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上級ポーション

突如、リリーたちが来た方からは逆の方向、300メートルほど離れた場所から男性の切羽詰まった大声が聞こえてきた。声をあげているのはルークの同期の若手の隊員だ。

唯ならぬ様子に、ジェノスとリリーが即座に反応しそちらに走り出す。私は遅れながらも足元にあった、まだポポロが倉庫に運んでいなかった下級ポーションを念のため1つ手に取って2人の後を追った。


「第一部隊が訓練で魔法攻撃を行っていたんですが、ファイガとサンダーが相打ちになって、思わぬ方向に魔力が飛んでいってしまって、偶然そこにいたやつがノーガードでその魔力を受けてしまって・・・!!」


「こ、これは・・・!」


人の輪を掻き分けると、そこには男性が1人倒れていた。

ただし、私が今まで日本で遭遇した急病人とは大きく様子が違い、その左半身が赤黒く爛れて、煙のようなものが立ち込めており、お腹の辺りが大きく抉れていた。顔はなんとか認識できたものの、呼吸も浅く、一刻を争う状況であるというのが一目で分かった。


「ジェノス、このポーションを!!!」


私は即座に持っていた下級ポーションをジェノスの手渡した。しかし。


「だめだ、この傷じゃあ、下級ポーションでは効果が無い!!すぐに効果が得られる3本の上限に達しちまう!だれか、上級ポーションを持ってこい!!それと回復魔導士を!!お前、医務室から魔導士呼んでこい!」


「ポポロ!!!上級ポーションを持ってきてちょうだい!!!急いで!!、」


すぐさまリリーが、倉庫の中にいるポポロに大声を掛ける。自分で取りに行くより、倉庫にいるポポロが持ってきた方が早いという判断をしたのだろう。ポポロはこちらを見て、大怪我を負った男性の様子に一瞬怯えたような様子を見せたが、すぐに状況を把握し、持てるだけの上級ポーションを持ってこちらに駆けつけた。


その上級ポーションをジェノスが受け取り、それをゆっくりと口に注ぐ。目に見えて怪我が回復する訳ではなかったが、お腹の大きな穴は塞がり、大出血は免れたようであった。


・・・そういえばこちらの世界に来て、魔法で大怪我をした人を見るのも、上級ポーションを使わないといけないような状況に陥るのも初めてだ。


いままで、ジェノスの軽度な自傷や隊員たちの軽傷をポーションが瞬く間に治しているのを見てきたから、ポーションは万能薬だと思い込んでしまったいたが、どんな世界にも〝万能〟なんてものは無い。


ポーションにだって限界はあるし、それを超えてしまったものは治せない。

また、魔法は美しい側面がある一方、人の命を奪うことのできる能力だ。


男性はポーションの1日の限度数である3本目を使い尽くしたが、それでも大怪我を負ったまま微動だなしなかった。

眼前の状況の、あまりの悲惨さに足がすくみ、何もできないまま棒立ちでいると、そのうちに回復魔導士がやってきて、男性は担架によって運ばれていった。


「リリーもエリカもありがとう。ポポロも驚かせちゃったね。ごめんね。これは俺が戻しておくよ。」


一仕事を終えたジェノスが、ポポロが持ってきたが使わなかった2本のポーションを受け取ると、代わりに頭ををポンポンと撫でた。


「いや、私は何もできなくて・・・。あの、私、魔法であんな大怪我をする人を見たのが初めてなんだけど、あの人・・・大丈夫かな・・・?」


「ん?あぁ、まぁ、今日は他に大きな怪我を負っている奴もいないし、回復魔導士に早急に引き渡せたから、大事には至らないだろ。こんなことで死んじまうような柔な鍛え方してねーから安心していいぜ」


「そう、よかった。上級ポーションが使われているところを初めてみたのだけど、すぐに効果が出ているようには見えなかったから。」


私がそう言うと、ポポロも気になっていたようで、ちらりとジェノスの方を見上げた。ポポロもまだ幼いから、上級を使うような場面に出くわしたことがなかったのだろう。


「あー、まぁ、上級って言っても特効薬って訳じゃ無いからな。特に上級なんかは瀕死の状態から命を繋ぐためのポーションって感じなんじゃねーの?効いていないように見えるけど、体内ではすげぇ効果を発揮してるんだ、きっと。」


ジェノスがそう言うのだし、そういうことなのだろう。

その後、私たちは何となくすぐに解散という気分にもならずに、そのままリリーとポポロを門まで送り、少しジェノスの立ち話をしてから、各々の職場に戻った。



その夜、昼間の光景が尾を引いて、やはり何となくすぐに帰路に着きたくなかった私はルークを誘って近くのバーにやって来た。


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