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文化祭当日1

 ついに文化祭当日がやってきた。「ついに」と言う程楽しみにしていたわけでは無いが。

 俺は現在、お化け屋敷のルートの裏で待機をしている。

 俺のやるべきことはただ一つ。ボタン一つで箱から飛び出すでっかいゾンビの起動ボタンを、人が来るたびに押せばいいのだ。なんて楽なんだ。

 さっさと終わらせて、午後は自由気ままに過ごすんだ。

 ミナがやって来た。彼女は恥ずかしそうに


「吸血鬼! ど、どう…? 」


 と、完成した衣装を見せてきた。背中に黒と赤の吸血鬼らしい大きな羽を付け、口には牙を付けている。そして、目には赤色のカラコン。

 素晴らしいと思った。普段の制服の上にこれらをしているだけなのだ。ただそれだけなのに…


「襲われたいです。」

「え?」


 あ! 間違えた!


「とっても、かわいいよ。」


 するとミナは少しニヤッと笑ったかと思うと、


「ありがと!」


 と言って自分の持ち場へ戻って行った。

 

 ガララララッーと、教室の扉が開く音がした。一組目の客だ。

 みんなかなり頑張って作っていたのが実を結んだのか、客の悲鳴が何度も聞こえてきた。

 そしてついに、俺のところに。今だ! とばかりに俺はボタンを押した。

 すると客の


「お、おう…」


 と言う声だけが聞こえてきて、その人は去っていった。

 俺は何と言うかその…悲しい気持ちになった。

 本当は俺はこんな気持ちになる必要はないのだ。だってこの仕掛けを作ったのは俺じゃないし、それに今の人がたまたま驚かなかっただけって可能性もあるし…、なんか墓穴を掘っているような気がしてきたので、ここで俺は考えるのをやめた。

 ミナの持ち場は俺の所からよく見える。彼女の役目はただ急に現れで脅かすだけ。

 ミナの脅かす声と、客の驚いた声が聞こえて来た。少し客がうらやましいと思ってしまったのは内緒だ。

 

 俺のところだけ微妙な反応をされ続けはや二時間。俺の屈強なメンタルが壊れかけてきた時、何やらガサッという音が教室の隅から聞こえてきた。

 現在とても暗いのでよく見えないが、確実にミナの方からだった。


「上に積んでるダンボールが、崩れてきてる…」


 中にはそこそこ重たいものが入っているやつもある。俺は急いでミナのところに向かった。

 ついにダンボールが崩れ出す音が聞こえてきた。


「危ない!」

霜太(そうた)!?」


 俺はミナを押し飛ばし、大量のダンボールの下敷きとなった。


「痛ってて…」


 すると、近くでミナの声がした。


「霜太! 大丈夫!?」

「ああ、ミナこそ大丈夫か?」


 何とか立ち上がろうとした。その時一瞬だけ、辺りが明るくなった。客が教室から出て行ったのだろう。

 ミナが手を差し伸べてくれているのが見えた。そしてまたすぐに教室は真っ暗になった。

 俺もミナの方に手を差し出し、


「よしっ」


 ミナの手を掴もううとした。が、


「ちょっ! どこ触ってんの!」


 と言うミナの声とともに、むにゅっとしたとても柔らかいものを俺は掴んでしまっていた。

 俺は


「す、すいませんー」


 とだけ言って、強引に一人で起き上がり、持ち場に戻った。

 …素晴らしかったです。


 その後少しして、俺とミナはお化け屋敷の本日の役目を終えてフリーとなった。取り敢えず適当に学校中をまわることにした。


「ミナ、さっきはごめんな。」

「いいよ。それより、助けてくれてありがと…」


 何だかミナ、ぎこちないな…そりゃそうか。

 しかし、彼女はすぐにいつもの調子に戻った。


「じゃ、はやく周ろ!」

「お、おう!」


 まず、一階を見ることにした。


「うどん屋に謎解きゲーム、自作映像の上映会か…色んなことやってんなぁ。」


 中学の時は文化祭など無かった。あったとしても全く興味を示さなかったと思うが。

 それに比べて今はだいぶ感情が回復してきている気する。

 文化祭の日は学校中が土足で歩けるようになる。大量のお客さんが来るからだ。なんか不思議な感覚だ。


 「霜太! あれ入ろ!!」


 とミナが脱出ゲームを指差しながら言ってきた。


「そうだな、行ってみよう。」


 クラスは一年C組。基本的に誰も知り合いがいないクラスだ。

 しかし、受付をしていた女子は俺たちをみると、


「今日も有名カップルはお熱いですね〜!」


 と、からかってきた。

 俺たち、そんなふうに思われていたのか? まぁ普段の俺たちから、カップルだと思われるのは仕方がないことだとしよう。

 でも有名か!? ミナはまだしも、俺なんて学年全体のうち関わったことがある人が四、五人くらいしかいない人間だぞ? 

 どうせこんなのは、一部の人らが面白がって言っているだけだろう。

 でも当然、これを言われて喜ぶ人が隣にいるわけで…


「へっ、えへへ…カップル、私と霜太…」

「お〜い、ミナ戻ってこーい」


 俺たちは、奇妙な装飾がされている教室に入った。ここのクラスは教室を四等分して、四つの部屋を作ったようだ。

 一組につき一部屋、自分たちが入れられた部屋にある色々な仕掛けや暗号をクリアしたら脱出成功というわけだな。 

 

 なかなか難しい。最初はそんなに本気になるつもりは無かったのだが、いざやってみるといつの間にかのめりこんでしまっていた。

 すると、ついにミナが


 「霜太、この暗号これでいいのかな…?」


 と、最後の暗号を解いて見せた。

 その瞬間、裏からクスクスと誰かの笑い声が聞こえてきた。

 その後、俺はミナのいう「暗号」の答えを見て全てを理解した。今回の脱出に必要な暗号の答え、それは…


「私たちはラブラブのカップルです…か。なるほど。」

「これでいいのかな?」

「ま、これで合ってるんじゃないか…?」


 すると部屋の外から、


「では、それをお二人で読み上げてください!」


 と言われた。別に読み上げるくらいならいいか。俺は一応ミナに


「ミナ、これはあくまでもゲームだ。ゲームだからな。」


 と言って、それから二人で


「私たちはー、ラブラブのカップルでーす。」

「私たちはラブラブのカップルですっ!」


 こうして俺たちは無事脱出に成功した。


 その後俺たちは何となく、最上階の四階に上がってみることにした。

 階段を上っているとミナが、


「さっきの霜太、運動会の選手宣誓みたいだった!」


 と笑ってきた。


「っふ、うるせーよっ。まぁ、否定はしないけど…」


 おそらくあのクラスの奴ら、あえて「四つ」の部屋を作っている。その理由は多分、効率を良くするためではない。

 客によって()れる部屋を変えるためだ。俺たちの場合は、仲が良さそうな男女だったから上手いことカップルにしてやろうと思い、あの部屋に入れたんだろう。

 それをミナに話すと、


「じゃあさ、そこに来た仲の良さそうな男女が本当はもうすでに付き合っていたらどうなるの?」


 と聞いてきた。

 そんなの簡単だ。例えその男女が本当に付き合っていたとしても、


「その場合はあの文章をラッブラブに読み上げて帰っていくだけだから何の問題もない。」


 ったく、これだから恋愛脳の奴らは…。俺は本気の恋にしか興味の無い人間なんだ。…って何言ってんだ、俺?

 

「私はいつか、霜太と別の関係になった上であの言葉を読み上げたい。」

「……今日の俺への告白これで五回目。今日は後何回言うかな。」

「何回でも言うよ! この光田(ひかりだ)ミナに誓って!!」

「……うん。」


 こんな話を繰り広げていたら、


「うわぁ…すごいね!」

「ああ。なんか感動した。」


 ついに最上階の四階に着いた。驚いた。誰もいない。

 と言っても四階は音楽室と美術室があるだけなので、普段から移動教室の時以外ほとんど誰も通らないのだが、今日は何か違う。

 何だろう、この感じ。下はものすごい人なのにここだけ別空間のようだ。妙に開放感を感じる。

 すると突然、


「霜太君、ミナ! 何で…こんなところに…」


 振り向くと、そこには陽高レイさんがいた。何故かすごく息を切らしている。


「レイさん、どうしたんだ?」

「ウチのクラス演劇をやるんですけど、実は王子…」


 まさか、王子欠席!?


「…の飼っている犬役の人が突然早退しちゃって、代役を探してるんです…」


 なんだ、犬か。それなら人形とかでも…


「だから丁度よかった!」


 レイさんが、俺の手をがっしり掴んできた。え? ちょ!? まさか…


「お願いします! 霜太君!! どうか犬役やってください!!!」

「え、えええええええぇぇぇぇぇぇ…」

 


 

 




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