目からビームが出る少年
一見どこにでも居るような中学生、会津光は目からビームが出せる能力を持つ男の子だった。
彼がまだ子供のころ、あるテレビアニメで目から光線を飛ばすヒーローがいた。
それを見た幼少期の彼は「目からビ〜ム!」と言いながら、目元を意識し、片目を開く。
すると彼の目から真っ直ぐに放たれた光線。
それは目の前のテレビを貫通し、さらに家の壁にも穴を開け、果てには外の塀にまで黒い焦げ目を焼き付けるほどだった。
それを見た両親にすぐに「無闇に目からビーム出すのは禁止!」と言い渡される。
本来ならば病院で検査するべきなのだが、まず医者に言っても信じて貰えないし、仮にテレビなどに取り上げられでもすればこの子は周囲から奇異の目を向けられ人生がめちゃくちゃになってしまうかもしれない。
そう考えた両親は、この事を家族だけの秘密にする事したのだった。
それから早数年、中学生になった光は目からビームを出す事もほとんど無く過ごしていた。
一応、両親と一緒にどの程度の威力までビームを出せ、何回かやって彼の目に異常が無いかなども昔に検証したため、ある程度の威力を調節できるようになっている。
だが、目からビームが撃てたところで普段の生活に役に立つ事は無い。
もしかしたらマンガやアニメのように、悪の組織や同じ力を持った仲間達が現れるかも、と思っていたがそんな事もなく平和な日常を過ごしていた。
(こんな力を持ってるの、世界で僕だけなのかなぁ……)
多感な年頃のためか、そんな事を考えてばかりだった。
結局、日常は変わる事なく、今日もいつもと変わらぬ学校の授業を終え昼休みの時間となる。
今日はクラスの掃除当番になっていた光。
昼休みの時間中、1階の花壇周りの清掃を同級生の樋口萌と行っていた。
萌は学年の中でも男子に人気があり、この前先輩にも告白されたらしい。
しかし今のところ彼氏を作る気のない彼女は、誰からの告白を断り続けていた。
そんな高嶺の花の彼女に男の子の光も、少なからず彼女に対しての好意を抱いている。
しかし自分は目からビームが出る事を除けばどこにでもいるような男子中学生。
告白する勇気などハナからなく、ただ彼女を遠目から見るので精一杯だ。
「光くん、こっちの掃除は終わったよ。そっちも終わりそう? 良かったら手伝おっか?」
「あ! あぁ……うん。こっちももうすぐ終わるから、だだだ大丈夫……」
そんな麗しのクラスのマドンナと2人きり、心臓がドキドキバクバクし返事もぎこちない。
キョドりつつも光が彼女の方を振り向くと……なにかが彼女の頭上へと落ちてきてるのが見えた。
光の目に映ったそれは、鉢植えだった。
上階のベランダに飾ってあった鉢植えに見覚えがある。
取り付けていた器具が老朽化して壊れたのであろう、その落下物はあと数秒もしないうちに萌の頭へとぶつかってしまう。
「樋口さん、上、危ない!!」
「え? きゃあっ!」
慌てて注意するが、咄嗟に動けなかったのか萌はその場で屈んでしまう。
彼女に怪我をさせないためには、アレを使うしか無い。
光は目線を対象に合わせあの言葉を放った。
「目から……ビーム!」
その言葉と共に光の目から放たれる光線、それは見事に鉢植えを捉え、跡形も残さず消滅させるのに成功する。
しかしそれをモロに萌に目撃されてしまった。
彼女は信じられないといった顔で光の事を見ている。
(こ、このままじゃ樋口さんに化け物扱いされて嫌われちゃう……な、何とか誤魔化せないか!?)
萌を助けるのに必死だった光は、どう誤魔化すかなど何も考えてなかった。
上手い考えが浮かばず光が悩んでいると、彼女が突然顔を近づけてきた。
触れ合うほどの距離に萌の顔が近づいて来た事で赤面する光、そんな彼の耳元で
「今日の放課後……私に付き合って」
ボソッと小声で告げられ、結局光の目からビームが出る事に関して追求してくる事はなかった。
昼休みも終わり午後の授業も終わってあっという間に放課後。
光が校内から出ると校門の辺りで萌が待っていた。
「ついて来て」
彼女はそれだけ言うときびすを返し歩き出す。
光が彼女の後を黙ってついて行くと、川原が見えてきた。
人の寄り付かない橋下まで一緒に来ると、萌が光に向き合う。
「今日の掃除中助けてくれてありがとね。でも……ビックリした。その、光くんの目から何か光るものが出てたから」
「う、うん、それは良いんだけど。光るのってビームの事だよね? その割にはあんまり驚いてなかったように思えるけど……」
光の目から初めてビームが出た時には両親はそれはもう大慌てだった。
驚かれ、無闇に撃ったりしないよう口酸っぱく注意されたが、彼の事も心配し、危険な事が無いようにビームの練習にも付き合ってくれた優しい両親でもある。
そんな両親と比べて、ビームを見た彼女は驚いてはいたものの明らかに反応は薄い。
光が疑問に思ってると萌は改めて周囲に人影が無いか確認し、川の方を指差した。
「その、目からビームって今も出せる?」
「え? う、うん……出来るよ」
「川に向かってちょっと、やってみてほしい」
「あっ、うん……わかった……」
そう言われ川に目線を向ける光、「目からビーム」と小声で言うと先程よりも弱い威力のビームが放たれ、川の水が蒸発し煙を発生させる。
「わぁ…! 本当にビームが出てる、信じられないわ」
川に向かって光の目から放たれる光線。
再度、目からビームが出てるのを確認した彼女は光に質問をする。
「すごいね。それって何度でも撃てるの?」
「えっと……たぶん、昔に両親と検証して問題なかったから……」
「あっ親御さんはその事を知ってるんだね。光くんの目からビームが出るって」
「実は昔にアニメ見ててヒーローがやってるのを真似したら出てさ、本当に出るとは思ってなかったからテレビまで壊しちゃって……」
光の幼少期の失敗を苦笑いしながら話すと彼女はそれが面白かったのか笑い出した。
「アハハッそりゃ鉢植えを跡形もなく粉砕しちゃうくらいのビームだもんね。テレビくらい壊しちゃうよね!」
「そ、それから親にはビームを人や物に撃ったりしないよう言われてさ……誰にも内緒だったんだけど、あの時はつい……」
「うぅん。家族だけの秘密にしてたのに、私に怪我させないために光くんはその力を使ってくれたんだよね。だから、助けてくれてありがとう」
「……!」
優しげな笑みを浮かべ感謝の言葉を述べる萌。
異性への耐性が低い光は「ど、どどどどどういたまして!!」と、つい噛み噛みの返事をしてしまう。
お礼を言えた事に満足した萌は再び川の方へ顔を向けた。
「だから……光くんには、私の秘密も教えてあげるね」
「樋口さんの……ひ、秘密?」
彼女の秘密とはなにか、気になる光を横目に川に向かって深呼吸する萌。
彼女が息を吸い、吐き出すと……
ボオオォォォォォォォォォ……!!
一瞬で周囲の温度が上がるほどの大量の炎が彼女の口から放たれた。
「……へ?」
先程の萌のように驚愕の表情で顔が固まる光。
「……見ての通り、私も口から火が出せるんだよね」
「え、えぇぇぇっええぇぇえ!?」
「ちょっと、声がでかい!抑えて!」
「ご、ごごごめん!!」
声を上げてしまったのを素直に謝る光。
今の大声で周囲に人が近づいて来てないか確認するも、幸い誰もいなかった。
その事に安堵し、話の続きをする。
「ひ、樋口さん……その、炎吐けるっていうのはいつ頃から……?」
「私も光くんと似たような感じ、お兄ちゃんがゲームしてるの見ててドラゴンが火吐いてたからさ。私もなんとな〜く意識してやったわけ、そしたら……」
「で、出ちゃったんだ……?」
「その通りよ……あのときは大変だったなぁ。火事にはなんなかったけどお兄ちゃんの髪ちょっと焦がしちゃったんだよね」
「うわぁ……そ、そのお兄さんは大丈夫だったの?」
「うん全然へーき、髪が焼けても火傷はしなかったから。お兄ちゃんもそのあと野球はじめてボウズにしたから許してくれたよ」
「け、怪我なくて良かったね……でも、すごいや。樋口さんも僕と同じような力を持ってただなんて……」
「私も光くんが似たような力を持っててビックリした。まぁ、どっちも使い勝手がいいとは言えないんだけどね」
「そ、そうだね……もしかしたら僕達以外にも居るのかなぁ」
そう言いつつも光が中学生になるまでに出会えたのは萌だけだ。
正直言うと他にも不思議な力を持った人が居るという保証は無いし自信も無い。
そんな自信なさげな彼に萌はある提案を持ち出した。
「もし良かったらさ、私と一緒に探してみない?」
「え?」
「こんな近くに同級生で能力持ちが居るならさ、私達以外にも学校に居るかもしれないじゃん!?
光くんが良かったら秘密クラブみたいなの作って調査しようよ?」
「で、でも……僕となんか居たって面白くないよ?」
「そんな事ないよ! 目からビーム出せる人が面白くないなんて何を言ってるのよ。光くんはもっと自分に自信持って!」
「うぅ……でも居るのかなぁ僕たち以外にそんな人」
「それを一緒に探そうって話しだよ! 光くんとなら私、見つけられる気がするんだ!」
「……わ、わかったよ」
押しの強い萌に対し、光にもはや拒否権は無かった。
了承の返事を得られた彼女は満足そうに微笑む。
「決まり!じゃあ明日から昼休みや放課後に学校に怪しい人や変わった人が居ないか調べてみよ!
あっ後、私の事は下の名前で呼んでね!」
「えええええ!? 樋口さんを下の名前で呼ぶなんて恐れ多いよぉぉ!!」
突然のファーストネーム呼びのお許しに思わず慄く光だったが
「恐れ多いも何も本人が呼んでいいって言ってるんだから関係ないわよ。ほらっ早速呼んでみて!」
そんな事気にしない萌の勢いに負け、小声で「……も、萌」と恥ずかしがりながら呼んだ。
「よろしい! じゃあ明日から一緒に頑張ろうね!」
名前を呼ばれて満足した萌は別れを告げ川原から出ていった。
一人残された光はうわ言のように「萌って……僕なんかが下の名前で……」と繰り返すだけだった。
それから目からビームが出る少年と、口から炎が吐ける少女の青春。
他の能力者を見つけたり、世間を揺るがすトラブルに巻き込まれたりなど……があるかもしれない日常が続いていくのだった。
主人公の名前が思いついた時点で出来た一発ネタです。
駄文ですが最後まで読んでいただきありがとうございました!