事件
ポーションの使い方についての通達が出されてから1週間ほどが経過した。
御触れの(おふれ)の効果か、はたまた私がずっと倉庫に張り付いているせいかはわからないが、あれ以来在庫管理について問題は発生していない。
むしろこの一週間の間に2回リリーたちの配送があったため、在庫は順調に増える一方である。
また、食事の席で話題になった討伐もまだ行われていない。
「だからここのところポーションは訓練で怪我をしてしまった人の分と、ジェノスが飲む分しか減ってないってわけ。はい、今日の分」
毎日の定例になっている、ジェノスの人体実験用に下級ポーションを倉庫から持ち出して、外で待っていたジェノスに手渡した。今日は筋肉痛に対する効能を試しているらしい。筋肉痛って、ポーション効くのかしら・・・。
「なにそれ〜、俺だって一応毎日怪我人なんだぞ〜?いや、でもほんとよかったよ。在庫がみるみるうちに減っていってるのは毎日倉庫に通っていた俺の目にも明らかだったしさ。さすがエリちゃん、ルークの実家を建て直しただけあるね」
ポーションを受け取ると、ジェノスは相変わらず風呂上がりの要領で一気飲みする。あんなにまずいのに、よくそんな美味しそうに飲めるな・・・。
「ジェノスが作ってくれたポーション別効果一覧のおかげよ。この調子で在庫の数が戻ったら私も新しい仕事を探さないとなぁ。なんかない?」
そうそう。ポーション倉庫には、ジェノスの実験で明らかになった『どの級のポーションがどの程度の傷に効くか』という表を壁に貼ることにした。その影響もあり、レベルの高いポーションの無駄な消費が減っているのも事実だ。
「俺べつに職業斡旋屋じゃないからなぁ。ていうか別に今のままでもいいんじゃねーの?俺、エリちゃんとお喋りするの結構楽しみにしてるんだけど。
ていうか、あの辺りのポーションはどうするつもりなの?」
そう言ってジェノスが指差す方を見る。そこには例の濁った色のポーションがまとめて置いてあった。
「あれは・・・。そうね、処分しなきゃいけないんだろうけど。」
結局、濁ったポーションをみんなに配ることはなんとなく憚れ、ひとまとめにして倉庫に置いてある。本来なら使わない在庫は、スペースを圧迫するし、誤使用のリスクもあることから、速やかに処分すべきである。しかし、先日ポーションが1本いくらするかを知ってしまい、小心者の私だけの判断で処分するにもできなくなってしまったのだ。
あと・・・。濁ったポーションが効果が落ちるのかどうかを例の威圧感たっぷりな人が調べると言ってくれたから、なんとなくその人の調査が終わってからの方がいいかな。なんて思ったり。
本当に調べてくれているかも定かではないのだが、もしここに濁ったポーションがあれば、また会えるかもしれないなんて淡い期待もあるような、ないような・・・。
「なになに〜?ワケあり?エリちゃん顔に出るタイプ?捨てられないのには理由がありそ〜」
「ちょ、うるさいなっ!なんにもないわよ。ほら、ポーション飲み終わったなら早く持ち場に戻った方がいいんじゃないのっ!」
ジェノスがニヤニヤしながら私の肩をつつく。別に好きとか気になっているとか、そういう訳では断固ないんだけれど、例の人の存在はこいつにだけはバレないようにしたほうがいいな!うるさいから!
なんて雑談をしながら時間を潰していると、
「エリカ〜!お疲れさま〜!今日の分のポーション持ってきたわよ〜!」
「あ、リリーにポポロ、お疲れさま〜」
ナイスタイミングに2人が今日の配達にやって来た。
「あら、今日はジェノスもいるのね。エリカ、この人変態でしょ?」
リリーがポーションの入った箱を地面に下ろしながらジェノスの顔を見て笑う。今日の納品には紫色のポーションが多めだ。すかさずポポロが、「倉庫にしまってきます」と言ってくれた。
ジェノスとリリーは当然ながら顔見知りである。何年か前ジェノスが若手だった頃、今のルークと同様に倉庫番を任されていて、その時知り合ってからの仲だそうだ。
しかし、変態とはすごい言いようだ。
「リリー、今日もかわいいね。しかし変態は酷くない?」
「ジェノスってば、私が王宮に卸せるレベルのポーションを作れるようになる前から、『試作段階のポーションでいいから飲ませてくれ〜』って泣きついてきたのよ。あーんなまずいモノ喜んで飲んでるなんて変態よへんたい」
リリーがジェノスのクレームを華麗にいなした。
なるほど、ジェノスのポーション愛は今に始まった事ではないようだ。せっかくのイケメンなのに、残念イケメンってこういうことを言うのだろう。
「あの頃は、〝王宮に卸せる品質〟っていうのに興味があって、飲み比べにハマってたんだよね。懐かしいねぇ。」
ジェノスは顎に手を当てて懐かしむような満足げのような顔をしてみせる。やはりイケメンだから、そう言ったポーズも様になっていて、ちょっとムカついた。
「飲み比べた結果、違いはわかったわけ?」
「あぁ、それはーーーーー」
「ジェノスさん!!!!!!!エリカ!!!!!!!大変です!!!!!!!」




