暴走お嬢様
ーーキャンベル侯爵邸宅。
真っ赤な薔薇が咲き誇る庭に佇む東屋に、1人の青年が座っていた。濡れ羽色の髪に空と同じ色をした瞳の美男子は、手元の分厚い本に視線を向けている。
まるで絵に描いたような美しい光景。そして、そこに「何をしているの?」と真っ赤なドレスに身を包んだ美しい少女が微笑みながら彼の元へ_____、
「ギルーーーーー!!!!」
___来ることはなく、赤いドレスに身を包んではいるが、なんとも言えない酷い表情を浮かべた美少女ーー美少女であるはずだが今はその原型がないーーが東屋に駆け込んできた。呆れ顔の従者を連れて。
だが青年は特に動じることなく、読んでいた本を隅へ避け、飛び込んできた少女を危なげなく抱きとめる。
「...何だレイア。今度はどうした。.....ペンテレシア嬢との婚約話なら断ったぞ」
「いやそうじゃなくて...え? 待って何それ聞いてない」
「...しまった」
青年___ギルベルトはそう呟いて顔を顰めたが、レイアはブンブンと頭を振る。
「良いの、良いの。そんなことは今はどうでもいいの!」
「どうでもって...俺の所に来た婚約話の情報を入手する度に断われと迫るのはいつもお前だろ...」
呆れたようにギルベルトが言えば、レイアはハッと目を溢れんばかりに見開いた。
それから、くしゃっと顔を歪めると、その瞳にみるみる涙が溜まっていく。
その様子に、ギルベルトはギョッと目を剥いた。
「お、おい、レイア___」
「ご、ごめんなさいいいいい!! 私すんごい最低だあああ!! ギルに強引に婚約の話断らせて、私が王子との婚約破棄が叶ったら、ギルと無理やり夫婦になろうとしてたっ....。ギルに望まぬ結婚をさせるところだったっ!!!」
「...は? おい、ちょっと待て。聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ」
「ゔっ...だ、だいじょうぶ! そんなことしない! しないから! ギルのことちゃんと諦めるから!!!!」
びえええええと子供のように泣きじゃくる彼女の腕をギルベルトは強く掴んだ。
「いや、諦められたら、困る」