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リリーという名の少女

声のするほうを見ると、アネモネのように赤くてふわふわな巻き毛が印象的な美少女が、箱いっぱいのポーションを抱えて歩いてきた。


「あら、はじめお会いする方かしら?」


「やあ、リリー。今日もご苦労さま。こちらはエリカ。僕の助手という形で今日から来てもらっているんだ。」


そういいながら、ルークはリリーが抱えているポーションの箱を自然に受け取った。ポーションは2ダース程は入っていたようでそこそこ重そうだったので、ルークの振る舞いは非常に紳士的であった。


「初めまして、今日からお世話になっております、オサナイエリカと申します。」


「はじめまして、私はリリー・オルティースと言います。王宮専属の薬事局で働いていて、週に2回ほどこちらにポーションを届けに来ています。よろしくね」


そういうとリリーはその名の通り花のように微笑んだ。ただ微笑んだだけなのに、リリーの周りがパッと明るくなったような感じがした。

まさしく、かわいいは正義を体現しているような子だ。


「ねえ、ポーションがぜーんぶ外に出ているみたいだけど、大掃除でもしているの?」


「ああ、そうなんだ。最近ポーションの減りが早くて、管理をちゃんとしろって怒られちゃって・・・。それで、エリカに来てもらったってわけ」


「あら、やっと怒られたんだ。倉庫の担当がルークになってから、荒廃っぷりがひどかったもんねえ。

じゃあエリカが今日からここの管理人ってことね。仲良くしてね!」


と、リリーは私の手をとって嬉しそうに笑った。

美少女に仲良くしてほしいといわれて、当然悪い気はしなかった。

というか、やっぱりルークが倉庫の担当者になってから管理がずさんになったんだ・・・やっぱりあの父親の血を引いているんだな、と内心少し呆れてしまった。


「こちらこそ!あの・・・、薬事局で働いているってこと、このポーションってリリーが作っているの?」


「ええ。もちろん全部ではないけれど、私が作っているのも混ざっていると思うわ」


「ええ!すごい!」


リリーの見た目は20歳前後に見えたが、この国は皆見た目より実年齢が幼いことが多いので、きっと実際は16,7歳くらいだろう。そんな自分より10歳ほども若い女の子が国に卸せるほどの製品を作っているということに、率直に尊敬の念を抱いた。

確かロレッタさん曰く、王宮に勤められる人はその年の上位1%位だという話だったから、同じように王宮御用達の品を卸せるのもまた優秀な証なのではないだろうか。


「そんな・・・褒められる程の出来ではないけれどね。私はまだ下級ポーションしか作れないし」


「それでもすごいよ。私、魔法が使えないからさあ。」


少し照れたような様子を見せるリリーが可愛くて、ポロっと自分の身の上について話してしまった。


「え、魔法が使えないの?それってファイアも?」


出ました、初級魔法のファイア。この世界の家電(と言っていいのかは怪しいが)は、ファイアのエネルギーを起点に動かしているようなので、ファイアが使えないというのはいささか信じられないのだと思う。リリーも困惑した顔をしている。


「あ~。いや、なんて言ったらいいのか。ちょっと訳アリでね。」


と、自分で話し出しておきながら答えに窮していると、ルークが助け舟を出してくれた。


「ところでリリー。今日はいつもくっついてくるちっちゃい子はいないんだね?」


「ああ、ポポロのこと?彼女は、実家のお母さんの具合が良くないらしくて帰省しているのよ。3日後に来るときにはもう戻っていると思うから、そのときエリカに紹介するわね。じゃあ、私はそろそろ戻らないと。エリカ、サインを貰ってもいい?」


「ああ、サインなら僕がするよ」


そういうとリリーの手のひらに液晶のような画面が現れ、人差し指をつかってルークがサインを書いた。

なるほど。2ダース分のポーションを、細腕のリリーが一人で運ぶには少し量が多いように思えたが、普段はもう一人配達員がいるそうだ。

リリーが去るほうを見ながら、気になったことがあったのでルークに聞いてみた。


「ねえ、ルーク。リリーは毎週2回ポーションを届けてくれるのよね?1回につき2ダースだから、24本を週2回ってことは、1週間に48本新しいポーションが届く計算になるけど、そんなに頻繁に使うものなのかしら?」


「そうだねぇ、もちろん大きな討伐があれば、その分怪我人も増えるからポーションの出は多くなるけど、最近は大きいのには行っていないようだし、訓練だけではそんなに在庫がなくなる程は使わないと思うよ。」


「ふーん。あとさ、確かポーションの在庫がないから調べてほしいっていう話だったと思うんだけれど、あるじゃない、在庫。1,592本も」


「ああ、それは。今ここにあるポーションって、殆どが水色の下級ポーションなんだ。在庫がないのは青の中級ポーションから紫の上級ポーションなんだよね。」


確かに見回すと、外に出したポーションの多くは水色をしていた。


「ふーん、そういうことか。在庫不足を指摘されているのは青と紫のポーションってことね。ポーションの下級と上級とでは何が違うの?」


「何って、全然違うよ!下級は主に切り傷とか火傷とか外傷は治せるけれど、内臓が傷ついたレベルだと上級を何本か飲まないと治らないし。あと、ポーションは1日に3本くらいまでしか効果が出なくて、その総量は下級も上級も全部まとめての量なんだ」


「つまり、大怪我をしたときには下級ポーションを3本飲んでも意味ないってわけね。」


「そ、というか下級を3本飲んじゃうと、次に飲む上級の効果がかなり薄くなっちゃうから、大怪我をしたときは上級ポーション一気飲みしかありえないんだけど、紫のポーションあんまりなかったでしょ?」


「そうだね。あんまりなかった。」


どうやらポーションも万能薬というわけではないらしい。何事も用法用量を守ってねということだろう。



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