召喚?転生?転移?
「それで、早速だけれど。エリカは、本当に異世界から来たの?」
ルークはまるで子犬のように目を輝かせながら私に質問を投げかけてきた。
どうやら異世界からやってきた私に興味津々らしい。ロレッタさんの話の通りだと、王宮に勤めているというルークは同世代の上位1%ほどのトップエリートなのだから、魔法に関することには何でも関心があるようだ。異世界から来たなんて言えば、なおのことだろう。
「う、直球な質問だね。そう、私はもともと日本という国にいたの。でも電車・・・向こうの大きな乗り物なんだけれど、それに轢かれたと思ったら、気が付いたらここにいたのよ。それを証明できるものはなにもないんだけれどね・・・。それで、ランスさんたちに助けてもらって、この世界の話を聞いたんだけれど・・・。この世界には異世界から人を召喚する魔法があるんでしょう?だから、なんらかの手違いでその召喚に巻き込まれてしまったんじゃないかって考えているのよ。」
そう答えると、ルークはうーんと頭を抱えるポーズをした。
「召喚・・・召喚ねえ・・・。確かに召喚魔法というものは、大昔には儀式としてはあったみたいだけれど、今は全然行われていないんだ。」
「え、そうなの?どうして?」
ルークがあまりにもあっさりと否定するので、却って驚いた。なぜなら、私としてはそこまで大外れな推理ではないと思っていたからだ。だが、次のルークの言葉に、一瞬で自分の説が間違っているであろうことに納得した。
「だって。右も左もわからずに召喚されたら、召喚された方にとっては大迷惑でしょ。」
「それは・・・至極まっとうな答えね」
出されたお茶を啜りながら、ルークは話を続ける。
「昔は勇者やら聖女やらの召喚を試みていた時代もあるみたいだけれど、実際ピンポイントで召喚したい相手を呼ぶことなんてできたのかなー、って僕は思うよ。だって呼ぶ方のこちらからしたら、勇者がどこの時代の何々さんかなんて情報ないんだしさあ。
だから僕は、エリカの話を母さんに聞いてからずっと考えていたんだけれど。君は召喚で呼び出されたっていうより、元居た世界から、飛ばされて来てしまった・・・転移とか転生とかっていう方がイメージとしては近いんじゃないかなあ。」
「転移・・・転生・・・。」
確かに。はじめにランスさんとロレッタさんから、この世界には召喚なる儀式があると聞いてから、自分はずっと召喚で呼び出されてしまったと決めつけてしまっていたが、言われてみればそうだという確証はない。こちらの世界に来た際に、いわゆる魔法陣のようなものもなかったし、周りに私を呼び出したであろう人の影もなかった。とすれば何らかの出来事に巻き込まれて、こちらに転移してきたと考える方がしっくりする。さすが王都に呼ばれた優秀な人材というべきか、ルークの考えは理にかなっていた。
「その、デンシャっていう大きなエネルギー体がエリカに衝突し、もともとエリカが持っていた魔力が身を守るために暴走して、エリカをこちらの世界に飛ばしたんじゃないかな。魔力といえどエネルギーを完全に0にすることはできないから、エリカに衝突するエネルギーを、エリカが異世界を渡るエネルギーに変換して・・・、とか」
そういうと、ルークは自分の右手を左手にぶつけ、左手が飛ばされるジェスチャーをした。
「な、なるほど・・・。すごく、それっぽい・・・」
「おうおう、ルークよ。だがな、エリカには魔力はないみたいだぞ」
いつの間にか外から戻ってきたランスさんが会話に割って入ってきた。
「やあ、父さん。ただいま。エリカに魔力がないっていうのはどういうこと?」
「エリカは初級魔法のファイアすら使えないんだ。」
親子の再会を祝う会話もなくランスさんはルークさんの隣に座ると、すぐに私について話始めた。フツー、数か月ぶりに息子とあったら、もう少しあるんじゃないのかしら。それとも父息子ってこんなもんなの?なんてちょっと余計な心配をした。
「それは・・・、魔力が無いというよりも、もといた世界に魔法がなかったからで、ちゃんと学べば使えるようになるんじゃ?」
「えっ?!私にも魔法が使えるようになる可能性があるってこと?!?!」
二人の会話に思わず割り込んでしまった。異世界にいるということは重々承知しているものの、やっぱり魔法を使ってみたいという気持ちに変わりはなかった。
「そう僕は思うよ、魔法っていうのは、いわば生命エネルギーの循環だから・・・、そうだ、せっかくだし今から外に出てーーーー」
「はーい、今から、は、ごはんですよ~~。ルークもあなたもエリカも、おしゃべりに夢中でこんないい匂いに気がつかなかったかしら?」
そういってロレッタさんは手に持ったグラタンをテーブルの中央に置いた。ソースにちょうどよく焦げ目がついて、アツアツでおいしそうだ。
「わ、母さんのグラタン久しぶりだ!エリカ、話は食べながらにしよう!」
中央に置かれたグラタンを見ると、それまで異世界の旅人に釘付けだったルークは一転して、食事に夢中になった。どの世界でも母親の料理が一番というのは変わらないようだ。




