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 翌日のいつもの時間、結局、僕は海岸に居た。


 いろいろ悩んだけど、気が付けば足が向かっていた。


 空は雲が多くて、たまに切れ間から夏の陽射しが照りつけてくる。


 波は穏やかだ。


 海岸に彼女の姿はない。


 代わりに1人の女性が立っていた。


 黒髪のショートヘア。


 白地に青い水玉模様のシャツ、下はスカート。


 僕は何も考えず、その女性に近付いた。


 頭の中は昨日、喧嘩していたあの娘でいっぱいだ。


 もう、ここには来ないのかな?


 僕の気配に気付いたスカートの女性が、こちらを向いた。


「え!?」


 僕はびっくりした。


 ショートヘアの女性は。


 彼女だった。


 僕の顔を見て、ぎこちなく笑う。


「こ!」


 大きな声をあげて、彼女が慌てて口を閉じる。


 昨日、初めて聞いた時と同じ、綺麗な声。


「あっ、ボリューム間違えた」


 彼女がペロッと舌を出す。


「こ、こんにちは」


 彼女はそう言って眼を伏せた。


 今のは挨拶?


 どう考えても挨拶だ。


 それ以外は考えられない。


 挨拶!?


 彼女が僕に!?


「こ、こ、こ、こんにちは」


 僕は慌てて返事した。


 心臓が口から飛び出しそうだ。


「あー」


 彼女が両手の指先を合わせて、モジモジする。


「いつも見かけて…その…」


 チラッと上目遣いで、僕を見た。


「少し…お話しません! …か?」


「ふあ! は、は、は、はい!」


 全身が熱くなって、頭がボーッとしてきた。


 こんなことってあるだろうか?


 僕はまだ叔父さんの旅館の布団で寝てるのじゃないか?


「昨日は…その…」


 彼女が僕をチラチラと見て、口を開いた。


 この前まではセミロングの髪が最高にかわいいと思ったのに、今、眼の前に居るショートヘアの彼女は、もっともっとかわいかった。


 もう何だか分からなくなってきた。


 とにかく、かわいい。


 めちゃくちゃにかわいい。


「少し恥ずかしいところを…見られてしまって…」


 彼女に見とれていた僕は、そこでようやくピンときた。


 昨日の男性との喧嘩の話だ。


 そうだ、あれはやっぱり彼氏との…ということは、突然の髪型の変化の理由は…彼氏と別れたから…?


 もし、そうだとしても手放しでは喜べない。


 彼女が恋人と別れて傷付いてるのなら…。


「あ、あれは…彼氏と…?」


 緊張で声が少し裏返った。


 それでも訊かないわけにはいかない。


「え!?」


 彼女が眼を丸くする。


「違う、違う!」


 首を左右に振った。


「あれは兄です! わたし、彼氏は居ません!」


「え………」


 今度は僕が驚く。


 そっか…そういうパターンもあるよね。


 僕は急にホッとした。


 すると、心配事がひとつ消えたせいか、彼女とこうして間近で話してる状況が、途端にめちゃくちゃに恥ずかしくなってくる。


 急激に自信が失くなってきた。


 彼女は、別に僕が気になって声をかけてきたんじゃない。


 お兄さんとの喧嘩を見られて恥ずかしくて、その誤解を解くために…うーん、そんなの僕に説明する必要あるだろうか?


 とにかく、彼女は僕に特別な感情があるわけじゃなく、もしも僕が告白したとしても絶対に失敗するに違いない。


 マイナス思考がフル回転な僕の顔を彼女が不思議そうに見つめてる。


 沈黙はまずい!


「か、髪、切ったんですね」


 咄嗟(とっさ)に訊いた。


「はい」


 彼女が頷く。


 失恋したから切ったわけじゃなかったんだな。


 よく考えれぱ、そんなの映画や漫画の中だけかも。


 彼女はお洒落か気分転換で髪を切ったのか。


「勇気を出そうと思って」


 彼女が、少しはにかむ。


「え? 勇気…?」


「うん。ずっと気になってました。でも、なかなか声をかけられなくて」


 パッチリとかわいらしい瞳が、僕を見つめた。


 頬がほんのりと桜色に染まっている。


「だから髪を切れば…何かを変えれば…勇気が出るかなって」


 彼女が髪を切った理由。


 それが今、分かった。


 ということは。


 もしかして、この後、彼女は。


「まだお互いの名前も知らないのに…急にこんなこと言うと引かれちゃうかも」


 彼女が微笑む。


 綺麗な瞳には、不安の影。


 でも、それを乗り越えようとしてる。


「わたし、あなたが」


「ちょっと待って!」


 僕は思わず大声を出した。


 彼女がビックリしてる。


 何故だか分からないけど、これは彼女に言わせちゃいけないと思った。


 僕が先に言うべきだ。


 否、言いたい。


 彼女は髪を切って、勇気を出してくれた。


 僕もここで勇気を出さないと!


「ぼ、僕も君のことが…気になってました!」


「え!?」


 驚いた彼女の顔が、徐々に笑顔に変わる。


 そして、僕の次の言葉を待っている。


「僕は…君が」


 勇気を振り絞った夏。


 いつもとは確実に違う夏が今、始まろうとしていた。




 おわり








 




 最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)


 大感謝です( ☆∀☆)


 ツイの引用許可をいただきましたユデンさん、ホントにありがとうございました\(^o^)/

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