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文化祭当日2

「ダメ!?」

「う〜ん…俺でも出来るのか?」

「うん!簡単だから!!」


 犬かぁ…


「それは、いつなんだ?」

「今日の午後!」


 するとずっと黙っていたミナが反応した。


「え〜、それじゃ私見にいけないや。」


 そうだ。ミナは今日は午後も担当なんだった。その代わり、明日は一日中自由らしい。

 だが、何度も言っている通り俺は午後は空いている。明日も今日と同じで午前担当だからだ。

 すなわち、犬やれちゃうじゃん俺…


「…分かったよ。やるよ…」

「本当!? やったー! ありがとう霜太(そうた)君!」


 こうして、俺は明日犬になる運命が決まったのでした…

 何で犬なんだよー!!

 そしてレイさんが帰ろうとした時、ミナが止め、レイさんは「少しなら空いてるよ」と言って俺たちは3人で行動し出した。

 当然この四階にずっといるわけがなく、いろんな階を周った。周囲からやけに視線を感じた。

 特に、さっきの脱出ゲームの教室の前を通った時は酷かった。

 受付の女子に、汚物を見るような目で見られたのだから。

 時計を見ると、もう十二時半だった。

 

「どうする? 昼食はどこで食べる?」


 するとミナとレイさんは口を揃えて言った。


「食堂!!」


 意外だ。なんで? なんで食堂なんだ? 

 確かに今日はいつもと違うメニューがあるとは聞いたが、それだけでこんなに行きたがるだろうか?


 俺たちは食堂に着いた。そして俺は全てを理解した。

 なんだ、あの人は?

 食堂の隅の方で、信じられないほど大量の「本日限定メニュー」を食いまくっている女子がいた。

 ついでに、俺はその人を知っていた。以前、屋上に怪物がいることを教えにきてくれた、あの水色の髪のショートボブの先輩だ。


「あの先輩、こういう人だったんだ…」

「すごいでしょ?」


 とミナ。


「でもだいたい、なんでこれを知ってたんだ?」


 今度はレイさん。


「噂で聞いた!」


 待て。ミナとレイさんはこの光景を見せるためだけに俺を食堂に連れて来たのか? まぁ別にいいけど…

 でもあの先輩すごいなぁ… あんなに食っているのにスタイルはかなりいい。どれだけ食っても太らない、そんな人、本当にいるんだなぁ…

 ん!? なんか隣から熱気を感じた。

 俺はミナとレイさんの顔を見た。驚いた…


「あの限定サンド、めっちゃ美味しそうじゃない? あれ食べようよレイちゃん〜! 」

「それもいいけどあの今日限定のネギトロ丼も食べたくな〜い?」


 二人は本日の限定メニューを次々に平らげていく先輩を見て、(よだれ)を垂らしながら興奮している。

 俺は心から理解した。何故世の中に大食い番組があるのかを。


 食事を終えた後、ミナはクラスに戻った。またお化け役、頑張ってください…

 さて、次はレイさんの手伝いか。


「じゃあ行こう、霜太君!」


 レイさんが俺の手を引っ張ってきた。走って教室まで行くつもりか? 食った後なのに。


「その演劇は、具体的には何時からなんだ?」

「えーと、二時!!」

「分かった。って三十分後じゃねぇか!!」

「なんとかなるって!」


 俺たちは急いでその教室へ向かった。

 

 レイさんが教室のドアを開けた。

 

「犬役の人、連れてきたよー!」


 やめてくれ。せめて「代役としてA組の村永君を連れてきた」と言ってくれ。

 教室に入った。すると、黒板側に舞台が作られ、その手前に観客用のイスが並べられていた。

 

「霜太君、こっちきて!」


 レイに呼ばれ、観客用のイスの背後に作られた、何かで囲まれている薄暗いスペースへと連れて行かれた。


「はい、これ! よろしくね! 」

「…………」

 

 レイさんは着ぐるみを渡すと、用があるのかどこかへ行ってしまった。それにしても…

 ちょ! これはないだろう!

 俺の目の前には、確かに犬の着ぐるみがあった。でもそれは、「明らかに見たら分かる着ぐるみの犬」ではなく、「本物の犬と勘違いされるレベルの着ぐるみの犬」だった。つまり、完全に四足歩行仕様だ。

 俺が予想していたのは、よく遊園地とかにいて風船を配ってる系のゆる〜い感じの着ぐるみだった。

 いや、やばいってこれ、人が入ったらマジモンに見えるレベルのやつやん。しかも人間の大人が入るサイズだから…

 犬の種類は…、土佐犬だった。

 俺が着ぐるみと睨めっこしていると、このクラスの男子が一人、話しかけてきた。


「どうかしたの?」

「あ、いや、これ…とてもリアルだね。」


 すると彼は突然グッドポーズをし、


「そう言ってもらえて嬉しいよ! うちはリアル志向なんだ!!」 

 

 と元気よく言って去っていった。マジかよ…

 そうして俺が仕方なく土佐犬に転生しようとした時、床に一枚、台本らしきものが落ちているのを見つけた。

 少し読んでみた。なるほど。とある国のお姫様と王様の結婚後を描くストーリーか。

 なになに、最近朝帰りばかりする妻に夫の王様が理由を聞いてみると、逆に「悪い飲みグセ」、「脱ぎ捨ての服」、「家事を完全に任せっきり」などの様々な理由を突きつけられ、毎月もらっているお小遣いを半分に減らされてしまい…

 って! リアル志向ってそう言うことかい!ったく、いったいこのクラスはどこに力を入れてるんだか…

 その時たまたま、このクラスの女子が入ってきた。そうだ。一つ聞きたいことがあるんだった。


「この王様の役は、誰がやるの?」


 すると彼女は、


「レイだよ。最初はみんな、尻に敷かれるダメ夫役をやりたがらかったの。」

「まぁ、そりゃそうだろうな…」

「そしたらレイがさ、じゃあ私やる! って自分から言い出して。」

「ほう…」

「だから今回はみんなあの子に感謝してる!」


 俺はその言葉を聞いて、レイさんに申し訳ない気持ちになった。

 彼女は「面白い人」などではなかった。彼女はドジだけど…頑張り屋でいい子なんだ!

 今ならミナがすぐにレイさんと仲良くなれた理由が、分かる気がした。

 でもやっぱり彼女ドジだから…



 ついに劇が始まった。俺はまだ出番ではないので、客席の後ろの先程のスペースからそぉーっと見ている。

 レイさんは現在、赤と白と青のラインが特徴的な王様っぽい衣装を着て金色の大きな冠を被っている。

 彼女は赤髪のポニーテールなので、多少男装女子感が出ていた。


 現在、なんとか劇は順調に進んでいる。場面は王様が奥さんに怒られ、お小遣いを半分にされてヘコむシーン。

 俺は今、舞台の隅で寝ているふりをしている。もうすぐレイさんが俺を呼ぶはずだ。

 あ、ちなみに今俺は最高に浮いている。舞台道具などもリアル志向だと思っていたが、全然そんなことはなく普通のダンボールや厚紙製だ。

 すなわち唯一のリアル志向者である俺は、完全に本物の土佐犬だと思われている。

 レイ王子がこちらを向いた。確かセリフは…


「トサちゃん、おいでおいで。」


 そうだ。そのセリフだ。

 俺はレイさんに向かって、ゆっくりと四足歩行を始めた。

 その時何故か、この劇が始まって以来一番大きな拍手が聞こえてきた。

 よく見るとレイさん、正座をしているではないか。その上さらに、ポンポンっと自身の太ももを叩いている。

 え? いいの? マジで!? 

 失礼しまーす。

 俺は、大きな王様の服の上からでも分かる、レイさんの柔らかい太ももの上にゆっくりと顔をのせた。

 すると、


「妻はなんで分かってくれないんだ〜」


 というレイ王様の声が聞こえ、同時に彼女は俺の頭を撫で始めた。

 …土佐犬バンザイッッ!!!



 

 







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