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はじめまして、ルークさん!

この世界の何もかもは、魔法が使えることが前提とされている。

例えば今みたいにかまどに火をつけることも、お風呂のお湯を沸かすことも、すべては魔法で火を灯すことから始まるため、魔法の使えない私は、何をするのにもロレッタさんにご面倒をかけてしまっている。


「やっぱり、初歩的なもので全然いいから、私も魔法が使えるようになりたいなあ・・・この国の人たちは生まれた時から魔法が使えるんですか?」


ロレッタさんの手から移された火が導火線を通って薪に移る。

薪への着火の速さを見るに、やはり魔法で灯した火は、日本のそれとは違うのだろう。

思わず子供のころに両親に連れて行ってもらったバーベキューで、父が悪戦苦闘しながら薪に火をつけていたことを思い出した。


「そうね。誰かに教えてもらわなくても、生まれた時から何となく使い方は体に染み込んでいる感じかしら。それで学校に通いだして、本格的に魔力のコントロールを教えてもらうのよ。もちろん通う前から魔力を使いこなしている人もいるらしいけど、そういう人はエリートね。」


「そうなんですね。じゃあその学校に通えば私も魔法が使えるようになったりして・・・?」


「あら、エリカは書類を整理してお金を生み出す錬金術が使えるじゃない。」


「あはは・・・あれは魔法なんかじゃなくて・・・」


そういってロレッタさんは茶化しながら私にグラタン皿を渡してきたので、それを窯の奥に置いた。置く場所によって火加減などが変わりそうであったが、よくわからなかったので、いつも置いていると思われる、少し下の色が変わった場所に置くことにした。


「まあ、魔法のことはルークに聞くのが我が家では一番ね。私も夫も、魔法は生活に困らない程度しか使えないから。」


その時、ただいま、の声とともに扉が開く音がした。


「あら、ちょうど帰ってきたみたい、おかえりなさーい」


扉の向こうから現れたのは、両親と同じ茶色い髪と大きな青い瞳が印象的な青年だった。

身長は特段高いわけではないが、引き締まった体をしており、健康的な印象を受けた。

ロレッタさんによると、年齢はわたしより少し若いということだったが、なんせ日本人は童顔なので、外見だけで言えば私よりも少し年上のようにみえた。


「王都からの長旅で疲れたでしょう。洗濯物があれば先に渡してちょうだい」


「いや、後で自分で魔法を使ってやっておくよ。これはお土産。母さん、こちらの方が・・・?」


両腕に抱えた大荷物をロレッタさんに渡しつつ、親子の再会の会話も早々に、ルークさんの好奇な視線は私に向けられた。

どうやらロレッタさんが事前に私のことを連絡してくれていたようだ。


「そう。異世界からの旅人のエリカよ」


「は、初めまして。小山内絵里香おさないえりかと申します!」


ついうっかり社会人の癖で名刺を取り出そうとしたが、そんなものこの世界には無い。

異世界からの旅人とは、なんとも上手い言い回しだなと思った。


「はじめまして。ルークといいます。父と母がエリカさんにはお世話になったそうで・・・」


「いえ!お世話になっているのはこちらのほうです!」


「いやいや、ほんと、最近のうちの家業は少し心配だったんだよ。僕が王都に召集されるまでは、領収書の整理とかを手伝っていたんだけどね。・・・父さんったら貯金を切り崩しているなんて言っていたもんだから・・・。ああ、よかったらエリカさんも丁寧な口調をやめてくれるとうれしいな。年も近そうだし。ね。僕のことはルークって呼んで。」


「じゃあ・・・、ルークね。私のこともエリカって呼んでほしいな。二人からはそう呼ばれているのよ。改めてよろしく。」


そういうとルークはダイニングテーブルに腰かけた。ロレッタさんが「夕食作りの手伝いはいいから、ルークの話し相手になってあげて」と言ってくれたので、わたしもルークの対面に座った。


「僕の職場は昨日から10日ほどの長期休業に入ったんだ。勤め先から実家に帰るのに1日掛かってしまうから、これくらいの休みがないとなかなか帰って来られなくて。エリカは、勤め先のほうは大丈夫なの?」


「う・・・どうだろう・・・。何も言わずに欠勤してしまっている扱いになっちゃっているのかな。困ったな・・・」


早速ルークに痛いところを突かれてしまった。こちらの世界と元の日本とで、時間の流れにどの程度ズレが生じているかはわからないが、もうこの世界にきて2~3か月ほど経過している。もし時間の流れが同じだった場合、私は確実にクビになっているだろう。

経理って再就職は割と容易だけれど、空白期間ができちゃったのはまずいかな・・・。



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