幕間2 嫁と妹と
「お兄様♪」
「どうした」
「えへへ、何でもないわ♪」
「そうか」
仲睦まじい兄妹のお手本とも言えるような会話だが、このやり取りも既に五回目である。
「ユリーナちゃんは本当に、ラクール様の膝の上が好きですね」
「うん♪
夜はセレンお姉様に独占されちゃうから、お昼の間だけでもお兄様に抱っこしてもらいたいの♪」
ふと、妹を膝に乗せていた皇帝が固まったように見えたが、元から微動だにしていなかったので気のせいだろう。
「大丈夫ですよ、ユリーナちゃん。
そのうち"夜も抱っこ"してくれると思いますから。そうですよね? ラクール様」
「お兄様、本当!?」
二人に問いかけられ、皇帝の横顔に一筋の汗が流れる。
恐らくは妹を膝の上に乗せて暑いのだろう。
それをおくびにも出さずに我慢するとは、何と妹思いな兄である事か。
「ふむ、夜が寂しいと言うならば、寝室に来ると良い。三人で眠れば、寂しさも癒えよう」
「ありがとう♪"そっち"も楽しみにしてるわ♪」
「うふふ」
そっち?
と、この場で問い掛ける者はいない。
無邪気なユリーナの事だ、きっと可愛らしい二択なのだろう。
皇帝も微笑ましさのあまり、口端が少し引き攣ってしまったようだ。
「ところでユリーナよ、ここにある服は何だ?」
今、三人が居る場所はユリーナの私室だ。
普段から可愛らしい人形などが飾ってあるのだが、今日はその部屋の中央に服を着た人形が数体置かれている。
「そうそう!
今日お兄様に来てもらったのは、ユリーナのお洋服を選んでもらいたかったからなの♪」
「ユリーナちゃんが前から集めていたお洋服ですからね。可愛らしいものばかりです」
「ふむ」
人形に着せられている服は、いずれもフリルをあしらった可愛らしい衣装だ。
「確かに可憐な衣装だ。
お前が着たらどれも似合うことだろう。しかし……」
そこでふと疑問に思う。
「なぜ、"ウエディングドレス"なのだ?」
そう、ここに飾ってあるのは、いずれも白や黒を基調としたウエディングドレスだったのだ。
「正解! お兄様は流石ね♪
少し気が早いとは思ったんだけど、やっぱりユリーナはお兄様に選んで欲しかったの……ダメ?」
このくらいの年齢なら、結婚にも憧れるものだろう。
可愛らしい少女の夢だと言える。
「別に構わん。
そうだな、お前には黒が似合う。
この衣装が良いだろう」
そう言って一着のドレスを指差す。
「ありがとう♪
お兄様のお嫁さんになるんだから、
やっぱりお兄様が一番気に入った服で式を挙げないとね♪」
ユリーナが嬉しそうに説明をする。
幼い少女が父や兄に対して、将来結婚したいと言ってしまうのは、どこの世界でも変わらない事なのだろう。
微笑ましい光景だ。
「後は式の種類何だけど、バルファス式かシンフォード式、それから……
……
……
で、このくらいの人数で開きたいんだけど、どうかな?」
「ふむ」
ユリーナが嬉しそうに説明する。
結婚式の形式から、場所、費用人数その他諸々すべてを決めていく。
もはや決まっていないのは日程くらいの物だが、これもやはり微笑ましい少女の夢だと言え………
……言えるはずだ。
皇帝など、微笑ましすぎるのか小刻みに震えているくらいだ。
妹が可愛くて仕方がないのだろう。
「ユリーナが決めた事だ、俺に異論は無い。
……そういえば急用を思い出したな、俺は行く」
そう言って皇帝は、妹を椅子に置いて立ち上がる。
よほど急ぎの用なのだろう。
可愛い妹を名残惜しそうに一瞥した後、足早に出ていってしまった。
後には少女二人が残される。
「やりましたね、ユリーナちゃん」
「うん♪」
二人が両手でハイタッチを交わす。
「これでユリーナも、お兄様のお嫁さんになれるのね♪
……でも、お兄様はまだユリーナの事を妹としてしか見てくれていないみたい。少し寂しいわ……」
ユリーナがうなだれる。
「大丈夫ですよ、ユリーナちゃん。
結婚さえしてしまえばこちらのものです。まずは誓いのキスで、ラクール様に意識を向けてもらいましょう」
「うん……うん! そうよね!
ありがとうお姉様♪
その為にも、まずはお姉様の結婚式を先に挙げなくちゃね! ユリーナも協力するわ!
……もちろん、どんな手を使ってもね♪」
「ありがとうございます。
……どんな手を使っても、ですね」
「えへへ♪」
「うふふ」
少女達の密約……もとい談笑は、しばらく続けられた。
お読みいただきありがとうございます。
これにて第一章は終了です。
第二章は仕事と新作の兼ね合いで、不定期投稿になります。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。




