箱入り娘の悩み
「...それを旦那様に言ったら泣き崩れますよ?」
「だって私には好きな人がいるもの」
「ギルベルト様ですか」
アルは重々しくため息を吐いた。そう。ギルベルト。私の王子様。
私は、レイア・ウォーカー。私の生まれたウォーカー家は王族とも関係の深い公爵家だ。両親に兄が2人に姉が1人。妹が1人。
そして、王子と同じ年に生まれた私が、王子の婚約者に選ばれた。ーーちなみに私には生まれた時から前世の記憶がある。ごく普通のOLだ。いわゆる異世界転生というやつ。最近流行りの悪役令嬢として。
ただ、私が生まれ落ちたのは全く知らない世界だった。じゃあ何故、悪役令嬢だと分かったのか?それは私の奇妙な能力のおかげだ。
役が与えられている人物の頭上に、その人の役割が見える能力。
生まれて初めて、私を抱き上げる父の頭上の上に『悪役令嬢の父』の文字を見た。
それから1年経って、絶望したよね。話の内容を知っていたらともかく、全く知らない世界に転生したんだから。自分が追放されるのか処刑されるのかすら分からない。つまり、それらを回避する為にどう動けばいいのか分からない。
潔く諦めて、せいぜい悪役令嬢とならないように気を付けよう、と思っていた矢先。
5歳のときだ。彼と出会ったのは。
招かれていたキャンベル侯爵家の庭で倒れていた所を見つけた。彼の頭上に浮かんでいたのは『悪役令息』の文字。親近感が湧いて、アルに頼んで彼を保護した。
黒髪に青い瞳のそれはもうとびきり綺麗な男の子で。目を覚ました彼に事情を聴くと、名前はギルベルト。妾の子で、本妻の息子や使用人に酷い扱いを受けていた。
そして私は、侯爵家を訪ねる度にこっそりと、ギルベルトと一緒に過ごすうちに、彼に恋をしたのだ。
...まあ、まず顔がドンピシャ好みだったのよね。
それから彼の人となりに惹かれていったわけで。
「王子との婚約さえなければ、すぐにでも結婚を取り付けたのに!」
「無駄ですよ。旦那様や国王が決めたんですから」
「私の一存でどうこう出来ないのは分かってる...」
王子との婚約はこの際どうだっていいのだ。私が悪役令嬢であり、王子の婚約者であるのなら、婚約破棄イベントは目に見えている。むしろあってくれ。頼むから。
ただ問題はその後、なのだ。
追放されるのか? それとも処刑?
場合によってギルベルトと結ばれるどころか、私の人生がジ・エンドだ。
婚約破棄になって尚且つギルベルトと結ばれるようにしなきゃいけない。何も知らない世界で。
「...無理ゲー...」
「それからお嬢様」
「なあに?」
「ギルベルト様の気持ちは無視するんですか? 彼に想い人が居たら? お嬢様に気持ちが無かったら? 結婚出来ても、向こうに愛がなくて、お嬢様は満足出来ますか?」
「ハッ!!」
「マジかよ。そこ考えてなかったのかこの箱入り娘...」
確かにそこ一番大事だった。自分自身、王子との結婚を望んでないし、めちゃくちゃ嫌なのに、ギルベルトにも同じ思いをさせるかもしれないところだった。
「アル! 馬車を用意して! ギルベルトの所に行くわ!!」