細腕だからなあ」
「あ・・・、力仕事は確かに自信がありませんが、事務仕事なら割とできると思います!」
「おお!それは助かるな!なんたって俺はそういったのがからっきしダメだからなあ!わははは!」
「じゃあ、これからよろしくね、エリカ」
「はい!よろしくお願いします!」
こうして、前途は多難なもの、私の新しい生活が始まったのだった。