太鼓判を押されちゃいました
「それがさあ、ここのところ大きな討伐に行ったわけじゃないんだけど、中級と上級のポーションが足りなくてさ。作っても訓練で負傷した人にすぐに使っちゃうからストックを持てないし、ポーションが足りていないから大規模な訓練演習ができないしで、上官からなぜこんなにポーションが不足しているんだって理由を詰められちゃってて・・・。レベルの高いポーションなんてそう毎日何百個も作れるものじゃないから僕も困っていて・・・」
おや。起きている問題というのはどうやら在庫管理についてのようだ。なんだか日本でもよく聞くトラブルだなぁ・・・。
「隣国から購入しづらいものでもあるしなあ」
「そうなんですか?ポーションって、要は薬ですよね?私の元居た国では、別の国から薬を買うことって割とありましたけど・・・」
「普通の傷薬や包帯ならまあ問題ないんだろうけど、ポーションは唯一魔法によるケガを治癒することのできるアイテムだから、ポーションを隣国から買うっていうのは、いま自分の国に魔法で攻撃したら治せませんよって言って回るようなもんだからなあ」
「ははあ、なるほど・・・。今は何個ストックがあって、毎日どのくらいの数を使っちゃうの?」
私は何気なく聞いたつもりだったが・・・
「え?・・・そういえばそういうの、数えたことなかったなぁ。あるものからどんどん使っていく感じで・・・。とにかくポーションは出入りが激しいから」
「えっ?!」
そんな。在庫管理の基本の、今ある在庫数の把握すら行っていないなんて。
「ルーク、上司に詰められているんだったら、せめて在庫の毎日の動きくらい記録に残したら?何か数字を示せれば上の人も納得してくれるんじゃないかしら」
「いやあ、そうはいっても王都はつねに人不足だし・・・。僕も倉庫に付きっ切りではいられないしなあ・・・。それにやり方がわからないから・・・・・。
すぐにこちらに来られて、倉庫を整理することができる人材なんて、そう簡単に、みつかる、わけ・・・。」
歯切れ悪く話すルークと、なぜかランスさんとロレッタさんの二人の視線がこちらに向けられているのを感じた。すこしの嫌な予感とともに・・・。
「そうよ!そういう困りごとにはエリカは適任だわ!なんだか在庫の管理方法に詳しいような口ぶりだったし!」
「そうだな!なんたってエリカは俺の農場で働くようになってから、1か月もしないで大金を稼いだくらいだからなあ!王都のポーションの問題なんて余裕だろう!」
と、ここ一番の名案を思いついたように二人は顔を見合わせて興奮している。
「ちょちょちょ待ってくださいよ!確かに私は王都には行きたいと思っていましたが、それは元いた世界に帰る方法を探るためで、決して王宮で働くためではないーーー」
「いや、もともといた世界に帰りたいなら、王都で働くことはもしかしたら一番近道かもしれないよ。さっきもいったけど、僕はまだ新米だから上級魔導士と関わりがないけれど、もしエリカが王都で働いている中で手柄なんかをあげられたら、上級魔導士と何らかのセッションを持てるかもしれないし」
「いやいやいや!王都って成績優秀な選ばれた人材のみが勤められるんじゃないの?私みたいなどこの誰かもわからない人間がいったって、門前払いされるのがオチよ!」
「それは大丈夫。臨時事務員って形で、僕のアシスタントという形で雇えば問題はないと思うよ」
そんな簡単に外部の人間が入れるなんて、王都のセキュリティは大丈夫かよ!
私の不安をよそに話がどんどん盛り上がってしまって、ルークの帰還のタイミングで一緒に王都に行くことになってしまった。
「大丈夫よ。エリカの仕事の誠実さは、この数か月一緒にいた私が保証するわ。あなたほど真面目に仕事に取り組める人なら、王都でもうまくやれるわ。」
「お前がせっかく整えてくれた事務仕事、苦手だけど俺も頑張ってみるぜ。もうじき冬で、農場はオフシーズンにもなるからな!まあゆっくりやってみるさ!だからお前も大丈夫。でももし元居た世界に帰れる方法を見つけたとしても、すぐにいかねえでこっちに顔は見せろよ?」
と。今の雇い主に太鼓判という名のお暇を出されてしまったため、私の王都行きは決定したのであった。




