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 私はラジオ作りに取り掛かりながら、チラッと先生を見た。真っ白な髪と髭の優しそうなお爺さんだけど、校長先生だと名乗られたら信じてしまいそうな威厳もある。こんなにもインパクトがある先生なのに、どうして私は今までこんな先生が学校にいたことに気付かなかったのだろう。もしかして名誉顧問とかで、たまにしか来ない先生なのだろうか?それとも本当は学校とは関係のない不審者だったらどうしよう。


 でも、さっき廊下ですれ違う生徒たちや数人の先生が皆、先生に向かって挨拶をしていたから、学校関係者であることは間違いないようだったし、不審者ではないはずだ。まぁ、私は学校に転入してきて、まだ半年しか経っていないし、他の学年の先生たちのことは勿論、同じ学年の生徒のことでさえ知らない人の方が多いのだけど……。


 もしかしたら、この先生は生活指導の主任をされている先生なのかもしれない。それだったら前の学校の生活指導の先生が男性だったから先生が言っていた、彼の説明はつく。で、引き継ぎを受けた、この先生は自分の受け持ちの生徒ではない私の様子を一度近くで見るために技術室を開けて、私と会って話す機会を設けたのだろう。


 やっと自分の中で納得行く答えが出せた私は、スッキリした気持ちでラジオ制作を再開した。小さな頃から家事をしていたせいもあってか、私は技術と家庭科だけは他の科目よりも得意だった。だから先生に二つか三つ、質問しただけでラジオを組み立てることが出来た。


 私は完成しましたと先生に報告とお礼を言おうとして、教卓の後ろの壁に設置された鏡に視線を向けてしまった。何の変哲もない縦長の鏡だ。ラジオを作る作業は思った以上に楽しいものだったのにと、ゲンナリしていたら先生が話しかけてきた。


「随分と鏡が気になっているようだね。もしかして、あの怪談が気になるのかい?」


「っ!えっ!?あ、あの、い、いえ!私は何も……。えっと、その……」


 怪談話にかこつけて、どんな嫌がらせをされるのだろうかと考えていたのを先生は怪談を怖がっているのだと思い込んだようだ。フォフォフォ……と、まるで何かのアニメに出てくる長老みたいな笑い声を立てた。


「フォフォフォ……、ああ、すまない。こんなに笑っては失礼だったね。君は転入生だし、この土地に昔から住んでいる人間ではないから何も知らないということを失念していたんだ。だからオバケよりも人が怖いと思っている君があんな作り話を気にしているのかと思ってしまったら、つい面白くなってしまってね。全く面目ない」


 初対面である先生が、あんまりにも私のことをよく知っているから、引き継ぎの資料にはそんな細かいことまで書いてあるのかと私は驚いた。確かに私はオバケよりも人間が怖いと思ってるけど、それを誰かに口にした覚えはなかったからだ。先生は私が驚いたことに気づかず、そのまま怪談話の元となった神社の池について話しだした。


「この学校が建てられた土地に神社の池があったのは本当だが、今の人間達が学校を建てるために池を潰したわけではないのだよ。だって神社の池は何百年も前にとうに干上がっていたのだからね。池が干上がった当時を生きていた人間達は、それを我が子をないがしろにした人間に対する神の怒りだと勘違いをして、神の怒りを鎮めようと子に無体を働いた親を処罰し、より大きくて立派な神社を建立して神に許しを乞うたのだけど、実は池が干上がったのは、池が干上がる前に起きた地震で水脈が変わってしまったからで、人間のせいではなかったんだ。だから神様は人間に怒るどころか、綺麗で大きな神社に立て直してもらえたことを喜んで、この地に生まれた子どもたちや干上がった池があった場所に建てられた中学校に通う子どもたちのことを特に目を掛けて見守っている……と私は思っているんだ。でもまぁ、だからと言って、いくら子ども好きの神様といえども、学校の規則を破って夜中に家を出て家族を心配させるような子どもとは話さないと思うけどね」


 物知りな先生の言葉に私は素直に感心した。さすが先生だ。亀の甲より年の功という言葉を考えた最初の人は、きっとすごく賢い人に違いない。本当に神様が見守ってくれているかどうかは私にはわからないけれど、先生の最後の言葉には私も同意見だ。私は先生にお礼を言って完成したばかりの小型ラジオを手に取り、技術室を出ていった。




 教室には私をイジメている子達が勢ぞろいして残っていた。彼女たちは私が自分のラジオを持っているのを見て、ニタァと下品な笑みを向けてきて、もう一度私に誘いをかけてきた。私は先程の先生との会話を話し、夜中に学校に忍び込んで良いことは一つもないと諭すと、ノリが悪いと私を責めてきたからキッパリと言い返した。


「ノリが悪くて何が悪いの。ノリを良くして学校に不法侵入したのがバレたら内申に響いて来るけど、皆はそれでもいいの?私たちは来年、中3になるんだよ。進路で行きたい高校を見つけても、そのせいで高校に入れなかったら泣くのは自分なんだよ。きっと、しなければよかったと沢山後悔することになるよ。私はそんなのは嫌だから行かない。あなたたちはそれでも行くの?」


 彼女たちは今まで虐められても抗わなかった私が断ったことに、一瞬ポカンと口を開けたが、私に言われた言葉の内容に苛立ったようで声を荒らげてきた。


「そんなの行くわけないでしょ!バカにしないでよ!大体、あんな話を信じてるわけ無いでしょうが!嘘の待ち合わせだけして、すっぽかしてやろうと思っただけよ!」


 なんだ。そんな幼稚な嫌がらせを考えていただけだったんだ。てっきり私は学校に閉じ込められるか、学校に不法侵入した主犯にされるか、金品を脅し取られるか、殴る蹴るの暴行でも受けるのかと思ってた……と、もっと悪い想像をしていたから内心、拍子抜けしたが、それを口にして彼女たちが実行したら困るから黙っておいた。


「へぇ……そうだったんだ。それなら行く約束をしなくて正解だった。じゃ、私は帰るから」


 私は自分の鞄を手に取ると教室の扉に向かっていったが、直ぐに彼女たちに腕を捕まれ、出られなくなってしまった。


「なっ!?待ちなさいよ!大体ね、あんた生意気なのよ!」


「そうよ!そうよ!あの二人に気に入られているからってさ!調子に乗って気に食わないのよ!」


 私に正論を言われて相当に悔しかったのだろう。彼女たちはやり場のない怒りをぶつけようと帰る私を囲み口汚く罵ってきたが、大人の男達に借金を返せと玄関の外で罵倒されるのに比べたら、それは随分と迫力に欠けた、しょぼいものだった。


 いつもだったら彼女たちに言わせたいだけ言わせて私は何も言い返さないが、この時は、もうこんな煩わしいのは嫌だと思ってしまい、ついに私は言い返してしまった。


「皆が私を嫌いなのはわかっている。二人より劣る私が二人の友人なのが面白くないのよね。だけど友達って、それだけで決めるものなの?何となく話が合うからとか、一緒にいて楽しいから友達になるのが、そんなにいけないことなの?」


 彼女たちはグッと言葉に詰まったようだった。だけどその内の一人が勝ち誇ったように言ってきた。


「あんただけは誰と友達になっても駄目よ。私、塾で別の学校に通っている子に聞いたんだから。あんたの父親、相当ヤバい親らしいわね。色んな所でギャンブルの借金作ったり、学校であんたを虐めた教師や生徒を脅して慰謝料をふんだくっている、ろくでもない父親なんだって?……だからさ、皆もこの子をイジメるのは今日で止めよう。この子もどうせ、ろくでもなくて、ヤバい子なんだよ。そしてさ、学校中の皆んなにも教えてあげようよ。この子に関わるとヤバいよ、ってさ!勿論、あの二人にも教えてあげなきゃね」


 脅しでもなんでもなく、きっと彼女たちは言いふらすだろう。自分たちの身を守るために。そして孤立した私を笑い続けるために。だけど私は焦らなかった。だって子である私から見ても父は本当にヤバい人だったし、それに父のことを言いふらされるのは、悲しい(かな)……これも既に経験済みで初めてではなかったからだ。


 人の口には戸は立てられない。悲しいことに私が人に言われたくないことや人にされて嫌なことを他の人にしないようにと常日頃から心がけていても、他の人はそうではないのだ。誰かの幸福な話よりも不幸話の方が盛り上がり、悪い噂話であればあるほど多くの人に広まりやすいのは人の生き物としての危機回避の本能がそうさせるのか、それとも単に人の不幸は蜜の味だからなのだろうか?


 知り合いの知り合いは皆、誰かの知り合いと繋がっていて、新しい引越し先の近所や学校でも父の素行が知られて私が孤立するのは、そう珍しいことではなかった。


 引っ越した先で親切にしてくれた近所の人たちも、新しい学校で仲良くなった女の子も男の子も先生も、私の父のことを知ると、厄介事は御免だと海の潮が引くように遠ざかっていった。でも私は厄介事に関わりたくない心情はよく理解できたし、私自身も私に親切にしてくれたり仲良くしてくれた人が、私に関わったことで迷惑をこうむるのは嫌だったから、悲しいとは思ったが恨むことはなかった。


『どうぞ、ご自由に』


 二人の友人を失うのは嫌だけれど、二人が私のせいで困ることになったら、もっと嫌だ。だから私は覚悟を決めて、そう言おうとした。だけど……。


「帰ろう、香!」


「ほら帰るよ、香たん!」


 突然、教室の扉をガラララッ!……と、大きな音を立てて入ってきた二人は、私を取り囲む彼女たちをグイッと押しのけ、私の手を掴むと、そのまま私を連れて教室を出てしまったので、私は彼女たちに返答を返すことが出来なかった。




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