内定をいただきました
ルークに連れて来られたのは、王宮の敷地内にある中庭に付したレンガ造りの小屋だった。
小屋といっても、日本の一般的な戸建て位はあるだろうかといった大きさはある。
「ここが僕の働く第3部隊が管理しているポーション倉庫さ。」
「わ・・・あ・・・。これは・・・。」
かんぬき錠を開け、両開きの木製ドアを開けてもらい入室する。外観からは2階部分もありそうな程の高さの建物であったが、実際には天井の高い平屋間取りであった。そして、室内には可動式の棚(図書館とかにおいてある、取っ手を回すと動くタイプの棚といえばいいのかな?)が所狭しと並べられているのだが、奥の方の棚には蜘蛛の巣がかかっていたり、その棚に置いてあるポーションが入った瓶には埃が被っていたりと、外観からはまるで想像できないほどに雑然としていた。
「これは、想像以上にひどいわね・・・ゲホッ。」
私が不快感をあらわにしていることを察したルークが慌てた様子で、
「いや!言い訳をさせてもらうとね!このポーション倉庫は確かに僕たちの管轄だけど、専属で管理してくれる人もいなくて。なかなかここまで手が回らないんだよね・・・」
と自分自身をフォローした。
「いやぁ・・・。よくこんな埃まみれの場所に医薬品を置いておけるわね・・・。あまあ、私のいた世界でも、こういう物品管理って確かに後手に回りがちだったからね・・・。気持ちはわかるけど。」
そういいながら、手近なところにあるポーションを手に取ってみる。ポーションの埃を払ってみると、中の液体は濃い紫色をしていたが、周りを見回すと青色やほとんど透明に近い水色の物などがあった。
「本当は僕、新米だからここの管理もしっかりとしないといけないんだけど、覚えることも多いし、勉強したいことも多いしで、なかなか時間が取れなくって困っていたんだよ!ちなみに元居た世界では、エリカはどんなものを管理していたの?」
「うーん、私がもともと働いていたところは、とても大きな乗り物の会社なんだけど、やっぱり乗り物の車輪とか、ねじとか・・・。あとは塗料なんかかしら。」
「塗料?」
「そう。車とか車輪をね、防水加工とか発光加工がされた塗料で塗るんだけど、私のいた国はとってもこだわりが強くて、この車はこの色しか使わないっていうルールがいっぱいあって、だから在庫がとにかくたくさん発生しちゃうのよ。ここのポーションの種類なんか目にならないくらいにわね」
「へえ。じゃあそれってどうやって管理していたの?」
「そうねえ、うちの会社は3Sなんて言葉を倉庫にスローガンとして掲げて、まずはそれを徹底させてたかなあ。」
「3・エス?」
「そう。整理・整頓・清掃の頭文字をとって3S。まあ、いるものといらないものを分けていらないものを処分したり、必要な物がすぐに取り出せるように整理したりしましょうってこと。私のいた世界ってそういう言葉遊びみたいなものが大好きでね・・・。このポーションには賞味期限とか消費期限とかっていうのはあるの?」
手に持っていたポーションの瓶を顔の前で振って見せた。薬品のような、ハーブのような匂いが鼻についた。
「そういうのはないと思うけど・・・。みんな手前においてあるポーションからどんどん使っていくから、奥のほうはいつ作ったポーションだかわからないなあ・・・。ただポーションは魔法で作るから、賞味期限なんてものはないんじゃないかな。うちの倉庫がその整理・整頓・掃除を守れていないのは確実だしね!」
ルークは近くにあった椅子を寄せ、そこに腰かけてけらけらと笑って見せた。どうやら3S活動にはあまり興味が無いらしい。まあ別にいいけれど。でも、ポーションって口から飲むものでしょ?やっぱり古いものとかは飲みたくないんじゃないのかなあ。
「確か私はポーション不足の理由を調べに来たんだったと思うけど・・・。これじゃあ調べるもなにもないわね。まずは何日かかけてこの倉庫を整理するところから始めようと思うけどいいかしら。」
「もちろん!掃除してくれる分には大歓迎!この部屋にあるものは何でも使ってもらっていいからさ!あ、王宮の外にはなるんだけど、すぐ近くのホテルをとってあるから、当面はそこを使ってくれよ!あ、これエリカの分の王宮入館証ね。使い方はさっき見せたとおりだけど、入り口の衛兵に見せればいつでも出入り自由だから。エリカ、お金は父さんのところでもらった分がいくらかあるんだよね?もし足りなければいくらかは僕が申請しておくから言ってくれよ!」
そういうとホテルのパンフレットのようなものと、先ほどルークが使用していたものとよく似たICカード大の石板を手渡してきた。石板には【ERIKA/OSANAI】と刻んである。ルークのものより少し簡易的なのは、臨時入館証といったところだろうか。
そんなやけ~~に用意周到なルークに、私にはある疑問が浮かんだ。
「ルーク、あなたもしかして、初めから私にこの倉庫を1から掃除させるためにここまで連れてきたわけじゃないわよね?」
「ぎくっ・・・、まあ、そうかな・・・ハハハ・・・」
ということで、私の異世界2つ目の就職は、図らずもこの国の王宮倉庫番に内定した。
これは転職成功、ということなのかな・・・。




