決まり
呼んでいただきありがとうございます。
俺は一歩を踏み出す。
「鍵は開けたから先に入ってよ。」
樋口さんはニヤッと笑いながら言う。
こっわ。
やっぱりいたずら?入ったらボコボコにされてカツアゲされるとか?
俺は何パターンかの最悪な状況を考える。
「立ちどまってないではやく入ってよ。」
急かされてしまった。
そう言われてしまっては入るしかない。
「今、入ります。」
ドアの前まで行き、慎重にドアを開ける。
「こ···これはまた···。」
目に写ったのはぬいぐるみの群れ。
階段、廊下すぐに見える範囲ではあるがぬいぐるみがそこらじゅうにまばらにおいてある。
しかも種類は全て違う。
「どう?すごいでしょ?バイトとかして頑張って集めたんだよ。」
樋口さんは自信満々に言う。
「···すごいというか、なんというか··。」
正直怖い。暗いのも相まってすごく怖い。
今までいった6軒の中でもゴミ屋敷などはあったが、ぬいぐるみだらけは初だ。
···これは8軒目を考えとかないとな。
美人と暮らせるのは正直嬉しいが俺が求めてるのは居場所だ。
容姿は重要だが重要じゃない。
落ち着かないのは悪いが求めていない。
「どう?」
「めちゃくちゃ怖いです。」
「・・・アレだね。君正直だね。」
しまった。俺の悪いところだ。思ったことを言ってしまう。
俺は自分の言葉を後悔しながら樋口さんの顔色を伺うため後ろを向く。
怒っていないことを祈りながら。
樋口さんは微笑んでいた。
「・・・私も最近怖いと思ってきた。」
「え?」
「ううん。なんでもない。さっ!はやくはいろ!寒いし!」
「は、はい。」
誤魔化された気がするが触れて欲しくないっぽいし、触れないことにする。
樋口さんにリビングに案内される。ここもぬいぐるみだらけだ。
外見通りリビングも広い。大きなテレビや、大きなソファー。そのほかにもリビングにあるであろうものは大体大きい。
樋口さんはビニール袋を冷蔵庫においてからソファーにすわる。そしてポンポンと横に座るよう合図してくる。
思ったんだが樋口さんは警戒心というのがないんだろうか?
とりあえず少し離れて座る。
「んで、質問はなに?」
「えーっと・・・。」
考えていなかったな。そうだな。まずは・・・。
「フルネームを教えてください。」
「え?知らなかったの?」
「はい。苗字しか知りません。」
よく聞こえたのは樋口という苗字だけで下の名前は知らない。
「えーとね。樋口 由香です。由香って呼んでいいよ。」
呼ぶわけない。てかおそれ多くて呼べない。
「いい名前ですね。じゃあ・・・」
「ちょっとまって!」
手を前に出し、静止させてくる。
「なんですか?」
「私もよく考えたら君の名前知らない。」
確かに知らなくてもおかしくはないムーブをしていたからな。
俺が言えたことじゃないが名前が知られてないって思ったより悲しいな。
「鈴木 晃大です。」
「晃大くんね。わかった。」
なぜか泣きそうになる。女の人に下の名前を呼ばれるなんて何年ぶりだろうか。
「お互いの名前も知れたことですし質問の続きをしますね。じゃあなぜ拾ってくれたんですか?ていうか俺でいいんですか?」
「まず俺でいいんですかって何なの?」
「悪い噂しかない俺を泊めていいのかっていうことです。」
「あぁ。そういうことね。一言で言うと、寂しいの。」
「寂しい?」
「うん。大きい家の中でずっと1人はすごく寂しいの。だからぬいぐるみとかで誤魔化してたんだけどさ。最初は大丈夫だったんだけどね。でもだんだん怖く見えてきてさ。喋んないし。だから私はとにかく人肌が欲しいの。そこの人選に良い、悪いなんてどうでも良いの。とにかく誰か近くにいてほしい。でも流石に同じクラスの男の子だったのはびっくりしたけどね。」
・・・なんて言えば良いんだよ。
「友達とかは?」
「私、学校では真面目で清楚で通ってるの。こんなぬいぐるみまみれで怖い家見せれないよ。あとずっと家に居てくれるわけじゃないしね。」
「なら・・・。」
「今、親は?って思ったでしょ?」
「そう・・・ですね。」
聞いてる限り親はこの家に住んで居そうにない。
「私もどこにいるのか知らなーい。」
「はい?」
「晃大くん、疑ってるね?でも本当なんだよ。突然居なくなったくせして家賃とか学費とかそういう重要なお金系は全部気づいたらやってくれてるの。意味わかんないよね。電話しても出ないし。私はお金じゃなく人が欲しいっていうのに。」
「それはまた・・・。意味わかんないね。」
「本当。大学とかどうしてくれんのかって話だよね。まぁ念の為バイトはしてるんだけど。」
ぬいぐるみに使っていたら意味はないと思うんだが。まぁぬいぐるみ買うのをやめたのなら高校一年の秋だし、
まだ間に合うだろう。
「でさ。晃大君はここに泊まってくれるの?ネットで会話してる感じ何件かもういってるっぽかったけど。」
うーん。家だけみると嫌だったが、理由も理由だしな。あと普通に会話ができている。断る理由はないか。せっかく拾ってくれたわけだしな。
「樋口さんがいいのでしたら。」
「やったー!!」
とても嬉しそうに手を上げて喜んでいる。
「あと生活費は俺が払いますので。」
「生活費とかあったんだね?」
「はい。俺の事情を知ってるところがありましてそこで働かせてもらってます。」
「へー。そうなんだ。私が払うのかとおもってたよ。」
「流石にそんなことはしません。あと確認があるんですけど俺のおかしい所はご存知ですか?」
「うん。学校で嫌でも耳に入ってくるよ。人の不幸でしか笑えないって。」
「まあ。だいたいそれで合ってます。」
「私としては全然良いんだけどさ。気づいてる?私が寂しいって話をした時からニヤけてるの。」
「・・・やっぱりそうですよね。すいません。故意ではないんです。無意識に気づいたらこうなってしまっていて。」
「話してるとわかるよ。わざとじゃないんだろうなって。良い人なんだろうなって。だからそこで軽蔑はしないから安心して。私は晃大君を避けたりしないよ。逆に近くにいないと怒るからね。」
真顔でそんなことを言う樋口さん。
それを見て俺は涙が溢れる。
「え!?私なにかダメなこと言った!?ならごめん!!」
俺はハハと笑って
「違いますよ。ただそんなこそ言われるの初めてだったので。少し・・・嬉しくて・・・。」
近くにいないと怒る。この言葉に俺は救われた気がした。
「みんな判断が速いよね。そこに悪意があるかさえ知ろうとしないんだから。」
俺は泣きながら言う
「本当そうなんすよね。こっちはわざとじゃないってのに。」
樋口さんはうんうんと言いながら泣いている俺の頭を撫でてきた。
その後俺は30分ほど愚痴を吐き続けた。そして愚痴ができったところで
「よし。もう時間も遅いし寝よっか。」
時計は11時30を指している。
こんなに遅くまで話していたのか。
「すいません。樋口さん。こんな時間になってしまって。」
「良いんだよ。これから一緒に過ごすんだし仲良くなれるのなら大歓迎だよ。買ってきたものは明日土曜日だし
その日に食べよう。」
「いろいろすいません。ところで僕はどこで寝れば?」
「どこって・・・。私と同じ部屋だけど。」
「はい?」
「私と同じ。」
「え?」
「だから私と一緒に同じ部屋で寝るの!」
・・・なんで?
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