10.セイアッド
「―――――キャッ!?」「うあぁぁぁぁぁぁ!?」
狐がまた吼えた。
だが、さっきまでとは決定的に違う点があった。
つっきーが反応したのだ。
「どうしたんだ?つっきー。」
つっきーに問いかける。
この狐の吼えに、つっきーを反応される程の力があったのだろうか。
それに、クークラ(とその従者)の反応もおかしい。流石に過大だと思った。
いやいや、だって5メートルは飛ばないだろ。
結構遠いぞ?
つまり、狐が何か力を込めたということなのだろう。
このセイアッド・ソードを動かすほどの。
因みに、俺は何も感じなかった。
〘王家の新星へ、セイアッド・ソードより人化の申請が――――――〙
急に響いた、聞き覚えのかるコンピューターのような声の驚く俺。
この声は、セイアッド・ソードとの契約のときにも響いた声だ。
だが、それよりも――――――
「美しい―――――――」
無意識に言葉が漏れる。
❲―――――――グラディウス様?❳
絶句した。
コイツは、俺をグラディウスと言ったのだ。
いくらセイアッド・ソードとはいえ――――――――いや、コイツは俺の前世で追い求めていた存在。他にも同じような者はいたが、俺にだけ突飛した点がある。
俺は、『英雄』だ。
もし、セイアッド・ソードにも意思があり、知恵があったのなら、俺のことを知っていてもおかしくはない。
「ちょ、ちょっとアンタ、王女のこと、グラディウス様って呼んだでしょ!
こーんなのより、グラディウス様はすっごいの。
コイツと一緒にしないでくれる?」
❲邪魔❳
最後まで言わせてもらえただけでも幸運だろう。
有無を言わさず、セイアッドはクークラを拒絕した。
従者は、クークラが勇敢に立っているのを、ただただ見つめていた。
セイアッド・ソードは、この世界において、たった3つの神器の一つであり、『夜』の剣とも呼ばれている。
俺は、その響きに憧れてセイアッド・ソードを求めたのだ。
黄金に縁取られたその刀身は、夜の明星を映している。
では、彼女はどうだろう?
夜の月を連想されるワンピースに、星のようなラメが散りばめられている漆黒の長髪。その中から生える角は、セイアッド・ソードの刀身をイメージさせる。
長く不揃いな前髪から覗かせる純粋な白の瞳は、万物を見通すかのような透明感を放っている。
たしかに、イメージ的には似ていなくもない。
だが、こんな話は聞いたことがない。
擬人化?いや、幻術か?
俺は思考を加速させる。
その時―――――
『久しぶりだな。セイアッド。』
と、狐がセイアッドに話しかけたのだ。
(え!?)
コイツら、知り合いなのか!?
驚いた。
いや、普通に接点なんかあんのか?
気になる点しかないが、セイアッドが反応を見せたので、事の成り行きを見守ることにした。
❲ああ、クロノア。久しぶり。お前、狐に転生したのか?哀れなことよ。❳
(あれ、思ってたより親しげ!?)
つーか、クロノア?
そういえば、コイツクロノアにそっくりだったっけ。
んで、仮にコイツがクロノアとして、久しぶりってことは、もしかして前世からの知り合いか!?
あれ、初耳だぞ!?
戸惑う俺に気がついたのか、セイアッドが声をかけてきた。
❲あ、あれ?グラディウス様、どうにかなさいましたか?❳
首を傾げ、上目遣いで俺を見るセイアッド。
少し戸惑っているのがまた可愛らしい。
少し見惚れそうになるが、そっぽを向いて隠す。
それをまた不思議がったのか、セイアッドは此方に接近する。
その差約10cm。
男心の残る俺の心をくすぐるには十分―――――。
「い、いやなんでもない……ないから!?」
クロノア(?)が微笑ましそうに様子をうかがっている。
(恨むぞ〜クロノアっぽいやつ)
俺は予想外の招かれざる危機に狼狽するのであった。




