第27話
エゲリアの女帝から謁見の許可が出た事を告げる手紙が届いたのは、キアリを飛ばしてから1週間後の事だった。
謁見が出来ると分かったサーラ達は、すぐに準備をし、エゲリアへと向かう。シュトルヴァ領からエゲリアの関門まで馬に乗って2日ほどで到着する。
関門を通ってから帝都ユノまで辿り着くには、馬に乗れない為、3日かかった。
シュトルヴァ領を出てから5日経った今日、ようやく帝都に2人は辿り着いた。
「やっとか」
短く発せられたブレイブの言葉には緊張が感じられた。サーラも黙って頷く。
エゲリアの景色はシュトルヴァ領と全く異なっていた。
狩りと農耕で自給自足の生活をしているシュトルツ族が住むシュトルヴァ領は、自然豊かで緑が多い。
対してエゲリアは、背の高い建物が綿密に計算されたように等間隔で建っている。道路は、石畳とは違う別の素材で整備され、滑らかだった。道の真ん中には馬車や機械馬車が通る。人々は、端に作られた歩行者専用の道を歩いていた。
宮廷へと向かう道中、一定の間隔で細い金属製の塔が建築されている。塔の先端は赤や青などな光が交互に点されていた。何の建物なのか分からなかったが、観察しているうち、交通の誘導をしているらしいことは分かった。
改めてエゲリアの凄さに圧倒されるサーラとブレイブ。周りの景色を見ているだけでも飽きない。気付けばもう宮殿に辿り着いていた。
女帝がいる宮殿は、意匠は素朴だが、歯車やサーラにはよく分からない機械がたくさんある。豪華な意匠が施された宮殿とは違った雰囲気があった。
門を守る護衛に話をすると、彼は手に持っていた黒い精密機械に話しかけた。
サーラとブレイブは顔を見合せ、彼が何をやっているのかと不思議に思っていた。
黒い精密機械から誰かの声が聞こえてきた時には驚いたものだ。サーラは驚き過ぎてブレイブの方へよろめいてしまった。
護衛は驚く2人に微笑みながら中へ案内してくれる。
シュトルヴァ領とは全く違うエゲリアに、ブレイブは圧巻されたように呟いた。
「俺達は自分達の世界に閉じ籠り過ぎたのかもしれない……」
宮殿の中に通され、客室に通されると時間が来たら迎えが来ると言い、護衛は元の場所へ去って行く。謁見の時間までゆっくり過ごせるよう、客室には食事や飲み物が用意されていた。すぐ側に宮殿の使用人が控えており、サーラ達が不便がないよう取り計らってくれる。
少し経ってから扉が叩かれた。謁見の時を知らせる。ブレイブとサーラは顔を見合せ、頷いた。いよいよだ。
宮殿の廊下は隅々まで綺麗に掃除されていた。時折、何かの機械が箒や雑巾を持って動いているのが見えた。前を歩く使用人に聞くと、掃除ロボットという代物らしく、人が指示しなくても掃除をしてくれるらしい。
使用人曰く、女帝が宮殿の仕事をどんどん自動化していくことによって、使用人達の仕事量が減ったという。おかげで残業も無くなって早く帰れるんですよ、と嬉しそうに言っていた。
「こちらが謁見の間となります。シュトルヴァ領よりお越しいただきました、ブレイブ様とサーラ様が到着されました!」
長い廊下を進み、ようやくたどり着いた謁見の間。扉には歯車が嵌め込まれ、ひとりでに動いている。がたりと何かが転がる音が響くと、ゆっくりと扉が開いていった。
誰も扉に触れていないのに勝手に開く扉に驚いているうちに、謁見の間への入り口が開かれた。
ブレイブと共に歩みを進める。玉座には1人の女性が座っているのが見えた。
ブレイブとサーラは玉座の前まで行くと、顔を伏せた。
「お初にお目にかかります。シュトルツ族の長、ブレイブ・ルーとその妻サーラでございます」
「うむ。面をあげよ」
女帝の澄んだ声が響いた。言葉の通り、顔を上げると目の前にいる女帝の姿が目に映る。
波打つような金の髪は、窓から差し込む陽光に照らされ煌めいている。ブレイブよりも深く濃い青色の瞳は彼女の聡明さを感じさせた。肌は陶器のように滑らかで雪のように白い。唇は赤く熟れた果物のように色付いていた。
彼女がエゲリアを統べる皇帝、ミネルヴァ・メディス。『叡知の女神』とも呼ばれる彼女の雰囲気にサーラは圧倒された。




